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悪女の選択――愛される資格などないはずだった  作者: 音香(Otoca )


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残る感覚

クラウス、ラルフ、オスカーは軽装に身を包み、手にはそれぞれプレゼントを持ってバルトの家の扉を叩いた。



しばらくして、扉がゆっくりと開く。



「こんにちは」


出迎えたのは、笑顔のリリアだった。


顔色は良く、体つきも健康そのもの。


以前より少し柔らかくなった雰囲気に、愛されて暮らしていることが伝わってきた。


その姿を見て、ラルフは胸を締め付けられる。



――自分といた時、こんな顔をしていただろうか。


いつも周囲の顔色を窺って。

無理をして。

倒れそうになりながら立っていた。


そんな姿ばかりを思い出す。


ラルフは静かに視線を伏せた。



応接室へ通され、三人はソファーに座った。


形式的な挨拶を交わしていると、リリアがお茶を淹れて運んできた。



「どうぞ」


全員の前に丁寧にカップを置いていく。



「いただきます。……美味しいですね」


オスカーが口にする。


「本当だな」


ラルフも小さく笑った。



リリアはバルトの隣に座る。


「この茶葉、この国の原産なんです。香りがいいですよね」


目を輝かせながら話す姿は、とても自然だった。


「この茶葉、帰りに買えたらいいな」


ぽつりと零したラルフに、リリアが明るく言う。


「明日、一緒に買いに行くのはどうですか?」


ラルフは一瞬だけ目を見開いた。


だが、すぐに柔らかく笑う。


「よろしく頼む」


穏やかな時間だった。


そのまま和やかな雰囲気で夕食を終え、それぞれ客間へ分かれる。



ラルフは一人部屋。


オスカーとクラウスは二人部屋だった。


ラルフは寝支度を整えると、濡れた髪のままベランダへ出た。



椅子に腰を下ろし、部屋に下がる際にもらった強めの酒をゆっくりと飲む。


生暖かい風が心地よかった。


ただ、朝が来るのを静かに待っていた。




翌朝。


ラルフはキッチン横のスペースで、自分で淹れた珈琲を飲んでいた。


「おはようございます。早いんですね」


振り返ると、リリアが立っていた。


「おはよう。仕事柄な」


ラルフは邪魔になるかと思い、そのまま部屋へ戻ろうとする。


「あっ、あの……」


リリアが呼び止めた。


けれど、その先の言葉が出てこない。



ラルフは振り返り、静かに待った。


リリアは困ったように視線を揺らした。



ラルフは優しく微笑み。


「またあとでな」


そう言って、そっと頭を撫でた。


そのまま部屋を出ていく。



リリアはその場に立ち尽くしていた。


(……あの手、知ってる)


胸が締め付けられる。


気づけば、涙が溢れていた。


なんで泣いているのか分からない。


けれど―― 忘れてはいけない気がした。



リリアは一人、しゃがみ込んだまま静かに泣いた。



リビングには皆が起きてきていた。


リリアは朝食を机に並べながら、いつものように笑う。


「おはようございます」



「おはようございます」


オスカーが手伝うために側へ寄った。


その時、リリアの目が少し赤いことに気づいた。


「目、大丈夫?泣いたのか?」


そう言って顔を覗き込む。


目が合った瞬間―― リリアの頭に、映像が浮かんだ。



『ローゼン卿、強制終了だ』


意地悪そうに笑うオスカー。


聞き慣れた声。


その瞬間、手に持っていた皿が滑り落ちた。



ガシャン、と大きな音が響く。



全員の視線が集まった。



「あー、ごめん。驚かしちゃったか」


オスカーはそう言って、割れた皿を拾おうとする。



リリアが、震える手でオスカーの頭を撫でた。



オスカーははっと顔を上げる。


リリアの目から、涙がこぼれていた。


「そんなに驚かせちゃったか?」


オスカーは慌てる。



リリアは震える声で言った。


「ローゼン卿……誰ですか」



その言葉に、全員が固まった。


バルトがすぐにリリアの側へ寄る。


「少し休んだ方がいい」



そう言って肩を抱き、部屋へ連れて行った。


しばらくして、バルトが戻ってくる。



「少しずつ記憶が戻り始めているんですか」


クラウスが問いかけた。


「おそらくな。ふとした時に、断片的に思い出しているみたいだ」



「我々は来るべきじゃなかったか」


ラルフが静かに言う。


「すみません……俺が近くに寄りすぎました」


オスカーは顔を伏せた。


ラルフはしばらく黙っていた。


やがて、ゆっくりと口を開く。



「リリアの、心から満たされた笑顔。初めて見た気がしました」


誰も何も言えない。


「俺には、あの顔をさせてやれないと気づかされました。彼女の本当の幸せを願うなら……俺はいなくなった方がいい」


「本気か」


バルトが低く問う。



「彼女の目が赤かったのは、朝会った時に何かを思い出したのかもしれない。俺は、彼女に笑顔じゃなく涙しか与えられない」


しばらく重い沈黙が落ちた。




次の瞬間。



「ごめんなさい!」


明るい声が響く。


リリアがリビングへ戻ってきた。


「また私、変な雰囲気にしちゃって」


無理に笑っているようには見えなかった。


「今日は団長さんと茶葉屋さんに行くんだから、早く朝食食べましょ」


皆は一瞬固まった。


けれど、すぐに小さく笑う。


「そうだな。よろしくな」


ラルフが答えた。


「片付けは俺がします」


オスカーとクラウスが割れた皿を片付け、皆で朝食を囲んだ。

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