98 聳え立つ聖堂
リーザが着せてくれたのは純白のドレスだった。雪国だという事で選んだ逸品である。高級な絹で作られたそれはとても手触りが良く、気持ちがいい。
胸元には紅い宝石があしらわれていて、雪の上に落ちた鮮血を思わせる。
いや、これは個人的な考えだ。
このドレスを仕立てた人間は純白の上には紅が映えると考えたのだろう。
「まるで聖女様のようですね」
聖女……不死である私はむしろ対極に位置する存在なのではないかと口から出かかったが、それをそっと飲み込んだ。
道中馬車の中で考えていたことが原因だろうか? 暗い方ばかりに物事を考えてしまう。
着替えを済ませ、馬車から降りると見慣れない二人の男が立っていた。彼らは白に金をあしらい、神々しさを前面に押し出したような神職の衣を纏っている。左手には本―ー聖典だろう――を持ち、顏よりも大きい帽子をかぶっている。
よくよく観察してみると二人の男で帽子の高さや装飾が異なっている。
「遠路はるばるよくぞいらっしゃいました。私はこの教会で神職に付く者。神父レゾルでございます」
より高い帽子を身に着けた男が軽く会釈しながら自己紹介をする。
「……レゾル様の従者、レアンでございます」
次に少し遅れてもう一人の男が名乗った。
帽子が高い方が位が高いという事だろう。そして、彼らが名乗ったのは本名、元々持っている名前ではない。神から頂いた名、洗礼名だろう。
「この度はお招きいただきありがとうございます。私はブリュンヒルド・フォン・ベルクでございます」
私は頭を深々と下げて挨拶をする。ここに無知な貴族でもいれば、一国の王たる者これ程までに頭を下げるのは逆に失礼にあたるとどやされるかもしれない。しかし、神職に付く者への礼儀はこれでいいのだ。
私は彼らに、引いては彼らの崇拝する神に挨拶をしているのだから。
「従者のリーザでございます」
「護衛を務めております。ラルフでございます」
私に次いでラルフとリーザが頭を下げる。
「ここはお寒いでしょう。さぁ、こちらへ」
巨大な聖堂に似つかわしい大きな扉。勿論、そんな荘厳な扉が立った数人のために開かれるわけもなく、隣に設えられた小さな扉を差す神父レゾル。客人である私達は彼らに導かれるまま、建物の中に入って行った。





