97 雪は私の色
ミトスの国はとても静かだった。整備された石畳の道、その周辺に立つ建物。荘厳とも言える程綺麗な街並み。しかしそれに華を添える人々の影は皆無。道の真ん中を馬車が堂々と、淀みなく走り続ける。
密閉されているとはいえ、暖をとることが出来ない馬車の中は相当な冷え込みだ。ラルフはローブを幾重にも被り、体をさすっている。リーザは無表情のままいつもの恰好である。厚着をするように促したのだが、伝統ある制服を隠すことは出来ないと断られた。
私はと言うと……そこまで危機的な寒さは感じない。感覚が麻痺しているわけではない。寒いのはわかる。体が芯まで凍えている感覚はある。しかし、不死である私の体は強い訴えをしない。六年間の全く変化しない私のわずかな変化と言える。
痛みや、過度な暑さや寒さ。そう言った生死にかかわる身体の変調に鈍くなっているように思える。死と言うものが遠い存在に思える。
死の存在が遠いと言うのは他の皆でも変わらないかもしれない。安全で健康な人間が明日死ぬと強く思って日々を生きていないように……だが、私は六年前の戦場であんなに近くで死をみたじゃないか。隣に死を感じ、実際私は死んだ。
いや、だからであろうか?
生と死を体験したからこそ、私の意識はその間で迷っているのかもしれない。生きている実感も、死が隣にいることも曖昧になっているのかもしれない。ならば、今の私は生きているのだろうか? 死んでいるのだろうか?
やめよう。結論の出ない自問自答。最終的な着地点としては、私の生死など関係ない。これからの民のため、国のために役目を果たすだけ……アルビーナもこんな心境になっていたのだろうか?
ぼんやりと外を眺めているとふわりふわりと降り立つ雪が見える。それは馬車の窓に付着しては跡形もなく消えゆく。窓越しに見上げた空はどんよりと黒い。
雪は好きだ。黒い雲から産み落とされた純白の子供達。昔お母様が「貴方の肌は雪の様に白くて綺麗ね」と言ってくれたことがあった。幼い私でも、この白い肌を快く思わない者達がいることはわかっていた。それでもお母様に褒められたことが嬉しかった。
その頃から雪には親近感に似たものを感じている。
巨大な建物を前に、馬車が止まる。目的の場所に着いたのだろう。窓越しに見える建物は大きすぎて全貌が見えない。空に夢中にならず、正面を見ていたならば見えたのかもしれないが、すでに遅い。
前方の小窓から見えるルッツが降車の準備をしている。
「さぁラルフ、さっさと出て行ってください。ただ今より姫様のお召し替えの時間です」
馬車内の暖かさに名残惜しそうな表情を見せるラルフを乱暴にリーザが排除する。
「寒い‼」
外で叫ぶラルフを無視し、小窓に取り付けられた小さなカーテンを全て閉じ、リーザが支度を始めた。





