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不死姫  作者: 秋水 終那
第二章 不死の姫と勇敢な騎士
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72 軍勢


 目の前にいる兵士の胸を突き、兜と鎧の間に穂先を刺し入れ、石突で兜を殴打する。逃げ腰の兵士であっても容赦しない。


 奪え。


 最早お前たちを人とは思わない。


 奪え。喰らえ。


 獣に劣る畜生共め。


 奪え。喰らえ。己が力にしろ。


 私の意識の中に誰かが呟く気がする。命を奪えと、喰らえと、力にしろと。大切な人を傷つけられた怒りの中に紛れ込み、何者かが私の意思に潜り込もうとしているような気がする。


 さぁ呼び覚ませ、不死の軍勢を。


「不死の軍勢(エインヘリアル)……」


 無意識に出た言葉には覚えがある。それはアルビーナの書物に書かれていた……ベルクの地を守ったヴァルハラの力。私が呪いと呼んだ忌むべき力だ。


 私の言葉に呪いの聖槍が反応する。幾本も伸びる黒い影を伸ばし、転がった死体を包み込む。影が引き、ヴァルハラへと戻った直後。死体たちが自らの力で立ち上がる。転がった剣を取り、私の前へ集まり膝をついた。


「なんと目見麗しい王であろうか。貴方様にかしずくため、死者の体を借りヴァルハラより参上いたしました」


 一つの死体がそう告げる。


「一体何だと言うのだ貴様は!」


 やや遠巻きにこちらの様子を見ていた指揮官が叫びを上げる。生き残っている帝国兵は腰を抜かし、声も出ない様子でる。


「さぁ我らが王よ。なんなりと」

「殺せ、帝国軍を滅ぼせ」


 帝国兵の死体だった彼らは立ち上がり、しっかりとした足取りで進みだす。それを見た指揮官と生き残りたちは自陣に向かって走り出した。


「待て、追わなくてもいい」


 これ以上は必要ない。奴らに恐怖を叩き込んでやったのだ。精々自陣に引きこもって恐がるがいい。


「姫様!」


 走り寄ってきたのはリーザだ。ボロ布が捲れ上がり、あられもない姿を晒しているが気にしている様子はない。


「ご無事でしょうか」

「リーザ……」


 彼女の顏を見ることで底なしに思えた怒りが引いていく。


「リーザ……貴方こそ無事なの? こんな傷だらけで……お願いヴァルハラ、彼女を治して」


 ヴァルハラの影に包まれ、何事もなかったかのような綺麗な体へと戻る。しかし、彼女に刻まれた痛みはそれだけではなく、この奇跡を使ったとしても癒えることはないであろう。


「ごめんね! ごめんねリーザ!」


 私は彼女を抱きしめた。衣服を着ていない彼女の体は、少し冷たくなっているが、自分の心がじんわりと温かくなるような気がする。この時ようやく彼女が生きてもどったのだと言う実感が湧いた。


「こんな私だけど、貴方はついて来てくれるかしら?」

「勿論でございます。不肖リーザ、姫様のために全力を持ってお供いたします」

「お帰りなさい、リーザ」



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