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不死姫  作者: 秋水 終那
第二章 不死の姫と勇敢な騎士
46/99

46 暴君


 剣や槍が盾へとぶつかりあう金属音。黒の怒号と銀の怒号が鳴り響き、戦場を満たす。徐々に広がる血の臭いに吐き気を催しながら眼前の戦いを見下ろす。


「第二波が来るぞ! 構え!」


 訓練の見本のような動きで弓に矢を番え、引き絞る。こんな状況でなければその洗練された動きに感嘆の声を上げていただろう。


「放て!」


 弓を指揮する部隊長の一声で一斉に放たれた矢は弧を描き黒塗りの暴力へと降り注ぐ。第一波はこの攻撃をもって凌いで見せた。しかし、それは機動力に重きを置いた軽装の部隊が相手だったからである。致命傷を与えるのは難しいが露出した肌に刺されば行く手を阻むことが出来る。


 だが、第二波として投入されたのは重装の歩兵たち。動きは鈍重であるものの鉄壁の鎧に阻まれ、矢は間抜けな音を立てて地へと落ちる。


「壁を開けろ! 直剣部隊前へ!」


 ラルフが高らかに叫ぶ。すると盾を並べた防壁が中央から開き、軽装の直剣部隊を排出しすぐさま閉じる。


「無理はするな、殺す必要はない! 動きで翻弄しろ!」


 碌に武器も触れない程重量な鎧を着こんだ帝国兵は、こちらの軽装部隊の動きを捕らえることは不可能だ。そして人が動くための隙間が鎧には必ずある。そこを正確に突き、傷を負わせることが目的だ。


 彼我の戦力差を少しでも埋めるために、時間をより稼ぐために我々の最善手は相手に出血を強いる事。怪我を負わせ、血を流させる。帝国兵に怪我を追えば回収にも治療にも人員が必要になり、治療のための道具や器具を消耗させることも出来る。


 これはアルビーナの書物を読んで学んだことだ。彼女らが考えた末に辿り着いた、圧倒的な戦力差と戦うための知恵である。


 この作戦を話した時にはラルフを含め、多くの騎士団員から不満の声が出た。騎士道とは何であろうかと。だが私はくだらないと一蹴した。騎士の誇りで国を、民を守れるのか。その精神で絶対的な戦力差のある帝国を退けられるのかと。


 勿論、誰もが口をつぐんだ。


 なりふり構っている場合ではないのだ。例え騎士道から外れようが、人道から外れようが……守るべきもののために何でもしてやる。


 心が進まぬと言うなら命じるまでだ。国王の名のもとに、命ぜられるままに仕方なくしたことだと言えばいい。後の世に悪王だの暴君だのどれだけの悪名が付こうが構うものか。そうやって語り継がれる国が残っていることを私は喜ぼう。



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