28 会議
あの夜から数日が過ぎた。
「早急に手を打たねば混乱は広がるばかりだ」
発言したのはベルク騎士団の長でありラルフの父、テオドール。現在城内の一室で行わている会議には、現状国の最高責任者である私と従者のリーザ、騎士団長テオドールとその息子にして実力も申し分ないと認められたラルフが参加している。
議題は現状の確認と問題点の洗い出しだ。
あの夜起きた山崩れの後始末は南同様に道幅が狭く、人手があっても遅々として進まない。幸い、集結した帝国軍に今だ動きはなく、状況は停滞していた。逃げ道を失った国民の間には不安や混乱が広がりつつある。
帝国軍に動きがないことは不気味であり、一時も警戒を解けない。しかし今一番の問題となっているのは国民たちの心だ。強大なブーゼ帝国が迫り、逃げ場もなく国を導く国王は不在なのだ。落ち着け、安心しろなどと根拠のない言葉は逆効果であり、暴動の種になりかねない。今ここに皆を安心させる材料は存在しない。
「やはり父上――騎士団長殿、この状況を打破するためには民を導き崩落した土砂の上を越えていくしかないのでは」
「無理ではないが危険だ。越えている最中に再び山崩れが襲うかもわからん上に足場も不安定だ。これ以上の死者が出れば皆の心が押しつぶされてしまう」
「テオドール殿、迂回路は如何でしょう」
リーザが言っているのは、こう言った北への出口が塞がれてしまった場合に山を登り越えるための道を指している。
「あの道は老人や子供には越えられんだろう。越えるにしろ最低限の食料を運ぶのがやっとだ。財産をここに置いていくことを酷く嫌う者もいる」
危険が差し迫った中、財産などと言う声もあるだろう。しかし、自身が築き上げてきたものをそう簡単に捨てられる人間がどれだけいるだろうか。不安に不満を上乗せし苦労を強いる道は心の危険も大きい。
打開策よりも溜息が多い仮の会議室に扉を叩く音が響く。
「入れ」
テオドールが短く入室を許可する。
「失礼いたします。山崩れの原因調査報告でございます」
あの山崩れには不審な点が多い。まず今までにあれ程大きな崩落はベルク王国の歴史上、確認されていない。山崩れの寸前に聞こえた轟音も奇怪であり、何よりも崩落の時機が帝国に都合が良すぎる。
「騎士団長の仰っていた通り、崩落が起きた場所には焦げ跡がございました」
「最悪だな。現状をドン底まで叩き落す程の凶報だ……」
焦げ跡……つまりあの山崩れは偶然の自然災害ではなく、火薬を使って人為的に引き起こされた人災である事実を突き付けていた。
ご報告頂いた誤字を修正 2020/07/31





