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7.別れ







「ダース、貴方……」

「私は二つの顔を持っていました。貴女の母親を殺した咎人としての顔と、貴女の母親代わりとしての顔――最初は前者だけが大きくて、どう苦しめてミレイお嬢様を殺そうかと、そればかりを考えていたのです」


 掠れた、しかしよく通る声でダースは語った。

 自らのこれまでの行いを素直に、憂いを失くすように。


「でも、できなかった……。たとえ貴女の母親が憎くても、貴女は私の愛したあの人の娘ですもの。どっちつかずな気持ちのまま、私はあの日――貴女に一発の銃弾を放った。だからでしょうね、それはミコトちゃんによって阻まれた」


 口の端から、一筋の血を流しながら。

 それでも今までのことを語ろうと、必死に。

 彼はその顔を涙で、くしゃくしゃにしながら懺悔するのだ。


「私は決めました。この子――ミコトちゃんが、あの日に冗談めかして賭けた王子様なら。私がそれを認められたら、潔く身を引きましょう、と」


 俺の頭を撫でながら、ダースはそう笑った。

 そして、こう叱咤激励する。



「ほら、王子様がそんなに泣き崩れていてどうするの? 貴方はその手で、間違いなくお姫様を守ったのよ。悪い魔女の手から救い出した英雄なのだから」――と。



 それを否定したかった。

 ダースはそんな人間ではない、と。

 たしかにミレイが憎かったのかもしれない。だけどきっと、その何倍も、何十倍も、ミレイのことを大切に想っていたに違いない人だったのだ。


 その終わりが、こんなのって――ないだろう?


 たしかに、ダースの犯した罪は拭いきれない。

 それでも彼が彼女を愛した気持ちは、計り知れないものだったのだから。


「みんな! ――ダース!?」

「ミコト!!」


 その時だった。

 地下室に、アカネとアレンが現れた。

 彼らは血相を変えて、俺たちのもとへと駆け寄ってくる。


「二人とも、無事だったのか……」


 束の間の安堵に、俺も力が抜けてしまった。

 すると同時に――。



「……ダースっ!」



 力尽きたように、大きな身体がすり抜けるように倒れ伏した。

 みんなが彼を囲み仰向けに起こす。アレンは止血を試みるが、それでももう間に合わないことは明白だった。何よりも、俺の目にはそれが見えるのだ。



 あと――1分。



 なにか、彼の生涯の手向けに相応しいものはないか。

 考えるが、まるで思いつかない。


 焦燥感が全身を覆いかけた。

 その瞬間――。



「ミレ、イ……?」



 おもむろに、ミレイがダースへと歩み寄った。

 そして静かに目を閉じ、




「ありがとう。大好きな――」




 こう口にする。






「大好きな、お母さん」――と。






 ――あぁ、それはなんて慈悲深い言葉なのか。

 なんてそれは、清らかな感謝なのか。

 俺は見た。



『お世話に、なりました……』







 最後に、言葉にならないけれども、ダースの口がそう動いたのを。

 彼は最期にいつもの微笑みを浮かべて、息を引き取った。





 大切な、家族たちに看取られながら……。




 


次回からエピローグ!

よろしくお願い致します!!

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