真実を手繰り寄せて
ど、どうも…へへ…今更続きを出しました…
暗闇の森をLEDライトで照らしながら馬で駆け抜けていく俺達先発隊。ある程度整地されてるとはいえ、森の中では無理にバイクなどを使うより馬を使った方がいい時もある。乗馬経験なら部活時代にやったことがあった。何が使えるか分からないもんだな。残念なことに流鏑馬をマスターできなかったことが心残りだ。
先発隊の人員詳細としては教団監視組織ラグエルの一部人員と戦闘経験に長けた姫。守護龍2人。これ以上の戦力は用意できない。現在における最高戦力と言えるだろう。上空ではアドバンスド・リーパーが常に対地警戒を行なってくれている。敵の心配をする必要はない。
「で、とりあえず着いたわけだが…。何かわかることはあるか?」
「そうですわね。ひとまず、点と点の結びつきを探す必要がありますわ。高度な転送魔術はより遠距離に行くことができますが、座標も結果的に分かりやすくなりますわ」
「見つければこっちの勝ち。奴らを追い詰められる」
「意外と簡単なのね…?」
「そうですわね。しかし囮を摑まされたらそれだけ時間を食わせられるというもの。上手く探る必要がありますわ」
「囮?ダミー回線みたいなものか?」
「ダミー回線?というものがどんなものか分かりかねますが、偽の座標を掴まされたら無駄足を踏むのは間違いありませんわね」
「この魔法陣はダミーが4つしかない。珍しい」
「少ないものなのか?」
「普通は20か30あってもおかしくない。多い時は100以上ある」
「あの時は総当たりで1から全部ぶちのめしていきましたわね。懐かしいですわ」
ルンレイはにっこりと笑いながらそう言っているが、ブルートフォースアタックをかけるなんて正気じゃない。100以上ある座標に向かって攻撃を仕掛けたことになる。聞くたびにやってることがイカれてるとしか思えない。
アヴァロンが調べている間に俺も自前の機器で周囲を調査していると、俺がルンレイに渡していた端末に連絡が入っていた。何を話してるかは聞こえないが。
「話してしまう?例の情報を?」
《隠しても理由もないでしょう。彼女が何者なのか。私達が得た情報を全て話した方が行動に影響は出ないかと》
「賛成ではありますけど」
《なら問題はありませんね。頼みますよ》
「分かりましたわ。ハインド公爵。少しお話しがあるのですけれど。よろしいでしょうか?」
「え?あぁ。いいけど…」
ルンレイから聞いた話は、正直言って信じられなかった。いや、信憑性云々の前に困惑してしまう。なぜ今話したとか、そんなことはどうでもいい。無理心中だと?シャルロットの母親が?本人と?現に彼女は生きている。そんなわけがない。
「ありえない、って顔してますわね」
「あ…当たり前だろ⁈無理心中させられて死んだ人間が目の前にいるって言われて誰が信じるよ⁈」
「私達も正直なところ、確信を持って言えてるわけではありませんわ。しかしながら9割の確率で間違いありませんわ」
「無理心中した人が生きている…。なんでなの?ルンレイさん」
「それは」
「私が説明する。私が1番知ってる」
「アヴァ。解析は済んだんですの?」
「無論」
「なら私はパスを開きますわ。ルンレイ。分かりやすく頼みますわよ」
「分かってる。ハインド公爵。マリー夫人。今から説明する。パスを開けるのは早い。一度しかしないからよく聞いて」
ルンレイとアヴァロンがラグエルを通して手に入れた情報の全容。それは、追い出された一族の物語だ。
シャルロットの生まれの国。イスカリオテ公国。彼女の国は伝説にある種の能力をその身に宿した一族から始まった。不気味がられ、忌み避けられてきた彼らは何より火属性の魔法だけはピカイチ。暖を取りにくい地において重宝される魔法だった。
しかし、彼らの真実とはこんなものではない。一族において、ただ1人だけが受け継ぐことができる神の如き力。大量の魔力を保持し、どれだけ怪我をしても即座に修復される。その力を不老不死の奇跡と呼んだ者もいた。イスカリオテ公国として民が集まり、国家として成り立ち、連邦政府に加盟したあとも彼らの存在は伝わり続けてきた。
…厳密にはこの力は不老不死などではない。その人物の寿命となる特定の年齢になるまでは怪我をしても直ぐに治癒し、死んだとしても息を吹き返す。そして寿命になった瞬間、派手に燃え盛り赤子として再び蘇る。この一連の流れを繰り返す、いわば死と生が表裏一体の存在。
過去の一説によると、記憶は失われることなく受け継がれるという。だがこのような流れを繰り返す中で、王となる受け継いだ人間は心が崩壊。もはやどうにもならないところにまで追い込まれてしまうらしい。記憶継承を可能にしてしまうが故の、欠陥だった。
しかしカレンの仮説では、一族はその力を代々改良してきた可能性があるという。そうでなければ次世代への『引継』すらもできない。おまけに悪用された際の安全装置まで追加して。これまた彼女が名付けた、その安全装置こそが『評議会』と呼ばれるシステム。どういう仕組みかは不明だが、王に相応しい存在かどうかは血が選ぶ。そして後に王が相応しく無いと判断された時、強制的に力が委譲され候補者の1人に行くこともある。
確かな情報の一つとして、引継の儀式では所有者の血と候補者の血を互いに触れさせる。この際、もしも『評議会』のメガネに適わなかった場合は全身の血が沸騰し始め、全身が燃える。そして一分もしない内に死ぬという。これをまだ年端もいかないシャルロットに力を受け継いだ母親が実行。2人は身投げして心中した。
狙っていた刺客は、赤子も死んだ。母親も死んだ。であれば後継者は他にいるはずだと判断してあっさり撤収した。息を吹き返してから泣き始めたシャルロットは継承のタイムラグに救われて教会に拾われた。そして母親の死から、まだ生きているはずだと信じていた人物によってシャルロットは見つかり、イスカリオテ公国の皇女として迎え入れられた。
「最後にどこで情報を得たかは知らないけど、シャルロットが後継者である可能性を試すために例の事件を発生させ、奴らは確証を得た」
「あとはこのザマってわけですわ。判断と行動が早い割にやり方は雑過ぎるとは思いますが」
「まるでおとぎ話だな…」
「伝説。おとぎ話。そう言われてもおかしくない。しかし事実は小説よりも奇なり。現実は想像を遥か上を行っていた。間違いなく、あらゆる思惑が絡まった状態でシャルロットは誘拐された」
「諜報員の話が確かであれば、現状把握できてるだけで勢力は3つありますわ」
「3つあるの?」
「1つは現イスカリオテ公国の頂点。多数派の王室派。1つはある一族のみが内部を知る秘密主義派。最後は…」
「最後は?」
「シャルロットさんの血を無理矢理受け継ぐことで自らこそが皇帝に相応しいと叫ぶ血気盛んなバカとアホ共の烏合の衆。誰が呼んだか純血派。こんなところですわね」
「混迷状態だぞ…まともに政府を運営できてるのが奇跡的すぎる」
「そこは力を受け継がなかった今の陛下や臣下達の賜物ですわね。事実、力があろうと無かろうと民に必要なのは秩序であって内部紛争ではありませんし」
彼女達は自分らがやるべきこと。なすべきこと、できることをよく理解している。だからきっと、余計なことはしないんだろう。
この世は闘争で溢れている。組織、個人、一族。どれにだって人が関わりを持てば、闘争は避けられない。必要以上の内部紛争は行わない。自分達の体力を削り切る前に、漁夫の利を得るであろう連中を倒す。これが政治で生き残るには必須条件なのかもしれない。
「パスは終わりましたわ。やられる前に殺りに行きますわよ」
「半端な囮だった?」
「ガキみたいなやり方でしたわね。あとは本陣に突っ込んで奴らをぶちのめすだけですわ」
「了解」
ラグエル含め、彼女達は装備と君を引き締めると魔法陣を起動した。これからどこにいくのかは分からない。俺の武器が役に立つことは間違いないだろう。だが本当にそれだけで足りるのだろうか。相手の戦力、戦術が分からない上で行くようなものだ。ラグエルはある程度知っていたとしても、相手がどう立ち回るかまでは分からない。何か秘密兵器があれば…。
その瞬間、俺は閃いた。転送されるギリギリまで文章を打ち、ルーモルトにメールを送った。彼女なら理解できるはずだ。そしてもう一つは…得物が何一つない『彼女』へのささやかなプレゼントだ。守護龍からの加護。存分に奮ってもらおう。
こんな拙い作品の続編を待ってくれた方、信じ続けてくれた方、ありがとうございます。身体壊したり転職したりで散々な日々を送っていましたが、今は安定しています。
気ままに更新するので、また見てやってください。




