空飛ぶカメラ
ベッドで寝ていた俺を叩き起こしたのは人工的な光だった。訳が分からない。なぜ俺が照らされなきゃならないんだ…?
「起きて下さいよ公爵!寝てる場合じゃないんですって!早く!」
「ルーモルトか…?ばっかお前…今何時だと」
「シャルちゃんがいなくなっちゃった‼︎」
「はい⁈」
マリも起こして直ぐに着替え、ルーモルトの跡をついていく。彼女の話によると、事態は既に姫達も教師達も把握済みであるが、行き先も分からず現在はルンレイ達が率いる部隊が総力を挙げて捜索しているらしい。しかしこれと言った成果も報告もなく、現在は捜索範囲を広げて1時間以上経過しているらしい。現在、俺達が使用している本部は完全にシャルロット捜索本部へと改装されているという。こうなってしまっては、もはやCICといっても差し支えないだろう…。
「ルーモルト!ただいま戻りましたぁ!」
「戻りましたね。公爵様。このような時間帯に呼び出してしまい申し訳ございません」
「カレン気にするな。一大事だからな」
「ありがとうございます。では、現在の状況を踏まえた状況説明を行います」
カレンは連邦を中心に描かれた地図を壁に貼り出すと鉛筆やチョークを使って様々な情報や何かしらのマークを書き上げ、こちらに向き直った。
「では現在の状況を簡単に説明します。2時間ほど前、ルーモルトの隣で寝ていたシャルロット・イスカリオテが何者かに拉致され、行方不明になりました。犯人はルーモルトが抵抗戦を行う前に転送魔法と思われる魔法により離脱。おそらくスクロールを利用した簡易魔法と思われますが、魔力痕が巧妙に隠蔽されており、追跡は困難を極めています」
「捜索範囲を広げて学園外までラグエルを動かしていますが、未だ有益な情報はありませんわ。ただし、簡易魔法という点だけはまだありがたいかもしれませんわね」
「どういうことだ?」
「簡易魔法は使いやすく、使い捨てな分効果範囲は狭まる。転送魔法のような複雑な魔法ともなれば、転送範囲はおそらく半径1km前後。ただ、それでも見つからないとすれば…」
「敵は地下にいるか、別の手段で移動したか。この二択になるということです。しかし教師陣による土属性魔法による地下探知に反応はありませんでした。地下施設なんて学園の範囲内にあるはずが無いのは当たり前ですが…」
地下施設が無いのはあくまで仮定に過ぎない。が、アヴァロン達が言う通り可能性がありそうな地上範囲を捜索するのが今のところ最善手になるだろう。だが捜索範囲が広がるたびに人手が必要になるし、見逃す可能性…ヒューマンエラーも増える。仕方のないことだ。
「さて皆さん。私達は本来であれば、すぐさま睡眠し、明日に備えるのが仕事です。が…友人を捨て置いて明日を楽しむなどできる方が、この中にいますか?いるはずがありません。そこで私達は一時的で、子供のような『言い訳』を作ることにしました。ハインド公爵。言いたいことは…分かりますか?」
「エリザ…まさかお前」
「私達は現時点を以て学園の庇護下から外れ、ハインド公爵指揮下に入ります。私達は姫ではなく、公爵の部下です。指示を」
いきなりこんなことを言われても困る。だが…彼女達にはこれしか無いのだろう。いくらか方法はあれど、学園にいる間は彼女達は生徒なのだ。あまり派手な行動は取れない。責任が取れる大人がいないのだ。だが…最悪あれだこれだと言われるだけなら、俺が責任を負う他無い。彼女達のやる気を削がない為にも、シャルロットを助ける為にも。
「…分かった。だが危険な行為だけは避けるんだ。俺だって死を望んでる訳じゃ無い。何か見つけたら直ぐ報告しろ。いいな?」
「分かりましたわ」
「契約内容は遵守する」
「もちろん!」
「こればっかりは命に関わるからね。私だって死にたか無いよ」
「決まりです。姉様は何かありますか」
「いいえ。ありません。では…何から始めますか?公爵閣下」
まず何から始めようか…。俺にとってここはアウェーな地だ。あまり得意な場所ではない。となると…よし。決めたぞ。
「アヴァロンとルンレイは現場検証に。捜索中のラグエルの部隊は学園に呼び戻してくれ。ここで陽動を仕掛けられたら混乱が起きる。カレンは俺の戦術顧問として付いてくれ。この地に詳しいのは君だ。エリザは可能な限り他国と通信魔法で情報捜索を。外部の情報源を少しでも確保してほしい。ルーモルトはここでやることがある」
「えー…私は?」
「リリィは…何かできることあるか?」
「私商人なんですけど…」
「…エリザについてくれ。名前があるなら有利に事が進む可能性もある」
「よっし!仕事だ仕事〜!」
各自がそれぞれ動き出す前に、衛星ネット通信式インカムを渡しておくことにした。使い方は紙に簡単に書いて渡しただけだったのだが、渡して直ぐにスムーズに使えるようになっていた。若いと飲み込みが早いって言うのは本当だな。それと簡単には傍受できないよう高度な暗号化通信にしてある。彼女達が通信してくるのはこの世界では簡単に解き明かせないものになっている。バレはしない。
エリザとリリィは夜中ということもあって作業している地域は少ないものの、何とか通信魔法を使った情報収集を始めた。戦術顧問としてカレンは俺に地図を示しながらあり得そうな場所をいくつか提示してくれる。しかしそこにいる可能性があるだけで絶対にいるわけでは無い。俺も陽動を起こされて何かしらの問題が起こらないようラグエルを引っ込めさせてしまった。
だが、捜索手段が無くなったわけじゃない。ルーモルトに装着させている腕輪。あれはただスレイヴを呼び出すだけのものじゃ無い。一種の生体認証プログラムも組み込まれている。今から行うには、この生体認証が必要になるのだ。
「で…私は何をせいというんです?」
「ルーモルト。お前に渡したものは、別のものにも転用できる。まあちょっと待ってろ。直ぐに用意するから」
「ふぅん…?楽しみにしてますよ?」
「まかせろ。カレン!周囲に良さげな空き地はあるか?」
「中庭で良ければありますが」
「そこでいい」
中庭に移動した俺は、直ちにあるものを生成した。短距離無人機射出装置。それと2037年にアメリカ海兵隊が試験開発した無人機。その名もMQ-9 TYPE C 。名称はアドバンスド・リーパー。電磁カタパルトを応用開発した短距離無人機射出装置に対応し、カメラ性能も段違いとなっている。武装やエンジンは大して変わらず、ヘルファイアⅢを4発と500ポンド弾2発を搭載し、ターボプロップで飛行する。
だが1番凄まじいのは、燃料を考えなくていい点だろう。俺が生成し、何かしらの手段で繋がっている以上は消費されるのは俺の魔力だけ。行動範囲は無限大だ。そしてコイツらを12機ほど打ち上げる。各センサが情報を集約し、発令室に置く予定の操作パネルに衛星経由で映像を送信する。これで見つからない相手はそうそういないだろう。
「これは一体…⁈」
「簡単に言えば空飛ぶカメラだな。コイツを12機飛ばす。映像とかはこっちでなんとかする。位置もある程度分かるぞ。そっから先は…カレン戦術顧問に任せたい」
「分かりました。情報の精査とアドバイスは私が」
「頼む」
12機を20分で空へと打ち上げた後は急いで発令室に戻りFCジェネレーターと操作パネルを生成。2010年代に比べて思ったより小型化しているおかげか、かなり分かりやすくなっている点も見受けられ、何より生成に時間が大してかからなかった。
操作パネルをいじり12機のMQ-9 TYPE Cと接続を完了すると飛行区域を自動設定しホワイトサーマルビジョンを起動させ、人間の認識時には警告音がなるようにセットした。GPS衛星の情報を頼りに動いているため、迷子にはならないだろう。そしてこれらを操作する際必要になるのが…ルーモルトの腕輪、ブレスレットだ。
「ルーモルト。12機の空飛ぶカメラがラグエルが捜索していた範囲を常時監視している。お前と俺、マリ以外は操縦できないようにセキュリティも変えてある。気になる部分があったらこのスイッチを切り替えて操作モードに移行。追跡するんだ。操作は悪いが、色々やりながら説明する」
「了解!」
にひっと笑ったあと、ルーモルトはすぐに真剣な顔で監視画面を見始める。一方、シャルロットを拉致した奴らがいそうな場所をカレンと俺、マリでとにかく挙げていくというキリがない作業を操作説明と同時にやるハメになってしまった。
だがそんな作業をやって40分ほど経った頃、進展があった。アヴァロンとルンレイがなんと使い捨て魔法…スクロールの切れ端を確保したのだ。発火魔法による自壊処理が施されていたものの、完全には燃え切らず一部が残っていたらしい。そこから二人が推測した転送魔法の復元した術式が描かれた魔法陣も同時に持ってきていた。捜索に30分、復元に10分かかったというが、それでも早い方だろう。
「見つけはした。復元もできた。が…しかし」
「魔力痕が無ければ何処に行ったかまでは分からないですわね…。でも切れ端にある特徴的な紋様から考えてこのタイプの魔法陣で間違いないはずですわ…」
「ここまで簡易化した転送魔法だと半径400mに狭まる。ラグエルが見つけられないはずがない」
「やはり…別の方法で拉致した、と?」
「それしかありえません。しかし移動痕跡も見つからない…。どうやって…?」
「…んん?なにこれ?」
「ルーモルト?」
「公爵。あのモヤって…なんだと思う?」
俺達が覗き込むように見た画面上に表示されているのは5番機からの映像。小さな山火事のようにも見えるが、そうではない。ホワイトサーマルビジョンから通常カメラに切り替えて確認するも火事ではないことがよく分かる。再びホワイトサーマルビジョンに戻すと、何かが円をなぞるように光っている。
「これは…?」
「ここはどこだ?位置情報を!」
「ええっと、ここから南南西に381m先の森!」
「学園が管理してる実践用の森ですわ…なんでこんなところに…?」
「学園で管理してるからです。ここなら怪しまれない。奴らは…内側から侵入してきたんですよ」
「やはり内部に協力者が…」
「あり得る話です。ルーモルトでない事は確かですがね」
「なんで私疑われてるのぉ⁈」
「そりゃあ寝てたとは言え、目の前で逃したんだから疑われて当然ですわ。ただ、あなたほど裏表がないのは珍しいですから。裏切るくらいなら最後まで戦った方が名誉なタチでしょう?あなた」
「え…まあ、そうだけど…」
「一周回ってバカ」
「誰がバカだってェ⁈」
「お静かに。もう少し拡大できますか?」
「ああ。もちろん」
拡大すると、更に画像が鮮明になっていく。それでも暗くて見えなかった俺は照明弾を上空に打ち上げさせ、周囲を明るくすると、目標がより分かりやすく画面に出てきた。魔法陣だ。
「間違いありませんわ!あの魔法陣です!」
「じゃあこれが…。でもこんな近いならなんで魔力痕が分からないんだ?」
「…私達は線を追いかけすぎていたみたいです。点を追いかけなければ…」
「点?」
「犯人は経由していたんでしょう。ここから脱出するだけなら、ここの魔力痕のみさえ消してしまえば、あとは森の転送魔法とスクロールだけで事足りる…!」
「カレン。アドバイスをくれ。ここまで来て掴んだ『点』だ。見逃すわけには行かない」
「…ラグエルを先発隊として派遣し、戦闘に長けた人物を選抜。直ちに向かわせるのが最善かと…」
「と、なると…。行くのは俺とルンレイ、アヴァロンってところか…?」
マリにはここで待っていて欲しいし、エリザとリリィは各国からの情報を確保するのに忙しい。何かあった場合の根回しも必要になる。ルーモルトは唯一MQ-9 TYPE Cを扱うことができるパイロットだ。失うわけにはいかない。カレンは俺が言った後に指示をする現場指令として配置したい。
だがこの決断を口に出そうとした瞬間、マリが袖を掴んできた。じっとこちらを見つめている。行かないで、というよりもこれは…私も連れて行け、という目をしている。分かったよ。マリも守られてるばかりじゃ、性に合わない訳だな。
「よし。俺と…マリ、ルンレイ、アヴァロンで向かう。400m先だ。大した距離でもない」
「分かりました。監視はこちらで続行。根回しと後始末はエリザ達がなんとかします」
「ハインドさん。シャルちゃん…お願いします」
「必ず取り戻してくる」
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