決断
2コ目になります。
屋敷につき次第、自室で直ぐにスキャンしておいた神花の巫女に関する資料を読み漁った。マルチモニターにも資料を出してマグノリアとミーティア、更には伯爵まで駆り出して兎に角それらしきものはマーキングしておくなどの処理を行った。
伯爵に機器の使い方を教えてみると、面白そうだとかいう理由だけであっさりとタッチパネルマルチモニターを使いこなしていた。まあ俺も昔はよく分からなかったゲームも説明書を見ずによくやってたしな。面白いからなんでもできるんだ。
しかし、いくらミーティアが伯爵によって組み込まれた検索魔法を利用してスキャンが30分程度で済んでも百数ページという量を一つ一つしっかりと確認するには時間がかかってしまい、気付けば夜になっていた。
食堂では本来先に食事を取るであろう伯爵や俺よりも先に使用人達が先に夕食を食べながら談笑していた。それほど時間がかかっていたみたいだ。
「かなり疲れているようですが…大丈夫ですか?」
「あ、ユアンさん…」
「ユアン。今日は何だ?」
「今日は鳥の香草焼きですよ。中々良い質のものが搬入できましたので」
「ニンニク入りか。集中力が切れて死にかけた我々には丁度いい」
「ユアンさん。次はスモークベーコンなんかどうです?」
「あぁ〜いいですねぇ。あの香りは忘れられません…」
少し驚いたのは、この世界にはスモークベーコンがあるということだ。それにスモークベーコンという言葉もあるらしい。カレーといい、案外俺が食べていた食形態が前の世界とかなり似ている。俺の口に合う食事が出るのは嬉しいものだ。
鳥の香草焼きを貰い、フランスパンのような細長いパンを持って席に座って兎に角食べまくる。あれだけ確認していれば腹が減る。不老不死だから死なないかもしれないが、精神の健康面では必要だ。
「伯爵。今日は…」
「徹夜だな…。ミーティアは寝かせてやってくれ。巨大化の魔術で疲れているだろうからな…」
「マグノリアも休ませます。少し疲れてましたから…」
とりあえず香草焼き5つほど食べて、ボイル野菜もしっかりと食べた俺は食器を返却して食堂が落ち着くまで他の使用人とマリについての話をした。昔話で夢物語みたいなものだと前置きをした上で馴れ初めを話したら女性使用人も男性使用人も泣き出した。大抵の理由は、まあ分かってはいるが。
食堂が落ち着いて使用人達も自分の仕事に戻った頃合いで再びユアンさんのいる調理室へと向かった。とあるお供の品を作ってもらうためだ。
「ユアンさん。ちょっとお願いが」
「何ですか?」
「塩あります?」
「ええ」
「胡椒は?」
「農家の方からこの前乾燥品を大量に購入しましたから、肉用のを除けば…余ります」
「ジャガイモは?」
「いくつか余っていますが4、5個くらいです」
「大量の油は?」
「まあ、一応ありますが」
「じゃあちょっと厨房借りますね」
「え、ええ。分かりました」
厨房に入り、小さめで底がある程度深い鍋を出してもらって油を注ぎ魔石で火を起こしてもらって温める。
流石にこの世界に箸は無いようなので使えそうな細い棒を探し、箸のようにユアンさんに加工してもらう。その間に俺はスライスカッターとオールステンレスのエコノム、網付きバットを生成した。これらが機械工学に当たるかどうかは分からないが…。俺が自炊生活の中で気付いたのはピーラーよりエコノムの方が使いやすいということだ。ごぼうの笹掻きとか応用効くしな。
3個ほどのジャガイモの皮をエコノムで剥いて芽を取り、スライスカッターで薄くスライスする。そしてユアンさんに作っておいてもらった木の棒を使って油の中に入れて温度を確かめる。確か泡が中くらい出てきたら180か170前後だったか…?
とりあえず自分の感覚を信じてスライスしたジャガイモをどんどん揚げていき、網付きバットへ移していく。油が切れたら塩と少しだけ胡椒を振ってポテトチップスの完成だ。
「食べてみます?」
「じゃあ一つ…」
ユアンさんはサクッと食べた瞬間、これほどまでにないような顔をした。そう。これこそがジャンクフードの力。簡単でありながらやめられない止まらないを実現してしまう悪魔の食品だ。
「どうです?美味しいでしょう?」
「こんなやり方があるなんて…」
「あ、油は酸化するんで長く使っても3日ほどで変えた方がいいですよ。こういう料理を作る場合はですけど」
「ハインドさん…使わせてもらいますよ。この技法」
「いいですよ。油の処理どうします?」
「これから私が試作するので、そのままで大丈夫ですよ。廃棄物もでますから、残りは新人にやらせときます」
「分かりました。お願いします」
エコノムとスライスカッター、バットを魔力化してポテトチップスだけを大量に持って自室に行くと既に伯爵がマルチモニターで資料のチェックを始めていた。その隣にさりげなくポテトチップスを置くとちらっと見て一つ食べた。その後も伯爵は黙ったままであったが、いつのまにか結構な量を食べていた。揚げ物は美味いよな。
「旦那様〜?もう夜ですよ〜?」
「ジュリアさん?」
「あらー?どうしたの?」
「神花の巫女についての資料のチェック中だ。ハインド君の最新機器とやらでな」
「あ、おいしいそうなの見っけ!」
ジュリアさんが一つ食べる。また、一人ジャンクフードの被害者が出てしまった…。
パリパリとポテトチップスを食べながら、ジュリアさんは近くにあった椅子に座って伯爵の方のマルチモニターを覗き見をし始める。
「それにしても膨大な量ねぇ」
「エヴィロイドまで行ってあり得そうなの全部写して来ましたからね…」
「あ、そうだわ。ハインドさん」
「何です?」
「良い娘じゃないの。優しくしてあげなさいね?結婚式は私に任せて♪」
「ちょっ⁈」
「ふふっ。だってあの娘、さっきあの部屋を通りかかったら不意に聞こえてしまったけど、貴方のの本名とかいう名前を言いながら喘いでいたのよ?」
おっと…今のは聞かなかったことにしよう。今は彼女を襲っている暇などない。今すぐにでもマリを助ける方法を探さなければ。
「ジュリアさん。その話はまた今度で…」
「今度、ねぇ。その今度はいつ来るのかしら…?」
「…まず数年以上は来ないかと」
ジュリアさんの話を回避しながら資料のチェックを進めていく伯爵と俺。マグノリアとミーティンアは既に別の部屋で寝始め、その後10分も経たずにジュリアさんも伯爵との相部屋へと行ってしまった。今自室に残ってLED電灯に照らされながら作業しているのは伯爵と俺だけになった。
そして作業を続けて深夜2時。ようやく全ての資料の確認が終わり、神花の巫女やエヴィロイドについての資料のみを優先して仕分けする。そこからマリの呪いについて調べなければならない。ふと窓を見ると、少しだけ風が強く吹いていた。
「風が強くなってきましたね…」
「ああ…もうそんな時期か」
「風が強くなる時期があるんですか?」
「この辺りは気温がさほど変わらない地だが、葉が更に生い茂るころに風が強くなる…。ハインド君。折角だ。少し夜風に当たらないか?」
「行きましょう。いや行くしかない」
部屋から出て屋敷の扉を開け、少しだけ強い風を浴びる。さほど冷たくもないので心地よい風だ。月も出ている。なるほど。この世界にも月があるのか。
「いい風だ…フゥー…」
「綺麗な月だ…」
「ああ。いい月だな。とても綺麗だ…とても、とてもいい…」
「伯爵」
「ん?」
「無駄にカッコいいからやめて下さい」
「ハハハ。君からそう思われるとはな。いい気分だ。年老いても紳士で味がある人間でいたいと、昔から思っていた」
「伯爵。そういえば、伯爵の年齢って…」
「ああ。今は63くらいだったかな。今は」
「今は…?」
「ジュリアが作るエルフの秘薬で幾度か若返っているのでな。実際は70以上だろう」
そんなものがあるとは驚きだ。確かに伯爵は何度見ても老ける様子がない。むしろ若返ってすらいるように感じる。肌のシワも僅かながらも張りが戻っている。よく見なければ分からない微々たるものであるが、それだけ秘薬の効果があったということだろう。
「ところでハインド君。実は君がジュリアに囃されないよう隠していたことがある」
「はい?」
「資料52から54だ。しっかり読むのだな。まあ、なんだ。ジュリアの言っていたことはいささか間違いではなさそうだぞ…?」
「それってどういう…?」
「自分で確認したまえ。私は…君の選択を尊重しよう。そして…私は寝る。もう無理だ。寝る。ハインド君。君も事を済ませたらしっかり寝たまえよ」
「分かりました…」
伯爵は欠伸をしながら屋敷の中へと入っていった。俺は自室に戻って伯爵がチェックしていた資料を確認する。そこには追い出された神花の巫女にかけられた呪いについて書かれていた。
貴族達によってかけられた呪い。それは子にも受け継がれ、子は呪いが根深く入る。寿命は短くなり病弱となる。更に自身の能力が封じられ永遠に解けることはないらしい。
解呪方法の欄を見ると呪いを解く、というか呪いの特性を使ったり無理やりだが助ける方法がいくつか書かれていた。どうやら呪いの開発に当たり解呪方法も一応考えられていたようだが最終的には出来なかったらしい。故に無理やりやるような方法しかなかったのだろう。
まず解呪方法1、強制的に引っぺがす。呪いをかけられた当人だけならば後付けなので引っぺがすのは不可能ではないらしい。が、マリは恐らく呪いをかけられた人の子である可能性が高い。つまり根本から引っぺがすのは不可能。はい次。
解呪方法2。呪いの術式を書き換える。これが一番シンプルかつ当人に負担が掛からない。が、これも当人のみ。クソが。
解呪方法3。寿命の延伸。生命魔力を外部から供給する方法。病弱性は治らないが、人並みの寿命は手に入る。しかし特殊な儀式を施す必要があるらしく、儀式の詳細は資料にもないので不可能。ふざけんな。
解呪方法4。これについては解呪、というより生贄を利用した方法。性行することにより寿命を貰い呪いをパートナーに移す。しかしこの際にパートナーは大抵死亡するらしい…。
「…俺にマリとヤれ、と?」
おい待ってくれ。不老不死の俺は大丈夫なのか?いやそれ以前にヤるって問題が…。
取り敢えず、考えられることは二つだけある。まず一つ。恐らく俺は死なない。俺はこの世界に魂を縛り付けられている。二つ。仮にヤって成功したとしてマリは不老不死を受け入れてくれるのか。正直言って、そんなことをするくらいなら人として死なせた方が…
『やっと会えた…』
マリに聞いて見るしかないのか。だがマリにとっては究極の選択だろうな。不老不死か、あと少しの命か…。
行ってみるか…こんな夜遅くに申し訳ないけど、聞いてみるしかない。早めに聞いた方が俺の心も決まる。
「よし…」
自室を出てマリのいる部屋に入る。マリは静かな寝息を立てていた。申し訳ないが、起こさせてもらおう。
「マリ…マリ…起きてくれ…」
「ん、んぅ?ケイ君…?」
「マリ。寝起きでこんなことを聞くのもおかしいのはわかってる。だけど本気で、本音で答えてくれ!」
「んー…分かったー」
「マリ。俺と…永遠についてきてくれるか?」
「永遠に…?」
「マリ。言いにくいんだけど、マリの身体はもう」
「分かってるよ。私が長くないなんてこと。こんなに成長してケイ君と会えたことも、奇跡なんだって」
「マリ」
「きっとケイ君はこう聞きに来たんでしょ?ウラルさんが教えてくれたよ。人としてケイ君に手を握られて死ぬか、ケイ君と永遠に手を握り続けるかって」
「…俺は、俺は自分じゃ判断できない。マリ。決めてくれ。俺はマリの選択を受け入れるよ…」
「んー…そうだなぁ。また離れ離れになるくらいなら…あっそうかぁ。やっぱり駄目だよ。ケイ君はあの世に来れないんでしょ?じゃあ私、死ぬわけにはいかないよね」
「じゃあ…」
「私、ついてくよ。一生。今度は絶対手放さないからね。ケイ君…」
「マリ…」
マリの心は決まったようだ。だがここからヤるなどという路線にどうやって乗せればいいんだろうか…。
「マリ。あまりに直球だけど許してくれ。俺と…その、だな。あー!クソ!もういい!俺はこういうのは苦手なんだ!勢いでいかせてもらう!」
「ひゃん⁈」
思い切り押し倒したマリの顔は、暗いながら月夜に照らされていた。
…あまり感じたことがない気分だった。今までただの友人としか、少し気になった程度だったのが一気に印象が移り変わる。人を好きになるということは、こういうことなのだろうか…?
「俺だけの物になってくれ。マリ」
「ケイ君に独占されるなら…私は本望だよ…?」
ああ…なんでこんな可愛いんだ…?
だがその感覚以降、俺に記憶は無い。再び意識を取り戻した頃には朝になっていて、マリは全裸で俺の腕に胸を押し付けて寝ていた。俺は上半身だけ裸になってその隣にいる。少なくとも、俺の下身体は火照ったままだった。更にマリはこの後、起きて俺を見るなり顔を赤くして
「ケイ君エッチ過ぎるよぅ…。でも…いっぱいチューもしたし…最初は少しだけ痛かったけど、ちょっとしたら気持ちよくなってきて…最後は頭の中真っ白になって…」
と言ってきた。欲が優って記憶が無いとは、我ながら情けなく感じる。
「ケイ君…ごめん。何だか身体が…熱くて…おかしいの…。お願い…昨日みたいに欲しいの…」
「…どうしよっかなぁ」
「え…?」
「アレックドールに報告書書かなきゃいけないしなぁー。マリがその気にさせてくれればなー」
「う…」
今更だが、自分で少しだけ分かってしまった。俺は…焦らすのが大好きだ。それと、困った時のマリ。少し泣いてる。最高だなぁ。この顔。
あれ…?俺ってここまでSだったか?まあ…どうでもいいか。
「お願い…!もう無理なの…ケイ君ので私をめちゃくちゃにしてください…!」
「よくできました!」
「ひぁん♡」
結局、この後意識がある状態で3回もやった。俺もマリもフラフラになってしまったが、その代わり弱々しい魔力しか感じなかったマリからは強い魔力を感じるようになった。マリ自身も少しだけ身体が軽くなったような気がすると言っていたので、もう問題はないだろう。
あとは…呪いがどうなっているかだけだ。
まだ2つあるので、今夜の9時付近を目安に投稿します。




