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天国から追い出されて不老不死  作者: ラムネ便
恋と呪いは前世から
55/92

占い師の国

一週間以上空けてしまいました。申し訳ございません。

 

「リリス!調子はどうだ?」


 《快適だ!フレーム変形率とやらも0!オールグリーンってやつだな!》


「そいつはなにより」


 予想よりフレームが保ってくれてるな。1000年も違う技術差だっつうのに・・・。だがそこは流石、我らが日本企業と言ったところか。ちなみに反重量システムの制作元は、陽立だったりする。そう。二つ共に日本企業が開発していた。

 しかし、反重量システムの動力、反重量コアがまさか自己エネルギー生成が可能なものだとは知らなかった。というか、反重量コア・重量制御装置・統括AIを全て括って反重量システムだった。

 ちなみにリリスとの通信は、ツーリングの規則を守ってウェアラブル端末による通信にしてある。


 それにしても、リリスの慣れは凄い。何せ、何の練習も抜きで簡単な説明だけの講習で、今こうやってツーリングしてるわけなんだからな。

 しかも移動時間の内、40分強で応用操作法までできるようになった。マグノリアといい、俺の周りには物覚えがいい奴が多い。

 ちなみに移動を始めてから52分が過ぎている。時間は朝の8時19分。デジタル時計はつけておいて正解だったな。


 《中々こんな体験はないからな。空を飛ぶなんざいつ以来か》


「飛んだことがあるのか?」


 《ガキの頃、デッカい龍の背中に乗せてもらったんだ。勿論親には夢だとか嘘っぱちだとか言われたが、俺は今だって鮮明に覚えている》


「そりゃ凄い話だな。いつか、俺も乗らせてほしいもんだ」


 《公爵。アンタ、信じてねぇだろ⁈》


「えー?信じてるでござるよ?」


 《嘘つけ!語尾と態度がおかしいだろうが!》


「あははは!そう怒んなって!それよりほら。アレックドールまであとどのくらいだ?」


「チッ。話のすり替えが上手いな」


 エアバイクを降下させ、周囲の目印などを確認するリリス。暫くすると、再び高度を上げて通信を入れてくる。


 《このまま真っ直ぐだ。方角も問題ねぇ。そういやぁ、このエアバイクってのもすげぇな。出発してから、1時間も経ってないぜ?もうアレックドール領に入ってるし、この速さなら王都まで5分もかからねぇな》


 当たり前だ。マッハ1で俺たちは今移動している。何が凄いか?それは対流圏であるにも関わらず平気でマッハ1を出しているこのエアバイクが凄い。これも反重量システムのおかげなのかもしれない。少なくとも、あり得ないのだからな。で、本当に数分程度でついてしまった。


 人気のない林にエアバイクを降下させ、周囲の警戒をリリスに任せて俺はエアバイクを魔力化。直ぐに林を出てアレックドールの王都へ向かった。


「身分証明はこちらへ来てください。身分証明が出来ない方は兵の誘導に従い、先に王都のギルドで身分証明書を作成してください。繰り返します・・・」


 呼びかけをしている検問所で身分証明ができる方の列に並び、兵士に例のパスポートを見せる。するとパスポートを見せた青い服装の兵士が別の兵士を呼び出して大柄な赤い服装の兵士がこちらにきた。大柄な兵士は黙って俺を見ていると、チラリとリリスに視線を変えた。


「連れだ。学者じゃない」


 そう言うと、俺に視線を戻した大柄な兵士はパスポートを俺に返し、何かの紙を一緒に渡して来た。谷折りなのでその場で開こうとすると、大柄な兵士はその手を俺に乗せ、黙って首を横にふる。ここで開けるなってことか。


「任務ご苦労!」


 ちょっとカッコつけて言ったら、大柄な兵士は別の兵士としっかり敬礼を返してくれた。何だか偉くなったのがようやく分かった気がするな。


 紙は開けずにその場を離れ、アレックドール王都へと足を踏み入れる俺達。そこはアルスとはまた一味違った不思議な街並み。市場が広がっているだけでなく、不思議な屋台が所狭しと並んでいる。

 更に冒険者とは思えない服装をしている人が大半であり、普通の民はいないのかと思えるほど少ない。装備品もやけに宝石を使っているものが多い。何のためだかは知らないが。


「なんなんだ?この国は・・・」


「そうか。そういやアレックドールは初めてなんだよな。公爵。アレックドールは占い師の国。占い師見習いも来る、修行の地でもあるんだぜ?」


「占い師の国、か」


 そういえば『奴』も占い師だったな。アレックドールの行く末を視た占い師。アルスで型外れな魔術を使い、アレックドールへの攻撃を、復讐を目論んでいた。

 懐かしいな。だがあまり懐かしむものじゃない。C4とクレイモアで戦列を吹っ飛ばして、それから思い切りやられた記憶しかない。コレンの話によると、他の公爵達が救援に来てくれたらしい。

 つまり、俺は一人での任務遂行には事実上失敗している。イレギュラー排除という観点から考えても。


 あまり、いい思い出ではないな。だが魔術原基といい奴といい、変なところで因縁がある。

 こんな日が来ると予想していたわけではないが、アレックドールの根幹に関わっている時点で決まっていたようなものだ。ここが占い師の国となれば奴の撃破報告と俺の行動が上層部に行かないわけがない。


「厄介ごとは最初からってわけか・・・」


「どうした?公爵」


「いや、奴を倒しに行くと決まった時から、この国と関わることが決まっていたと思うとな」


「運命なんて数奇なもんだぜ。深く考えたら負けだ」


 リリスの言う通りだな。あまり深く考えない方が幸せだ。

 とりあえず、渡された紙を改めて開いてみる。そこには、とある占い師の名前と屋台の名前が書いてあった。ここに来いってことか。


「リリス。屋台の場所は分かるか?」


「大体は分かるが、小さな屋台は移転も多いからな・・・。ちょっと見せてくれ」


 リリスに紙を見せると、キョロキョロしながら何かを探し、とある貧相な屋台を連ねている長屋に声を掛けに行った。数分ほどすると、なんかチーズとベーコンをぶち込んだ簡単なパンを持ってきた。普通に美味そうなんだが。


「場所は分かった。やっぱ移転してるな。だが幸いなことにこの近くらしい」


「それは良かった。で?そのパンは?」


「朝飯だ。公爵も食うか?」


「食うけど、スープないのか?スープ」


「スープならあそこに売ってるぜ。手持ちあんのか?」


「白金貨2枚なら」


「屋台の釣り全て無くすつもりかよ。金貨ですら釣りが大量に来るってのに」


「マジか。そういや白金貨って価値どんくらいなんだ?」


 リリスは呆然とした顔で俺を見ている。まるで金銭感覚が無さすぎる大人を見る冷たい目だ。その目は金持ちのボンボンに俺がしていた目なんだ。

 やめてくれリリス。その冷たい目は俺に効く。


「・・・はぁ。いいか公爵。白金貨は金貨200枚で両替可能な特殊貨幣だ。いきなりポンと渡されてみろ。大騒ぎになる」


「今度両替してくるわ」


「それがいい」


「ん?待てよ?リリス。じゃあお前、その金はどこで」


「給料だ給料。アンタの下にいるんだ。国から給料が来る」


「渡した覚えはないんだが・・・」


「そりゃそうだ。さっき配達馬車の荷物の中に入ってたからな。団長も自分の分は自分で持ってるぜ」


 俺から渡す必要はないのか。それはいいかもしれない。イチイチ渡していたキリがないし、あとで中身を取られただとか変な疑惑をかけられずに済む。

 リリスの麻袋を覗かせてもらうと、金貨やら銀貨が大量に入っていた。ただ、これだけ入っていて俺の手持ちの白金貨には程遠いと考えると、持ってるだけで盗まれないかが心配になる。今までよく盗まれなかったな。


 と、なるとだ。俺が仮面屋の親父に渡したのは金貨200枚分ってわけか。凄いな。


「なあリリス。白金貨一枚で、どれだけ生活できる?」


「そうさね・・・。平民並で、ある程度節約するなら、10年は保つな」


「すげぇ」


 両替もできないので取り敢えずスープは諦めて、リリスに屋台へ案内してもらうことにした。

 歩いていると、そこらかしこにある様々なアクセサリーの数々が輝いている。占い師の国とだけあって魔力を強化するアクセサリーでも置いているんだろう。冒険者が購入している姿もあった。


 路地裏を通り、増えてきたのは怪しい店。何やら俺のことをジロジロ見ているようだが、リリスがテレパシーのような魔法で俺に忠告してくる。


 《公爵。目を合わせるな。堂々と歩け。奴らはタチの悪い商売人だ。まともに受け答えする必要はない》


 俺は何も考えず、何も見ず、ただただ前を先導しているリリスを見て堂々と歩く。

 暫く歩いていると、小さな屋台があった。黒いボロ布だけで造られた簡易式テントのようで、少しだけ中が見える。


「失礼するぜ」


 リリスに続いて、俺も屋台の中に入る。目の前には鼻部が長い仮面を付けた奴がいた。いわゆるペストマスクみたいなものだ。怪しげな雰囲気を出しながら椅子に座ってるだけで何だか悪寒がする。

 フィクションなら、いくらでも怪しい人間は見てきた。だが、本格的に怪しい人間、いやそもそも人間であるかどうかすら分からない人物だ。今までにない不思議な怖さがある。

 そして、しゃがれた女性の声が聞こえてきた。老婆のようだ。


「おや・・・。若いのが、マリアントルの屋台に来るとは。珍しい」


「マリアントル?」


「ここの隠語で、朽ちたって意味だ。この路地裏は、いわば占い師の墓場みたいなもんだからな」


「獣人族。貴様はここを知っていて、来たようだな・・・」


「アレックドールから、アンタを頼れって紙を受けとった。どういうことだ?」


 リリスは紙を机の上に置き、老婆はマスクを付けたまま見る。すると紙を触り、何かを思い出したかのようにタロットカードのようなカードをその場に並べ始めた。

 再び紙を触り、それからカードを一枚選び出して俺たちに手渡してきた。そこには、ダガーのようなものをもった影と金色の杯を持った男が、組み合うように戦っている絵が描かれていた。


「31。『選ばれし者と影』。気をつけなされ。貴様らを狙う何かがいる」


「何だと?どういうことだ?」


「そこな人よ。貴様が選ばれし者だ。杯を守れ。影は近くにいる。影は、杯を狙う」


「お、俺がか?そもそも杯って何なんだ⁈」


「そして獣人族。貴様は76。『獅子の雄叫び』だ。選ばれし者を、影から守れ」


「へぇ。これはこれは・・・」


「行け。神殿は近くにある。影には気をつけよ。光は、影を生み出すものだ」


「どういうことだ?」


「味方が、いつ敵ではないと、誰が保証した?」


「っ⁈」


 俺は、その瞬間に初めて知ることになるのだろうと感じた。フィクションの中でしかありえないことが、本当にあるのだということを。

次の投稿は7月9日を予定しています!

いつも沢山のPV・ユニークをありがとうございます!

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