もう一人の人工妖精
一日遅れでの投稿です!
生憎の雨の中、一台の馬車が道を通って客を揺らしながら運ぶ。馬車の中には女性が3人。一人は窓から外を眺め、一人は寝て、一人は本を読む。
「もうそろそろかしら?起きなさい。モーちゃん」
「馬車の中ほど寝やすいものはない・・・んですけど、本当に近いね」
「そんなんだから牛みたいに呼ばれちゃうのよ!しっかりしなさいよ!」
「あらローディー。モーちゃんのことは話すのもじゃなかったの?」
「あ、あれはっ」
「これだから可愛いんだよローディーちゃあん」
「ちょっ!擦りつくな!」
「それより、着いたわよ。二人とも」
馬車が止まり、屋敷の中から使用人が数人出てきて傘をさして馬車の中の女性達を濡らさないようにゆっくりと歩く。屋敷の中に入ると、その場にいる使用人全員が一寸の乱れもない列を作り長旅ご苦労様ですと揃った声で彼女達を迎えいれる。
そんな彼女達の目の前にいたのは、一人の小さな女の子。女の子というには、手から光が漏れて何故かパチパチいってるのでどうみても危ない女の子だが。
3人の中でもやけに元気な一人が、その女の子にいきなり抱きつく。
「めっさ可愛いぃぃ!ねぇ!貴方、名前は?」
「ハインド騎士団特務隊大佐!レムレムと申します!」
「とくむたい?」
「モーちゃん。離れなさい。いくら可愛いからって初対面の人に抱きつくのは失礼ですよ」
「だが断る、と言ったら?」
「ローディーを貴方から引き離します」
「アッハイ」
モーちゃんと呼ばれる女性は直ぐにレムレムから離れて彼女の抑え役とも読める女性の方へと戻った。
「妹がごめんなさいね。私はクラウェン伯爵家、長女のナーリェと申します」
「次女は私こと、モルドレ!」
「ローディーよ!この世に3人しかいない人工妖精の一人!尊敬しなさい!」
クラウェン家?あ、私の生みの親のエーキル伯爵の娘さんか。でも来るなんて聞いてないんだけどなぁ。先生に聞いてみる?でも使用人の皆さんは普通に通してるみたいだから私が知らなかっただけなのかもしれない。
それに多分ローディーとかいう人工妖精。いや私も人工妖精ではあるけど、父上の巨大化の術式維持訓練で歩いてたから、まだ私を人工妖精だとは知らないみたい。あとで驚かしたいし、ちょっと黙ってようかな?
「雨の中、ご苦労様です。エーキル伯爵は部屋におりますので、ご案内しましょう」
レムレムはそう言ってエーキルが仮設研究室という名前で間借りしている部屋に案内した。
こちらです、と言って扉をゆっくりと開けるとそこに広がっていた光景は、ある意味凄かった。
膨大な量の資料が壁としてドンと存在していたのだ。本来ならここを突破したいところだが、レムレムはエーキル伯爵は没頭しているようなので落ち着いてからまた来ましょうと誤魔化してハインドの部屋へと案内することに決めた。
ハインドの部屋ならそんなに散らかってはいない。謎の変な箱が大量に置いてあるだけだ。そう考えたレムレムは、別の階にあるハインドの部屋に案内した。
「先生!入ります!」
ノックしてから入るレムレム。入ってみたのはいいのだが、何やらバチバチと音を出して作業をしているハインドがそこにいた。
マグノリアは変な柱のような物を背中に背負ってプルプルしながら立っている。が、力尽きたのかペタリと座り込んでしまう。
「ご主人・・・重いよコレ・・・」
「やっぱ規格外兵器はダメか・・・」
「規格外⁈今規格外って言ったよね⁈」
「先生」
「馬鹿にしちゃいけないな、マグノリア。規格外には浪漫が詰まってるんだぞ。主に男の」
「ご主人の浪漫より先にボクの都合を優先してよ!」
「先生!御客人です!」
「え?ああ、レムレムか。御客人の皆様、は既にいるみたいだな」
ハインドは立ち上がってエプロンを取り外して左胸に勲章をつけると、身なりも整えて姿勢を良くする。
「では、初めまして。俺はアルス王国公爵、ハインド・ウォッカと申します。今後、よろしくお願いします」
「あら、公爵様がいたなんて」
「友人の屋敷じゃなくて公爵様の屋敷だったの⁈」
「違います。色々あって、ウェスター伯爵のこの屋敷に下宿させてもらってるだけです」
「公爵様が下宿、ですか?」
「はい。魔法についての後ろ盾が欲しかったものでして。それより、ここで立っているのも疲れるでしょう。椅子を出しますので座って下さい」
「あら。ありがとうございます」
ハインドはゆったり座れる椅子を既に開発済みであり、部屋の片隅に置いてあったそれを未来的な意匠を施したテーブルの前に配置。ローディーには専用の椅子と机をテーブルの上に置いた。照明も先程より電球色に変更して空調をいじり部屋を暖かくする。
ナーリェ達が周囲の機材に興味を示しながら椅子に座ったところで使用人達にお願いして挽いた状態で真空保存しておいたコーヒー豆を出し、ドリップ式コーヒメーカーに水と一緒に入れてからスイッチを入れる。
2分ほどすると、コーヒー独特の匂いが部屋を覆い始めた。
5分ほど過ぎた頃、コーヒメーカーからドリップされたコーヒーが出てくる。ミルクと一緒に角砂糖をテーブルに置き、コーヒーを差し出す。
「どうぞ。シラルの街のコーヒー豆でドリップしたコーヒーです」
「いい香りねぇ」
「ブラックはキツイから角砂糖二つもらおっかな。ローディーちゃんはどうする?」
「いらないわ。そもそも妖精に合う食器があるわけないでしょ?馬鹿じゃないの?」
「罵倒されるほど気持ちイイッ・・・」
「変態!キモい!」
「妖精の食器ならあるよ。ボクとご主人で作ってみた、まだ試作品段階のものだけど」
マグノリアがそういうと、ローディーの前に妖精サイズのマグカップと共に小さな角砂糖と小さなミルクピッチャーが置かれた。
今まで見たことがない妖精サイズの食器故に、恐る恐るマグカップのコーヒーに触るローディー。角砂糖を入れてミルクを入れたあと、ゆっくりと飲み始める。
二口ほど飲んだあと、一息ついてマグカップの取っ手や周りを触り感触を確かめる。
「まあ、悪くはないかもね」
「あら。ローディーが認めるなんて。珍しいわね」
「私だって認める時は認めるわよ。それより、ここにいる人工妖精は誰なの?早く会いたいわ」
「ボクと、そこにいるレムレムちゃんがそうだけど?」
ローディーは一瞬黙るしか無かった。目の前にいる妖精は人工妖精ではないのかと想像はつくが、人間サイズのレムレムがまさか人工妖精だとは思わなかっただろう。
レムレムはそう言われて通常の姿に戻り、机の上でローディーに敬礼する。マグノリアもレムレムと同じ場所でお辞儀した。
「貴方達が?本当に?」
「肯定です」
「そうだよ」
まさかこの二人が・・・。話によると二人とも異質な属性を使うとか。私のような火属性なんかじゃなく、不思議な魔法や武器を使うことができて、しかも強いらしいじゃない。ナーリェ姉様にも聞いたし変た・・・モルドレにも聞いた。
だからって私が遅れをとるはずはないわ。だって私は人工妖精なのよ!そこらの妖精なんかよりずっと強い!私が一番なんだから!
「貴方達二人が本当に人工妖精だと言うなら!私と勝負しなさい!」
「あーあ。まぁた始まったよ」
「ローディー。おやめなさい。公爵様に迷惑よ」
「別にこちらはいいですよ。二人の返答次第ですが」
ハインドがチラリと二人の方に目を向けると、マグノリアは先程まで作成していた妖精専用試作兵器を背負い、レムレムは手から雷を発してさっきからバリバリ言わせている。二人とも戦う気満々のようで静止しても効かなさそうだと諦めたハインドは、2人の自由にさせることにした。
ハインド的には人工妖精同士の訓練というのも悪くはないという考えがあったが、そんなものはお飾りに等しかった。というか後から考えた変な理由だった。
「ローディーさん、だったっけ?最初に言っておくよ。ボクは正面から行く。細かいのは性に合わないからね」
「私も正面から行かせてもらう。というか、それしか能がないんで」
何を言っているのこの二人は⁈私をおちょくるつもり⁈
でも残念ね!私はそんな簡単に乗るような女じゃないのよ!私は人工妖精!普通の妖精とは違って圧倒的な力を持っている!この力を制御するのは並大抵のことじゃない!
この二人が本当に人工妖精だとしても、この私に敵うはずがないのよ!私は由緒正しき存在!私の火属性魔法さえあれば、どんなやつだってやっつけることができるんだから!
仕方ないわね!私がこの二人を教育してあげる!それと!私が一番強いってことをこの場で二人に見せつけてやるのよ!
「フッフフフフ」
「ご主人。なんか滅茶苦茶舐められてる気がするからさ。本気でいっていい?」
「先生。私もです」
「マグノリア。レムレム。落ち着け」
「大丈夫ですよ。けちょんけちょんにしちゃっても」
「そうそう。ローディーはそうでもしないと収まりがつかないみたいですんで」
流石に制止しようとする俺に、ナーリェとモルドレが笑顔で話しに入ってくる。
話しによると、ローディーはレムレムやマグノリアよりも早く起動しており、火属性魔法の中でも特に強い魔法を簡単に使えたり本物の妖精を相手に大立ち回りした挙句大勝利を収めたらしく、最近ちょっと調子に乗りすぎているとか。
ここに来た理由も父であるエーキル伯爵に会いに来ただけでなく、自分の後輩であると勝手に位置付けているマグノリア達に自分が一番強いということを証明しにきた。
他にもいくつか教えてもらったが、やはり一番は自分が二人に力を見せつけてやるというところみたいだ。
ここまで来ていては、流石に制止しなくてはならないだろう。マグノリア達ではなく、ローディーを。
「マグノリア。レムレム」
「マッハで蜂の巣にしようか」
「全て焼きつくすまで。分かってます」
次の投稿は4月7日を予定しています!
いつも沢山のPV・ユニークをありがとうございます!
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