人工妖精は夢を見る。
あれ・・・?身体が宙に浮いてるような気がする。何だか・・・綺麗な青い空が見えてきた。ご主人?ご主人?いないの?どこにいっちゃったんだろう?
不思議な感じ。でもこれって・・・もしかして。
「夢の、中・・・?」
ボクはしっかり目を開いてみると、身体にはボクが妄想していた追加武装にご主人に教えて貰ったウェアラブル端末?みたいなのが目の前に画面として広がっていた。
メニューが開いていて、弾薬の残量は無限マーク、それと何故か燃料の残量が表示されてる。でもこれくらいなら大丈夫そうだね。
それにこれは夢の中だし、派手にやっても大丈夫だよね。それにしては何だか現実味のある夢だけど。まあいいや。
あ、そうそう!一度でいいから言ってみたかったんだ!ご主人に教えてもらったあのセリフ!
「フルアーマー・マグノリア、行きまーす!」
マグノリアの背中に装着された4つのブースターが小さな身体を押し出すと、小さな少女は空を駆け始める。
青い空に小さな手足を広げて加速していくマグノリア。暫くすると、暗闇が近づいてきた。マグノリアは気づいた。これは夢の終わりだと。だけど終わらせたくなかった。最後まで見たかった。だから、自分で思いついたことを夢の中であるけども口に出して、想像力を膨らまる。
いつのまにか目を閉じていたマグノリアは、音に気づく。夢の中でも音はした。遠くから聞こえてくる。プロペラ機の音。
「エンジンは金星?いや違う。これは・・・零式艦上戦闘機!」
マグノリアの目の前には、数機の零式が飛んでいた。ハインドに言葉で教えてもらってしかいないというのに、それは現れた。
「第二次世界大戦の日本帝国海軍と呼ばれていた海軍が所持していた主力戦闘機。ご主人はロートル機とか言ってたけど・・・」
零式艦上戦闘機はマグノリア目掛けて、機銃を乱射してきた。ギリギリで回避したマグノリアは、気づいた。これは戦いだ。自分が想像していた自分と敵との戦い。
「今のボクなら!」
マグノリアはハインドに教えてもらっただけで装備していない筈の91式携帯地対空誘導弾を4基取り出すと、自動的にロックオンして零式艦上戦闘機へと発射された。
赤外線シーカーは獲物を逃さない。それがフレアなどの情報欺瞞を持たない旧兵器なら尚更。誘導弾に見事に追いつかれた零式艦上戦闘機は海へと落ちていく。
「これだよ!ボクがやりたかったのはこれなんだ!」
ボクが考えた史上最強のボク!それこそが今のボクであるフルアーマー・マグノリア!何でこれを思いついたのかはともかく、歩く火薬庫に相応しい姿だよね!アレ?空飛ぶ火薬庫かな?まあいいや!
この前の戦いでご主人を心配させたから、反省点を纏めておいて自分なりに考えたのがこのフルアーマープランなんだ。
ご主人の話を盗み聞きした時に分かったことだけど、ボクはただの妖精じゃなくて人に造られた妖精なんだってこと。でもだからこそ持っている普通の妖精にはない有り余る推進力!ボクにだけ許された力!それを利用しない手はなかった。
かといって、ご主人に新しい武器を作って貰うなんてボクからは言えない。『あのスキル』を持ってるご主人なら嬉々として作るかも知れないけど。
だからご主人に直ぐ貰えるような既存の兵器を使う事にしたんだ。自分で言うのもなんだけど、簡単には堕とされないよ!
「次は・・・紫電改!またロートル・・・」
あれ?ボク馬鹿にされてない?ボク自身に馬鹿にされてるよねコレ。
まあそんなことは置いといて!次はボクの背中について。ボク自身、背中の羽のおかげで莫大な推力はあるけど推進するぶん魔力も消費する。だからH2Aロケットを縮小化してボクでも使えるように取り付けてみたんだ。もちろん!デッドウェイト化に備えて任意パージも可能!
ご主人がロケットについてあんなに教えてくれなかったらこんな妙案は浮かばなかったね。でも流石にロケットだけは既存のものじゃないかな。
「紫電改撃破!次は・・・えっ⁈ちょ、吹雪型駆逐艦⁈嘘だと言ってよご主人!」
対空砲火が激しいけど、ボクだって防御については特に考えたんだ!あの時と同じ思いはしたくないからね!それにボクが追加ロケットを作った理由に、コレが入るんだ。
実はご主人が出かけてる間に色々やっていたら気づいたことだけど、ボクの羽は推進に使わなければシールドのように使うことができるんだ。変形して球状に張り出すこともできる。シールド自体の耐久性だって完璧だよ!
「でも駆逐艦程度なら、これで!」
更にボクが考えたのは、大量の武器による制圧射撃。前はわざわざリロードする必要がある銃を使ってた訳だけど、今回はどんな強大な敵に対しても絶え間無く攻撃する為にいくつものミニガンを用意してみたんだ!
更に更に!敵を確実に撃破できるような兵器を必要とする場合も必ず存在する。だから戦車から対空砲まで大口径弾を大量に準備!滑空砲からグレネードまで、腐るほど相手にプレゼント!最高の素敵なパーティになるってわけ!
ちなみに目の前の敵駆逐艦三隻に対してボクが準備したのは、18基ほどのアハトアハト。
88mmAPCRが理不尽に艦橋に雨のように降ってくる姿を見れば、どれだけ凄いか想像つくよね。
弾幕薄い!なんて誰にも言わせるもんか!
「駆逐艦撃破!次の敵は!」
マグノリアはブースターのスピードを上げて、黒い点のように見える艦へと接近していく。少しずつ見えてきたのは、巨大な戦艦。それに巨大な戦艦の割には平たい感じの艦。そして数隻の駆逐艦。
その編成は、第二次世界大戦時に配置された一航戦そのものに近い光景だった。
「戦艦大和に空母⁈しかも一航戦の空母に駆逐艦まで揃ってるなんて・・・。しかも大和と言えば、かの有名な山本五十六艦長の艦!夢の中とはいえ、こんな敵と相見えるなんて!会ったことはないけど!」
こんな敵と戦うには、ボクの持っている最大の火力を撃つ必要がある。ボクの撃つ兵器に重さは関係ないけど、あまりの強さと冷却時間に使いたくなかった兵器も沢山ある。
でも、今は現実じゃない。仮に冷却が必要でも撃っても大丈夫なはず!
「ボクだって負ける訳にはいかないんだ!最終兵器発動!行っけー!80cm列車砲!」
マグノリアの真後ろに現れるはクルップ社最大の最恐兵器。80cm列車砲。通称はドーラ。だがこれに関しては厄介なことに弾薬の装填に時間がかかる。それを忘れていたマグノリアは、対空砲火発射前に間に合わず、止むを得ずドーラを引っ込める。
対空砲火の中を飛んでいくマグノリア。そこに無慈悲に飛んでくるのは空母から発艦して襲いかかる艦上戦闘機に駆逐艦の主砲と対空砲。
「無理!いくら夢の中でも・・・!」
十字砲火の中でフルバーストしてしまうと銃器が破壊されてしまう可能性がある。だが更に悪いことは続く。
対空砲火の中を突っ込んでしまったのが運の尽き。背中のブースターに被弾してしまい、パージするほかなかったマグノリアは防御に回していた羽を推進に変更。ブースターをパージする。
打つ手無しかと思った時、マグノリアの身に不思議なことが起きた。フルアーマープランにも、己も、それこそハインドに教えて貰って想像したわけでもない。
それはマグノリアの中に最初から入っていた防衛本能。人工妖精に施されたシステム。自分の声がマグノリアに語りかける。
《制御コア解放。神経伝達確認。最終制御術式解除。オペレーションアルウァドラ、スタンバイ》
「無理、だよ、こんなの。ボクに、制御しろって、いうの・・・⁈」
オペレーションアルウァドラ。マグノリアも聞いたことはないそれは、自身の身の危険を感じた際に発動する人工妖精の防衛本能。という名のリミッター解除。
仕える主人に対し、先に撃破されることなど人工妖精には許されていない。故に、最大解放状態下ではどんな敵でも消し炭にすることで自身を守るのが目的。
古代の魔術師達は、それほどのことをしてまで人工妖精を失いたくなかった。
「ハ、ハハハ!幾ら何でも羽と身体が青く光るなんて聞いてないよご主人!でも!分からなくはない!」
ニヤッと笑うと羽は10枚に増えて巨大化。推進力は先ほどの数十倍に跳ね上がり、速度も戦闘機並みのスピードを出して艦隊の隙間を縫うように飛行する。
超低空飛行を始めたマグノリアは水しぶきを上げながら敵の布陣を崩していく。艦隊が混乱したところで12式地対艦ミサイルを50基出して容赦なく叩き込む。そこに各艦の艦橋へMLRSを撃ち込んで、司令系等を潰す。
かの大和ですらアハトアハトによるAPCRで46cm砲を破壊され、戦闘不能に陥った。
遂に当時最強とも呼ばれた第二次世界大戦の艦隊は、たった一人の人工妖精により壊滅した。
これは小さな小さな妖精の夢。それでも大和を潰したことに変わりない。夢の中でも、彼女は強かった。
「終わった・・・夢もこれで終わり。足音が聞こえる。ご主人かな・・・?」
目覚めるとそこは自分用に用意されたベッドの上。目をこすり、ぼんやりと窓を眺めていると反射して映ったのは、何日も帰ってきていなかったハインドだった。
「ご主人!」
「マグノリア。ただいま」
「お帰り!ご主人聞いてよ!ボク、夢の中だけど大和とか倒したんだよ!」
「お、そりゃすげぇな!大和を沈めたか!何か縁起悪いけど、まあいいか!」
「制御コア再封印。制御術式再稼働。アルウァドラ、終了」
「は?アルウァドラ?どうした?」
「だ、大丈夫だよご主人。ただの独り言・・・」
こうしてボクの不思議な夢は終わりを告げた。でも夢の中で見つけたあの感覚はご主人を前にして、治まった。急に湧いてくるように出てきた力は本物だった。夢じゃない。
ボクが、この力を使いこなす日は本当に来るのかな・・・?
次の投稿は3月28日を予定しています!
いつも沢山のPV・ユニークをありがとうございます!
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