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天国から追い出されて不老不死  作者: ラムネ便
その名は、ビッグ・サル
42/91

天文台 1

 

 次々と崩れて行く地下空間。俺はそれを外から眺めていた。隣には助けてきた仲間達、ファローズ、ウィグがいる。

 数分後に陥没した地下空間が露わになり、国の中枢部分である施設を除いて、広場のような場所は完全に壊滅した。


 俺はすぐさま不可思議を開き、生体反応を感知できる赤外線カメラを搭載したドローンを3機ほど展開。壊滅した場所を重点的に確認してみるが、そこに魔力反応は愚か、生体反応すらない。赤外線に魔力が反応すれば少しは期待出来たのだが、これでは生きているのも絶望的だろう。


「兄様・・・」


「ファローズ様・・・」


「分かっています。ビッグサル。兄様の魔力が感じられない。予想はしていたことです」


 ただ崩落した現場を見ているしかなかった俺達だが、ファローズは吹っ切れた顔で自分から政府機関となっていた施設へと向かった。


「ファローズ様⁈何をしに⁈」


「中枢部が使えるかどうかの視察です。まずは本部を立ち上げないと。復興どころの話ではありません。それに治安維持は王立騎士団に任せても大丈夫でしょう」


 ファローズが狙われている可能性もあるので、俺達は彼女についていく事にした。まだ協力者として働けるからな。


 陥没した場所は政府機関の前にある広場のようなものだが、俺達が脱出した出入口は基礎がしっかりしていた施設周辺。おかげで落ちずに済んだ。

 とはいっても施設の大きな扉とその前にある階段から、崩落している崖まで8mほどしかない。危ない事に変わりはない。


 扉をファローズが開き、ウィグと仲間は剣と盾を構える。俺は今更ながらL115A3を再生成して肩に下げておき、両手にレイジングブルを持ち、引き金のロックを解除する。

 ゆっくりと施設内に入っていく俺達。騎士団や傭兵が待ち構えているかと思っていたのだが、人っ子ひとりいない。逆に気味が悪くなってきた。


「ウィグ。敵の反応は?」


「ありませんファローズ様。しかし不思議ですね。人が着けた汚れなどが見られません」


「ええ。確かに綺麗すぎます。まるで人なんて誰一人住んでいなかったように・・・」


 砂埃の一つもない訳ではない。しかし人為的な汚れは全く見られないのだ。貴族らしい部屋はあることにはあるのだが、そこに生活痕は認められなかった。


 食堂には、蜘蛛の巣が張った食器に朽ち果てかけたナプキン。執務室には何も入ってないインク壺に装飾が錆びた羽ペン。娯楽室にはチェスのようなボードゲーム。他にも様々な部屋に突入し、何かしらの問題や敵を捜索してみたが、結局何もなかった。

 あったと言えば、綺麗な宝石をはめ込んだ装飾品が所狭しと飾られている部屋を見つけたくらいだった。どうするかはファローズ次第なので、いじるのは自制した。


「本当に気味悪いなぁ・・・」


「幽霊とか出たりしてな?」


「や、やめろよビッグサル!」


「はははは!まさか!出る訳ないって。それにもう夜明けだぜ?」


「そうだけどよぉ・・・」


 と、そんな冗談をかましながら最後の部屋に辿り着いた俺達。最後の部屋なので、何も無いと思っていた。ファローズが開けようとすると


「痛っ!」


「ファローズ様⁈」


「大丈夫です。少し拒絶反応が来ただけです」


 ファローズに代わり、ウィグが開けようとするが拒絶反応が強すぎるのか、扉の取手を触れることしか出来なかった。他にも俺以外の奴は全員試したが、殆どが拒絶反応に耐えきれず開けることは出来なかった。

 俺は俺で扉にかかってる拒絶反応を不可思議で術式をイジって無効化しようとしたが、魔法陣式の鍵を開けることしか出来なかった。拒絶反応は扉にかかってはいるのだが、全く別の場所からの系統になっている。


 拒絶反応自体は見た感じ静電気っぽい。皆の反応からしても、大した痛みはなさそうだし。ならちょっとばかしやってみる価値はありそうだ。静電気を感じても離さなければいいだけの話だと考えればいけるか?


「んじゃ、最後は俺だな。果てさてどうなるか」


 扉に触れた瞬間、静電気の強い版みたいのが手に来た。痛かったが何とか我慢して取手を掴んで開けようとすると、今度は身体全体に金縛りにかけられたように動かなくなった。

 力を入れようとしても入らない。身体を動かそうにも取手から離れることすらできない。しかも助けて、というその一言すら言えなくなった。


 そこまでして知られたくないものがあるなら、余計知りたくなるというもの。俺は身体を動かそうと必死に力を込める。

 すると、手の甲あたりにまで刺青のような黒い何かが進行してきた。それは俺の身体から出ているのは分かっていた。俺の記憶が間違っていなければ、あの時と同じ感覚。


 これは、魔術原基だ。


「オォ〜プゥン、セサミィィ」


 ちょっと変な笑いを含めて言ったので自分でも恥ずかしかったが、俺のブラックヒストリーなんて数えたらキリがない。これもまた、数ある内の一つとして心の底に刻んでおこう。任意ではないが。


「スゴイ・・・!」


「ビッグサル・・・。貴方は一体・・・」


「さあ!貴様らのブラックヒストリーを出して貰おうじゃないか!」


 と、叫んだまでは良かったのだが、俺の目の前に広がっていたのはブラックヒストリーではなくブラックな部屋。単純に暗いだけなら良かったのだが、ヤケに寒気がした。


「光よ。我の道を照らし給え」


 ウィグが光属性魔法でライト代わりに部屋を照らすと、そこに広がっていたのは大量の武器に大量の血痕。そして十数人の白骨化した遺体だった。どうみても最近のものではない。幾つかの遺体は既に砂埃になりかけていた。


 レイジングブルを構えつつ遺体の横を通り、カーテンを開ける。しかし建てつけが悪くてカーテンが開かないので強制的に開けたら、そのまま壊れてしまった。直ぐにファローズに謝り、許してもらえた。


 朝日が入った部屋の捜索を始めた俺は、カーテンよりもよほど厄介なものを見つけた。

 他の奴らが色々と調べてる間に見つけたそれは、血みどろになりカピカピになっている本能的に開きたくない本。開いたら最後、俺以外の人間がこの世からログアウトしそうな気配がする。


 絶対ヤバいってこれ。


「えっと・・・題名は、『貴族の嗜み』か。見ない方がいいな。絶対に嗜みから怨念に切り替わってる。焼却処分でも勧めとくか?」


「ビッグサル。どうかしましたか?」


「ファローズ様。この辺りのものは焼却処分した方がいいですよ。色々とヤバそうですし。あ、その前にちゃんと供養してやってくださいね」


「クヨウ?」


「ああ、なんて言うか・・・慰霊みたいなものですよ。この部屋自体もそうですが、こういうのは嫌な気が取り憑いてることあるらしいんで」


「ビッグサル。俺そういうの聞いたことあるぜ。確か教会で浄化したりして、しっかりと埋葬してやるんだろ?」


「と、まあ彼の言った通りです。特にこの部屋はヤバいんで。もうビンビンキてますんで」


「分かりました。取り憑かれる前に慰霊しておきましょう。それにしても、ここでは一体何が起きたのでしょう?見た所、争いあった痕跡がありますが」


「・・・血の5日間です」


「血の5日間?」


 ファローズの横で何やら本を調べている、デッカい斧を持った男が言っていた。


「はい。貴族連で発生した身内の殺し合いの事件です。詳細な記録はありませんが」


「・・・やはり教えなければならないか」


 ウィグは一度部屋から出ようと言って、先程クリアリングして安全を確保した食堂へと俺達を連れて行き、それぞれ椅子に座らせた。


「これは陛下から明かされた、貴族連、果ては王族にまつわる全ての真実の話です。陛下は話す前に」


『いずれ明るみになる真実だが、一時的に埋もれてしまう前に皆が知るべきだ。特にファローズはな』


「と仰っていました。いつか話そうと思っていましたので、この機会を利用させて頂きます」


「なあウィグ。俺は部外者なんだが、聞いてもいいのか?」


「明るみになる真実は、人を選ばない。つまりそういうことだ」


 要するにどうせ分かってしまうことなのだから、俺が聞いてしまっても問題は全くないということなのだろう。


「続けてください。兄様は、何を語ったのですか?」


「では、まずは王族の特権であり、鍵ともなるある能力『天文台』について、お教えしましょう」


次の投稿は3月23日を予定しています!

いつも沢山のPV・ユニークをありがとうございます!

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