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天国から追い出されて不老不死  作者: ラムネ便
その名は、ビッグ・サル
37/91

作戦開始

 

 正確な時間は不明だが、少なくとも完全に今は陽が落ちている。天気も良好。オマケに風ひとつ無いときた。こんなにいい条件はそうそう訪れないだろう。

 だからこそ俺は必ず今日実行しなければならないと推した。推して推して推しまくった。


 その結果、実行は今日となった。


 作戦の細かい内容は幾つかあるが、基本的な戦闘法は子供でも分かるほどシンプルだ。複数の班に分かれて、敵を撹乱しながら戦う。

 だが前回失敗した要因はこれではない。前回は撹乱までは良かったみたいだが、長時間でチマチマ戦っていて、かつ周囲の人間を巻き込まないようしていたのが敗因。


 何が悲しいかって、彼らは再び同じことをしようとしている。少数精鋭は撹乱して長時間戦うのではなく、短時間でケリをつける必要がある。故に俺が言える作戦内容は・・・。


「スニーキングだ」


「スニーキング?」


「そう。敵に見つからないように行動し、一切の痕跡を残さずミッションを完遂する。それがスニーキングだ。特に陽動部隊以外の別働隊は尚更だ」


「もし、敵に見つかったら?」


「決まってる。サーチアンドデストロイ。サーチアンドデストロイだ」


「さ、サーチアンド、デストロイ?」


「見られたら殺せ。必要あらば見ても殺せ。兎に角迅速かつ冷徹に判断し、作戦を実行しろ」


 意味が違ってる部分もあるが、問題はない。

 言ってることは厳しいのかもしれないが、このくらいのことはしてもらわなければ、勝利など夢のまた夢。やるからには徹底的にやる。


「だがあのシールド魔法はどうする?突破は不可能に近い」


「それならひとつだけ、作戦があります。陛下。ただし、この作戦にはある問題があります」


「ある問題?」


「はい。俺がある兵器を使う事により、魔法を使った瞬間に暴発します」


「暴発だと⁈」


 滝壺内がざわつき始める。魔法を使えば暴発してしまう。そりゃ何故そうなるんだって話になるわな。

 というわけで今回俺は、ECMとEMPを初っ端から発動して戦わせてもらう。


「理由は・・・まあ聞かない方がいいか。どこで聞かれてるか分からないしな」


「賢明な御判断です。陛下」


「兄様!」


「落ち着けファローズ。彼の兵器が貴族連にあるはずがない。彼を信用してみる価値はある」


「・・・ビッグサル。下手な動きをしたら私は容赦なく殺す」


「承知しました。では、そろそろ始めましょうか。演説」


「本当にやるのか?」


「ええ。やりましょう」


 大音量スピーカーを吊り下げたドローンを何機も準備しプロジェクタードローンも用意。地図とジャイロシステムによる誘導で下層と中層の壁に近づけていく。


 おそらく下にいる人は全く気づいていない。まあガヤガヤやっているというのもあるか。


「さて。最終確認をするぞ」


 演説をしている間、お前達はビッグザルに渡された爆薬を設置。演説終了と同時に爆破。ビッグザルによる陽動部隊は各場所で撹乱。別働隊は俺と共に引きこもった豚共を切る


 陽動部隊は同時に市民の逃げ場を確保。誰でもいい。さりげなく誘導しろ。

 そして魔法は使用禁止だ。回復魔法が使える後方支援部隊は離れて活動しろ。


 陽動部隊は敵を撃破後に別働隊と合流。

 誰が死んでも前を向け。例え俺が死のうとな。


「そしてファローズ。お前は陽動部隊で敵を殴れ。汚れ仕事は俺達が引き受ける」


「兄様!私も行きます!」


「お前がいなくなれば、誰がこのエヴィロイドを導く?ファローズ。お前には民を導くという仕事がある」


「しかし!」


「ファローズ!お前は兄の言いつけすら守れなくなったか⁈」


「いえ!兄様に私は従います!」


「そう。それでいい。私が死んだ時こそ、お前は従う必要がなくなる」


 歯をギリッと噛み締め、その場を去り装備を整え始めるファローズ。他の反乱軍の人達も爆薬を仕掛ける為に滝壺から出て各々活動を始めた。


 俺はビデオカメラとライトをジョシュアに向けて、各ドローンの中継を開始。プロジェクターを起動。エヴィロイドの壁に映り始め、人々は見慣れぬ光景に足を止める。


『エヴィロイドの民よ!私の名は、ビッグサル!君達を開放する手助けをする者だ!民よ!私は諸君の願いを叶えた!』


 国中に響くハインドの声。プロジェクターにノイズが少しだけ入り表示されていく人影。そこに立っていたのはジョシュア。

 人々がざわつき始める。何せ反乱軍は壊滅したとされていたからだ。しかもその首謀者が生きてるともなれば、話が違う。


『私は、いや我々は今日と言う日の為に準備してきた!』


『政府によって強いたげられ、反抗しよう者なら切り捨てられ、前回の失敗を含め、私たちは今日を迎えるに至るまで多くの犠牲を払ってきた』


『我々本来の王族が玉座から葬られ!その間にも独裁の輪を拡げ!法を捻じ曲げ!今では一般市民ですら怯えなくてはならなくなってしまった!』


『それを良しと認めていいのか⁈否!認めるなど言語道断!正しき道に進む民を邪魔する政治など!犬の餌にもならん!』


『これを聞く全国民に問う!貴様らはエヴィロイドの民か⁈』


「そ、そうだ!俺達はエヴィロイドの民だ!」


「俺も!」


「私も!」


 俺も僕も私もと声が上がり始める。実はこれは俺が予想したものではなかった。マイクとカメラをを追加してあったのは下の国民を見るだけのものだった。そう。全てジョシュアの即興なのだ。


『ではエヴィロイドの民よ!その右の傍にあるものは何だ⁈』


「「弓矢と剣、又は敵を殺すものである!」」


「お、おい!騎士団が何か言い始めたぞ⁈」


 俺も驚いた。何せ先程まで我が物顔で歩いていた騎士団が、なんと馬から降りて100人以上の団員達が兜を外して剣を腰に挿して、手を後ろに組んでいるのだから。


『ではエヴィロイドの民よ!その左の傍にあるものは何だ⁈』


「「愛しき妻と誓いの指輪である!」」


『ではエヴィロイドの民よ!貴様らは何の為に戦う⁈』


「「我らに仇なす敵を全て葬り去り」」


「「悪夢の醒めぬ地獄の底へと送り込む為!」」


『ではエヴィロイドの誇り高き騎士達よ!貴様らの使命はなんだ⁈』


「「祖国栄光の為に己の身を投げ捨て!」」


「「幾千の武器を振るい!」」


「「我らが王の玉座を死守することである!」」


『よろしい!国よ!民よ!そして王立騎士団よ!よくぞ180年もの間、耐え続けてくれた!』


 これがカリスマなのか。そう。カリスマなのだ。目の前には自分のいた世界では見たことがないカリスマがいる。内閣首相が下に見える。

 画面越しでもヒシヒシと感じるくらいだ。


『王立騎士団に告ぐ!君達以外の騎士団は全て敵だ!銀白馬の旗に集い、敵を倒せ!ただし!倒すべき敵を履き違えるな!敵はただの一握り!結界の先の豚共だ!さあ!今こそ道は開く!』


 俺が手渡していた特製のC4爆薬が爆発する音が聞こえた。

 俺の想定外中の想定外だった。爆発と同時に起きた火事の狼煙が、中層の壁からでている。下層に入る為に爆薬を使うのかと思っていたが、そうではない。下層から中層への扉を爆破してこじ開けたのだ。


『進め!進め!進め!進め!進め!敵はその先にある!』


 幾つか爆破され穴が開いた場所から進入していく騎士団の団員達。中層にいる、全く違う色の旗を掲げている騎士団は逃げるか、或いは無謀な条件でも戦おうとするか。


 住民は流れるように下層地区へと逃げ込んでいく。だがやけに不気味だ。まるで最初から分かっていたかのような動きをしている。 住民の中に流れを作る人間を含ませているのか?駄目だ。全く分からない。俺にはこの作戦が全く理解出来ない。

 いや・・・?


「・・・そういうことか。陛下。貴方、俺に、いや全員に黙っていましたね?」


「騙すには味方から、だ。私とて勝率のない戦いなどしない」


 凡ゆることは、我らエヴィロイド一族。180年沈黙してきた訳ではない。下層への避難、王立騎士団の反乱、避難経路の作成。全てが全て180年間の成果。

 180年間もの一族の血と汗と涙を込めたこの作戦、失敗するわけにはいかなかった。


 反乱軍の壊滅という話も私が送り込んだ偽情報。我らを追撃したのも王立騎士団であり、ロイスにあえて重症を負わせたフリをさせていたのも私の作戦だ。いや?王立騎士団はファローズの案だったか?まあいい。


「あのシールドは想定外だった。だがビッグサル。君のある兵器を信用してでの作戦実行だ。信じさせてもらう」


「分かりました。さあ、行きましょうか。我々も。別働隊に俺もついて行きます」


「いや、ビッグサル。君は我が愛しき妹を生きて帰らせろ。兄様兄様と言おうと、私の前に立つる事など許さん」


「・・・承知しました。必ず生きて、かつ陛下の目前に連れてこないことを御約束します」


「ああ。では、また会えたら陛下をやめて名を呼んでくれ。名も知らぬ友人よ」


「承知しました」


 ハインドは小さな衝撃波装甲の衝撃波を利用し足元に爆発起こしながら壁を飛び越えて行く。それを見届けるジョシュア。


「さあ。この国の礎となる準備は出来たか?ウィグ。いや、ロイス」


「ええ」


「初代エヴィロイドは自らの死を以て建国したという。政はファローズさえいれば問題ない。私は初代と同じ道を歩む」


「やはり天文台、ですか」


「全ては神の予言。私は勝率など知らない。ファローズも、この作戦も、ビッグサルも、確実に成功するだろう。だが私が死ぬかどうか、それだけは分からなかった。しかし」


「しかし?」


「死んだとしても、その死が無駄か、そうでなかったかは我々が決めるのではない。歴史が決めるのだ」


 ロングソードを片手に6人の護衛を付けて一息つく。


「さあ。180年間分の力を込めて、敵を切り裂き、道を開く。行くぞ。報復の時間だ」

次の投稿は3月5日を予定しています!

いつも沢山のPV・ユニークをありがとうございます!

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