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天国から追い出されて不老不死  作者: ラムネ便
休暇はのんびり過ごしたい
30/92

火力を揃えろ! 2

相当送れてしまいました!申し訳ございません!


 誰もいないグラウンドにただ一人、草だらけの服を着た男がいた。その傍らには背中から菱形の羽が六枚ある妖精が、自分の目より大きい双眼鏡から50m先にあるセラミックスの板を見ている。


 男はライフルの脚を広げるとうつ伏せになり、手から出したレーザーポインターをマウントベースに装着。スイッチを入れて箱から338.ラプアマグナムを1発取り出すと弾倉へ丁寧に込めた。

 弾倉がライフルにセットされ、ボルトを引く。ラプアマグナムは弾倉から銃身の作動部へと移る。

 ボルトを押しレバーを降ろす。指はその先のトリガーへと向かっていく。


「・・・敵、移動なし。誤差、許容範囲だよ」


「タイミング合わせ、どうぞ」


「5秒前。4、3、2、1」


「ファイア!」


 ラプアマグナムはサプレッサから静かに抜けた音を立てて、セラミックスの板へと飛んでいく。コンマ数秒後、甲高い金属音と共にセラミックスは深い窪みを付けられ、ラプアマグナムは慣性運動の法則に従って完全に潰れきる。


「観測手有でこの精度か」


 グラウンドの関係で距離が50m前後しか出せないとはいえ、L115A3自体の安定性は証明された。

 ライフリングの処理が甘いとコマの回転運動に乗らない、なんてこともあるらしいが俺のスキルによって生成された銃に不具合は今のところない。というか、あったら困る。


 結果、マグノリアの観測とレーザーポインターの位置はセラミックスが被弾した箇所になっている。ラプアマグナムの問題もない。ミスファイアもなかった。

 狙撃技術に関しては俺のスキルの恩恵もある。やろうと思えばゴル◯13になれるわけだが、M16をスナイパーライフルにしようとは思わない。やれなくはないのだが。


「さぁて。L115A3を実戦配備できるようにするためにも、ちょっとクエストやってみるか」


「そういえばご主人。ボクの狙撃銃はどういう名前なの?」


「は?」


「だってご主人、その狙撃銃のことをL115A3って呼んだよね?じゃあボクのはなんて名前なの?」


「マグノリアのは確か・・・なんだっけな。強力なやつってだけは覚えてるんだけど」


「ご主人も老いたものだ」


「うるせぇやい」


 ちなみにマグノリアにタイプ2と呼称させているアサルトライフルはH&K社のHK417を採用させてもらっている。アメリカ軍での大規模採用はなかったが、そもそもアレはM4カービンの不満点を改良した中々の一品だ。M4より信頼性は高い。

 前のクエストでマグノリアの試験のついでに実地試験を行わせるつもりだったから、マグノリアが使用したときに排莢不良が発生しなくて良かった。


 ただやはり、マグノリアのは思い出せない。少なくとも俺が考えられる狙撃銃の中で、かなり強いものを渡していたはずなんだが。

 インパクトが強すぎるのも考えものだ。


 とりあえずクエストにでもいってL115A3の実地試験を・・・いや、待てよ。火力がコレだけじゃ足りないよな。攻めて何かしら・・・そうだ。電子装備品が欲しい。効果があるかどうか全くわからないけど


「とりあえずECMでも造ってみるか?」


 鑑定スキルのスキル選択画面を開いて、電子妨害技術を選択。

 サイズは腰にぶら下げられる程度の大きさで妨害の威力はイージス艦レベルのものにして、ついでに最大稼働時間が20日間ある大容量バッテリー。発信アンテナは任意で単一方向に変更可能とし全方向にも飛ばせる、俺の世界の並行世界に存在していた新型のロウォ式を採用。


 ロウォ式のシステムを構築するプロセスについて幾つか書かれていたが、スペクトラム拡散やら広帯域雑音の強化のためのうんたらかんたら。よくわからん。プログラミングに関してもさっぱりなので無視して開発を開始。

 手持ちサイズかつ既存のシステム、そしてほぼ同年代の技術を使用するので、たった2分という即席ラーメン並みの早さで完成した。


「これが並行世界のECMか」


 ECMとはホーミングミサイルや、レーダー等に対するジャミング装置の一つだ。俺が作ったECMは、自らがジャミングを流し敵の電子系統を乱すアクティブ方式と呼ばれるもので、デコイや俺が使うスキル『抹消迷彩』などのステルス技術などはパッシブ方式と呼ばれる。


 と、まあ復習がてら自分に説明してみた訳なんだが、これが魔法に効果があるかは試さないと分からない。

 ただ、以前にシラルの街でスーパーハインドが仕掛けられていた魔法陣を赤外線カメラが捉え、警告装置は小規模な火属性魔法をミサイルと感知した。

 仮に魔法陣が熱量を保持したエネルギー源だとして、飛ばすものを電波に例えることができるならば、それを乱すこともできるはず。


「・・・起動だけしてみるか」


 正十二面体の形をしたECMの一つの面にあったスイッチマークに触れるとSTARTのマークが表示され、勝手に浮遊を始めた。俺が移動してみるとECMもついてきた。並行世界の技術進みすぎだろ。


 効果があるかどうかの実験なので、効果範囲を全体に設定。ジャミングの範囲も広くしておいた。

 すぐに効果が出たらびっくりするんだけどな。まさかそんなことはあるまい。


「失敗だったら魔力化だけしとくかぁ。とりあえず街中にでも出」


「お、おい!なんだこれは⁈屋敷の結界が解除されていくぞ!」


「早く伯爵に報告しろ!魔法陣がおかしい!術式が乱れ始めている!」


 ・・・え?


『こちらウェスター伯爵だ。緊急の広域通信魔法が使えない為、ワイヤー伝線による通達とする。非常マニュアルBを発動。屋外にて作業している通常使用人は屋敷内へ退避。ジュリアの指示に従い迅速な避難を行え。魔術処理班及び、戦闘要員は私に続け。繰り返す・・・』


 いやいやいやいやいや!たかがECMだぜ⁈なんで魔法陣自体が狂い始めてるわけだ⁈

 まさか・・・魔法陣が電波そのものってことなのか⁈だけどジャミングだけで機械が壊れるなんて例は見たことがない!

 まてよ。ジャミングがありながら機械が壊れる要素ならあった。


「EMPだ・・・!この世界じゃ魔法陣に対してECMはEMPになっちまうんだ!」


 EMPとは核爆発が起きた際に発生する電磁パルスのことで、分かりやすく身近なもので例えるなら落雷だ。EMPは真空管やアース線などの対策をしていないと、定格電圧の容量を超えたサージ電流を電線に通し電子回路を使い物にしなくさせたり誤動作を起こさせたりする。


 ん?電子回路・・・?誤動作・・・?


 俺のECMは魔法陣を狂わせた。前にリリスは魔法陣は言語と紋を組み合わせた緻密な術式そのものだと説明してくれた。エンチャントや身体強化に使われる簡単な術式は魔法陣ではないとも言っていた。

 仮に術式となる一つ一つの言葉や紋を、一つ一つの小さな半導体として考えてみれば、術式は半導体の塊。魔法陣はその半導体の塊が更に集まっている。



 そうか!すなわち魔法陣は沢山の半導体が集まって高度な命令が実行出来る、デカイAIサーバーみたいなもんだってことか!身体強化術式は簡単な命令なら可能なPC!

 さすが俺!情報5段階評価で5を取るだけはあるぜ!


「いやそうだけどそうじゃねぇよ!ECMを止めないと!ストップ!ストップ!」


 ECMが止まり玄関に行った頃には、結界の要になっていたであろう石に刻まれていた緻密な魔法陣が見事にめちゃくちゃな言語や数値へと置き換わっていた。


 伯爵に謝罪した結果、ECMの全てを教えることを条件にこの事件は無かったことになった。

次の投稿は1月28日を予定しています。

いつも沢山のPV・ユニークをありがとうございます!

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