のんびり休暇 6
朝日が昇る。それは夢ではなく、まぶたの裏で感じることができる普通の太陽。
ベッドの上で目覚めることは出来たが、俺は基本的に朝が苦手なタイプだ。朝勉強が捗った覚えは全くない。
「あー・・・。ダメだ。頭が回らねぇや」
とりあえず昨日は・・・馬車で屋敷に着いて、騎手に新聞貰って、マグノリアを寝かせて俺も直ぐ寝付いたのか。
そういえば探してる間にアップデートが終わってマグノリアの救出作戦で実験も兼ねてレーゲンベルグを使って・・・。
「もういい。朝飯食べに行く。時間は・・・6時50分か。7時からだからシャワー浴びてから行くか。あと昨日の新聞持って・・・」
シャワールームで汗を流し、近くにあるタオルで身体を拭いてからワイシャツを着てベストをその上から着る。
この世界には半袖シャツなどというものがないみたいで休みの日もウェスター伯爵は大体ワイシャツで過ごしているという。
伯爵家っちゃあ伯爵家らしいが、俺自身制服が嫌いなわけでもない。オシャレという社会の謎システムから抜け出せるのだから素晴らしいとしか思わない。
シャワーのお湯を浅い皿に入れて、マグノリアをお湯に入れてやって髪の毛も洗う。男だからといって面倒を見ないわけには行かない。
お湯に入っているにも関わらず、マグノリアはスヤスヤと寝ている。時折笑うのは、良い夢でも見ているのだろう。
だがな。朝は目覚めなければならないのだよ。
「マグノリアー。起きろー」
「んあ?ごしゅしん?」
「誰が主神だ。俺はオーディンじゃねぇ」
「あれ?なんでボク裸・・・?」
「風呂に入れただけだ」
「エッチな事・・・考えてたんじゃないの?」
「余計なことは忘れなさい」
「ご主人が教えたんだよ・・・?」
「よし。先に食いに行くからな。勝手にしてろ」
「あう・・・ごめんなさい。ご主人。だから置いてかないで・・・」
昨日のトラウマがまだ消えるわけもないのでマグノリアを待ち、木箱の服を着せて食堂へ向かう。途中、リリスに会ったのでコレンがどこにいるのか聞いてみたのだが
「そういやぁ・・・昨日から見てねぇな」
という答えが返ってきた。昨日何をしていたかは分からないが、話を聞いたところ俺が出かけると同時に外出したらしい。
流石にどこかへふらりと行って消えるような愚か者ではないとは思うのだが・・・。
1階の食堂に向かう時は必ずウェスター伯爵の部屋を通り過ぎるのだが、今日はやけに静かだ。中で論文を書いているとも思えないほど静かすぎる。魔力も全く感じない。リリスの耳なら何か聞こえるかと思ったのだが、何の反応もないと言われた。
一体どこに行ったんだ?
「!ご主人・・・」
「マグノリア?」
「どうしたんだぃ?ちっちゃいお嬢ちゃん」
「何か・・・何か変なものがいるよ!」
「変なものだぁ?」
リリスが伯爵の部屋の扉をドロップキックで勢いよく蹴り破ると、そこには起動しかけている謎の魔法陣があった。
「闇属性の転移魔法陣か・・・んだよこれ。術式を緻密な計算に置き換えたのかよ⁈やる事が違いすぎるだろ!」
「リリス。俺が魔法陣に関して全くの素人だと仮定した上で分かりやすく教えてくれ」
「実際素人だろ?」
「・・・はい。そうです。何も知りません」
「魔法陣つーのはな、言語と紋を組み合わせた術式そのもののことだ。殆どの魔法陣がそのタイプであり、世間一般に知られ作成されている通常の転移魔法陣も同様だ。武器に使われるエンチャント用や身体強化用の術式なんかもあるが、ああいうのは簡単なものだから魔法陣とは言わないな」
「へぇー」
「通常のタイプは場所と場所を繋ぐ、駅みたいものだ。2つ以上なければ使えない。だがこの転移魔法陣は違う。計算式をそのまま術式として転用している。式さえあってさえいれば、好きな座標に跳べるだろうぜ」
「要するに?」
「こんな魔法陣を作れるのは並外れた天才か、イかれた性癖を持った変人か、ってとこだな」
酷い言い様だが、魔法が得意なリリスにとって素人の俺に一番分かりやすく説明するとこうなるんだろう。
計算式さえ成立していればどこへとでもジャンプ可能な魔法陣。ワープゾーンと違って精密な設定ができるからど◯でもドアみたいな感じか。
「ご主人!光ってる!」
マグノリアが指をさす方向を見た時には既に魔法陣が青く光り出していた。さほど強くはなく肉眼で見ていても問題はなかったが、問題はその光景にあった。
魔法陣の上にいたのは、頭から血を流し包帯を巻くだけの軽い応急処置をしているコレン。そのコレンが腕を支えてやっているのは、全身を負傷している男。その背後にウェスター伯爵。
まるで事件が起きたのかのように三人共々ボロボロになっていて、それを見たマグノリアは急に泣き出し、リリスは冷静に薬草が入った小瓶を出してコレンの治療に乗り出す。
俺は回復魔法が使える訳ではないので、近くにいた使用人に兎に角回復魔法が使えるやつは全員来いと命令させた。
結果、15人ほどが2分ほどで到着。比較的軽傷である伯爵とコレンを先に治療し、リリスは全身に傷を負っている男に回復魔法や薬草を使って治療を開始。
朝食にありつけたのは、9時を過ぎた頃だった。
「朝から忙しくしてくれるもんだぜ全く・・・」
「リリス。男の容体は?」
「処置はした。医者が来るまで奴に生きる気力があるなら大丈夫だと思うぜ」
「生きる気力ねぇ」
「生きとし生けるもの、全員そんなもんよ」
朝食はパンとコーンスープ、野菜サラダにチキンソテーと朝にしては力がつくものが沢山ある。というより、料理長のユアンさんが朝からドタバタした使用人達のためにメニューを追加・変更してくれたんだろう。
「そういえばコレンと伯爵は?」
「団長は部屋にいる。伯爵は奥様とラブラブタイムに突入だろうよ」
「入るのは無粋ってことか・・・」
朝食後、コレンがいる部屋にリリスと向かう手筈だったのだが心配し過ぎるロアを心配して一緒に居ると言い出したので俺とマグノリアだけで行くことになった。
こっちとしても恋人の邪魔はしたくない。俺はただ何も考えずコレンの元へ向かう。
「コレン!入るぞ」
「おじゃましまーす」
部屋に入った時、コレンは寝ていた。今ここで何か聞かなければならないほどの緊急性が高い訳でもない。伯爵のお見舞いに行こうと部屋を出ようとした瞬間、机の上に視線がいった。
そこにはびっしりと文字が書かれているメモ帳が4枚。裏になっているのでめくってみると、コレンの筆跡と思しきもので俺宛に綴られていた。
『公爵様。この紙を見ているということは、俺は今寝ている頃のはずです。今から書いてあることは、とても勝手なお願いです。お気に召さなかった時は見てない事にしてもらうと幸いです』
「コレンらしくない書き出しだな」
『公爵様が出かけた当日、王都で新聞を読んで驚愕した俺は、伯爵の実験途中の転移魔法陣を無理を言って使わせてもらい、故郷のエヴィロイドに向かいました。しかし、転移した場所はよりによって反乱軍の本部でした。幹部のウィグは行方不明。散り散りになっていた反乱軍には元国王の兄妹がいました』
「ほお」
『俺は反乱軍と兄妹を逃す為に応戦しましたが、敵はゴーレムを使っていました。何とか撃破には成功しましたが、反乱軍の半分を失ってしまいました。このまま故郷が枯れたような傲慢な国になるのが俺は嫌でした』
「・・・」
『追っ手を追撃し、援軍と戦闘している間に反乱軍とは別方向に誘導はできました。同時に死にかけた幹部を伯爵が発見して回収し、転移魔法陣で難を逃れました。しかし、反乱軍は未だに山中の小拠点にいます。お願いです。彼らだけでも助けてもらえませんか?無茶であることは承知のうえです。お願いします・・・』
ただ、立ち尽くすしかなかった。
反乱軍の人間を騎士団に迎えるということも頭に過ぎったが、騎士団という与えられた場所より、己で奪い返した故郷の方がいいだろう。
どうすればいいのか。それ以前に何をすればいいのか、考えつくはずもなかった。
するとマグノリアが肩から降りて、コレンのメモ用紙の上に自分より大きい羽ペンを使って、下手なひらがなである言葉を書いた。
『たたかいは、つねににてさんてさきをかんがえるものだ?』
最後にハテナマークがついてるのはよく分からないが、何だか俺は笑ってしまった。マグノリアにとっては練習のつもりだっだのだろう。
そして俺も漢字で言葉を書いておいた。
『出資者は無理難題をおっしゃる。が、貴殿の心意気に免じ、その願掛を叶えて進ぜる』
「何て書いてあるの?ご主人。ボク、分からないよ?」
「ん?そうだなぁ・・・いつか教えてやるよ」
「ご主人のいじわる!」
俺はコレンの部屋を出ると、近くの使用人にあることを聞いた。
「なあ。この近辺に仮面を作れる店ってあるか?」
「え?ええ。ありますよ。ですがこの近辺となると王都になるんですが」
「それでいい。案内してくれないか?」
「は、はい。承知しました。準備をしますのでロビーでお待ち頂けますか?」
「ああ。待ってる」
使用人が急いで自分の部屋で準備をするために行くのを見届け、俺はロビーへ向かう。車は73式小型トラックでいいな。生成済みだし。
今回、俺は公爵としては参加できない。もし参加してしまえば一国に対してアルスが介入していることがバレてしまう。だが結局のところ、バレなければ介入ではない。外部からの協力となる。
俺だって元は無類のゲーム、アニメ好きなんだ。作戦を考えるのは苦手だけど、アレンジするのは得意中の得意。期間限定だけれども言わせて貰うぞ!
今日から俺は・・・《BIG SARU》だ!
次の投稿日は1月12日を予定しています!
いつも沢山のPV、ユニークをありがとうございます!
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