のんびり休暇 2
今回は2000文字程度です。
少なくてすいません。
「いいかマグノリア。まずは俺の名前から覚えるんだ」
「ご主人。なまえ?」
「そうだ。俺の名前はハインド。言ってごらん?」
「は、はいん、と?」
「とじゃない。ど」
「と、ど、はいんで?」
「なんか酒の名前みたいな感じだ・・・じゃなくてだな!」
出会って数分で俺の名前を呼ばせるのは流石に無理があったか。
だけど教育しないと意思疎通も簡単なモノのままになってしまう。小難しい話も早めに理解できるように会話表現くらいは慣れてくれないと。
この後、時間が許す限り俺の名前をしっかり発音できるようにして軽い算数などを教え、それなりに会話できるようにして夕食を食べて寝る予定だった。
しかしこの時俺は、古代文明という物差しが如何に長く、強烈であるかを知ることになるなど思いもしなかった。
「レムレムちゃん。こっちよー」
「ままー」
「こうしてみると・・・中々可愛くみえるな」
「ええ。古代文明が作ってくれて嬉しいわぁ」
一方伯爵の方でも人工妖精の起動に成功し、レムレムと名付けてジュリア夫人の部屋で楽しく遊んでいた。
伯爵側の人工妖精は髪が深い青で瞳は紫。性格は未だにないが、懐いてはいた。
だが伯爵には不安もあった。
実は人工妖精は製造方法に関して不明な点が多く、古代文明の妖精、或いは関連性のあるものを扱うエーキル・クラウェンでさえ製造方法が確立させたところで人工妖精のブラックボックスを開けることは出来なかった。
何故古代文明が高度な技術を持ちながら衰退したのか。これは伯爵が専門とする魔法歴史学、魔法論理学に繋がる。
一応諸説あるのだが、どの説も裏付けを取ることは未だにできていない。
結論から言うと、人工妖精ももしかしたら古代文明衰退の原因かもしれないのだ。
伯爵にとってそれだけが一番の気がかりだった。
「まあ、今のところ問題を起こしてる訳でもない。放っておいてもいいか」
「伯爵様。失礼します。お客様がいらっしゃいました」
「誰だ?」
「エーキル・クラウェン様です」
「今来たのか⁈荷物届いたばかりだぞ⁈」
カツカツと部屋に近づいてくる足音。
足音の主はジュリア夫人の部屋の前に立つと伯爵を見るなりこう言った。
「待たせたな!ウェスター!」
「エーキル!」
互いにハグするかと思ったその瞬間、伯爵の手から投げナイフが出てきてエーキルの喉元に突きつける。
エーキルはただ笑いながらナイフを下げようとするが、意外と力が強くて下げられない。観念して銀貨が入った麻袋を渡すと素直にナイフが下げられた。
「最初から出せばいいものを」
「奢りにしてもらうのも気が引けたからさぁ」
「本音は?」
「研究資金が足りないから奢りにしてもらいたかったです。はい」
「全く・・・。お前の事だ。返しに来た以外にも用事があるのだろう?」
「ああ。1日で構わない。泊めてくれないか?」
「理由は」
「ほら。俺の家は爺さんの代から継いだものだろ?老朽化が目立ってきたから結界処理を兼ねて屋敷を大規模改装することになってな。寝室工事から始めてもらうのだが・・・」
「つまり場所がない、と?」
「論文を期日に間に合わせたいのもある。頼めないか?人工妖精についても教えるからさ」
「人工妖精についてもか。なら見返りは十分だ」
「見返りってお前・・・」
伯爵が執事に空き部屋に案内するよう命じ、エーキルは上着を持ち直して付いていく。
階段を二度上がり、空き部屋に到着して食事の時間やシャワーの位置などを教えてもらい、執事が出て行く。
上着を椅子に掛け、ベッドに寝転がるエーキル。ロビーに置いてきた私物も使用人に運んできてもらい、鞄の中に入っていた論文を取り出すと、置いてある羽ペンとインクで書き始めた。
「この時、古代文明は衰退ではなく繁栄を謳歌していると考察可能ではないのか。これらの歴史学的観点によって・・・」
数時間エーキルが論文を書いていると、部屋の外から声が聞こえてきた。それは使用人の声ではなく、聞いたことがない若い男性と少女の声。
論文にも区切りがついたので部屋から出て確認してみると、そこには噂で聞いた伯爵の弟子であるハインドと人工妖精のマグノリアがいた。
「噂に聞いた通りだ・・・。あいつ、弟子を取っていたのか。で、隣にいるのは・・・俺の送った人工妖精だな。やけに流暢に話してるが」
ドアの隙間から覗いて聞いてると、エーキルには全く分からない話をしているのが見える。
「じゃあ練習するぞ。30秒以内で自己紹介!スタート!」
「ボクの名前はマグノリア。好きなものは青いものだよ」
「ボクっ娘に教育した甲斐があったというもの・・・!じゃあ俺から適当な質問をしてみるから答えてみてくれ」
「ご主人の質問ならなんでも答えるよ」
「よろしい。では・・・マグノリアが好きな言葉を、一つだけ答えなさい!」
「ボクの好きな言葉は『歩く火薬庫』かな」
「・・・余計なことは教えない方が良かったか」
「あれ?ボク、何かご主人の気に障ること言った?謝るよ。ごめんなさい」
「あ、いや。謝らなくていい。これなら屋敷の皆に紹介できるな」
「ボク、出来るのかな?」
「できるさ。自分を信じろ。お前ならやれる」
ハインドとマグノリアは部屋を後にし、どこかへ行ってしまった。
エーキルはというと、ただただ見つめているしかなかった。何故なら、それは彼ですら分からなかった事が、今ここで行われていたからである。
「人工妖精の学習能力があれ程まで高いとは!まだまだ俺も未熟ということか」
エーキルが部屋に戻ろうとした時、ハインドの顔を思い出し、あることを思い出した。
そのあることとは、ハインドが後ろを向いたことでエーキルにも見えた、あの首あたりにまで出てきている刺青のようなもののことだ。
彼には見覚えがあった。
「あの刻印・・・いやまさか。だが、もし仮にアレを完成させた奴があの公爵なら・・・まず只者じゃない。俺ら魔法考古学者に重要なことを隠している。・・・カマをかけてみるか」
「「その必要はない」」
エーキルの頭に突き付けられたロングソードと木の杖。突きつけたのは黒髪の獣人族、グィネヴィアと騎士団長コレンだった。
いつもPV・ユニーク、ありがとうございます!
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