のんびり休暇日 1
「野菜の切り方。肉の切り方一つでも違えば味は台無しになります。慎重かつ大胆に。料理とは芸術です。唯一、刃物で人を喜ばせることが出来るのが料理ということも忘れないでください」
「はい!」
「ふむ。違和感が全く仕事をしないのだが・・・とうとう私の眼も老いたのか?」
「伯爵の目は何時でも異常無しです」
俺とユアンさんの姿など、側から見れば料理教室の講師と生徒程度にしか見えないだろう。俺はエプロンを付けて包丁の握り方から、切り口の形による煮崩れの原因まで凡ゆることを教えてもらっている。
例えそこに立っているのが、料理王と国の公爵という地位が全く違う人間でも変わりない。
「そう・・・そうやって角をとると煮崩れしにくくなります」
「これが面取り・・・」
「こうすることで他の野菜とぶつかってもヒビが入らなくなります。角をとる際に出た細かいのは入れて下さい。野菜の甘みが出ます」
まさか一人暮らしのつまらない生活から料理人の指導を受けられるなんて、夢にも思わなかった。
それに何だかんだ言ってこちら側の生活というのも悪くないもんだよ。
風呂はないけど温水が出るシャワーはあるし、トイレは水洗だし、台所も意外過ぎるほどのシステムキッチンになっている。ビジネスホテルみたいな個室には机と椅子、洗面台もある。
というか、俺が読んできたラノベとかと違って生活に不便がない。現代と何ら変わりはしないんだから当たり前のように感じる。
2時間に及ぶ料理セミナーを受講し、先代のレシピとやらに従って二人分のカレーライスを作製した結果、ユアンさんには遠く及ばないが、此方に飛ばされる前に作ったカレーよりは明らかに美味しくなった。
その後、カレーライスの評価を受けた結果だが残念なことに5段階評価の2。
煮崩れもそうだったが、肉が見事に分離してしまっている点、味付けが微妙で何が主張したいのか分からない点、切り口が未だに甘いなど、カレーライスの味に比べて辛口な評価を頂いた。
評価を聞いて落胆していると、食堂のドアが開いて一人の男性執事が来た。
「伯爵!荷物が届きました!」
「私宛てにか?誰からだ?」
「第4領土の領主様からです!荷物は2つあるのですが重くて・・・」
「第4領土・・・エーキルからか。何を送って来たんだ?」
「それが、宅配馬車の獣人族はワレモノとしか聞いていないと言われまして・・・」
「ワレモノ?アイツ、ガラス細工にでも転職したのか?仕方ない。荷物は何処にある?」
「ロビーに置いたままです。使用人一同、扱いが分からなくて混乱していました」
「全く。余計な荷物を送りやがって。あのバカ」
伯爵は舌打ちをしてロビーに向かう。俺は自分の分のカレーを片付けてから伯爵の後を追う。
急いで使用人達が騒めくロビーに向かうと、伯爵ですら頭を抱えるシロモノがそこにあった。
「よりによって厄介なものを・・・」
野次馬をかき分けて箱の中を覗くとガラスケースがあった。その周囲に人形の着せ替えサイズの服が大量に畳まれた状態で入っている。ガラスケースの中を覗くと、何故か小さい少女がいた。
しかし少女といっても大きさは20cmくらいで、服は必要最低限のものしか着ていなく、肌も白い。それが木箱で二つ分。
「・・・人身売買でもしてるんですか?伯爵」
「いや、私にそんな興味はない。これは妖精だ」
「妖精?」
「妖精、というと多少語弊があるか。これは人工妖精と呼ばれる古代文明の復元品だ」
妖精とは元来、何かに付き従うものではない。付き従うどころか、悪戯をして人を惑わせたり迷惑をかけたりする厄介な魔族だ。
しかしだ。時に妖精はパートナーにもなる。付き従わせるのではなく友人として接し、友好関係を深めれば、回復・防御・攻撃を一手に引き受ける強力な仲間となる。
彼女達と契りを結ぶとまでくると、浮気をしないという誓約の魔法をかけられた上での話になるが、自身の身体と直結することにより莫大な魔力を得られる。無論、その魔力を妖精が使うことが前提だ。
だが簡単に妖精と契りを結ぶことなどは不可能。
そこで古代文明は、予め隷属の術をかけた妖精を人工的に生み出した。
今まで文献と記録から存在は確認されていたが、復元は出来なかった。
「それを私の友人であり、第4領土の領主であるエーキルが復元した」
「はあ。で、彼女達はどうするんです?」
「一緒に手紙が入っていた。読んでみるぞ」
拝啓。第1領土領主のウェスター・グロムメント様へ。雪が降りそうで降らない、ちょっと降りそうな日々をいかがお過ごしでしょうか?
人工妖精の復元品が完成した。1体復元に成功して2体は同じ作り方で作製したものだ。その2体を今回、お前にやる。
起動は簡単だ。人工妖精は魔力を送り込まれることにより目覚める。以降は自身で魔力を生成し続ける。
ただ注意して欲しいのだが、その魔力は送り込んだ本人の魔力と全く同じ魔力を生成する。くれぐれも探知魔法を使う際には誤認されないようにしてくれ。
雷でも人工妖精が起動するかどうかは知らないが、まあ大丈夫だろう。助手にするなり好きに使ってくれ。
追伸。この前の喫茶店代金、奢りにしてくれ。
「・・・馬車を用意しろ。銀貨30枚を奢らせた罰を下す」
「伯爵。落ち着いてください。とりあえず人工妖精を何とかしないと」
「む、そうだな。では1体は私とジュリアで育てるか。もう1体は・・・誰か育てるか?」
伯爵は使用人達の方を向いたが、誰一人手を挙げない。当たり前だ。彼らに仕事までして妖精を育てるなど、余裕がなくなってしまう。
「あら可愛い。これ妖精かしら?」
「ジュリアさん」
「ジュリアか。エーキルから人工妖精が届いた」
「エーキルさんが?流石ねぇ。でもどうするの?私達で面倒を見てあげるの?」
「1体はな。もう1体は・・・ハインド君。頼めるか?」
「やらせていただきます」
「ではこの木箱ごと君に託す。変な教育はするなよ?」
「分かってますよ」
2つの木箱のうち1つは所有権は俺に移り、2とペンキで書かれた方を選ばせてもらった。
少々重かったが何とかして自分の部屋に運び込みガラスケースの中を覗く。何故か手を胸の上に置かれ、その上には花が添えられている。
「黒髪に細い腕。死んだような肌。本当に魔力を送り込めば妖精になるのか?」
ガラスケースの金具を外し、蓋をあけるととラベンダーの香りが部屋中に舞った。
小さな身体をそっと手の平に乗せて、魔力を流し込むイメージをする。血が流れるように、息をするように、その小さな身体に命の灯火を点けるように。
「さあ。起きて。そのまぶたを開けて光を浴びるんだ」
人工妖精の身体が少しずつ血の気を増し、白かった肌に血相が戻る。肌もふっくらとしてきて背中に小さな虫のような羽が広がる。
目蓋が開き、俺を見るのは黒い瞳。ほんのちょっとだが弱々しくも力強い魔力が流れ始める。
「むぅむ・・・?」
「おはよう。俺の言葉が分かるか?」
「・・・わたし。ことば。理解」
「理解できるのか。でもなんか・・・片言だな」
「あなた。ご主人。わたし。従う」
「お、おう。それより名前が欲しいな・・・」
「なまえ。ない。ご主人。つける」
名前か・・・。レーゲンベルグはバラだったな。次は別の花にしたい。ラベンダーの香りがしたからラベンダーとかありきたり過ぎるし。
そうだ。木蓮。俺が好きな花の一つ。確か木蓮は英語で・・・マグノリアだ。
「マグノリア!今日から君の名前はマグノリアだ!」
「なまえ。まぐのりあ。わたし。まぐのりあ?」
「そうだ。マグノリアだ」
「わたし。まぐのりあ。なまえ。うれしい」
こうして、俺と人工妖精の生活が開いたのであった。
いつもPV・ユニーク、ありがとうございます!
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