俺のヘリはカ◯コン製ではありません
前日に夜中まで綿密に荷物の最終チェックを済ませ安心して眠っていた奴は寝る前に朝にモーニングコールを私に頼んでいた。だが見事にそんなことは忘れて爆睡中だ。これでは公爵として面目丸つぶれではないか。
「起きろ。今日行くんだろ?」
「ん〜あと五分・・・」
「よろしい。『出席番号19番!スギタケイ!何を居眠りしている!この問題を解いてみろ!』」
「ウェェイ⁈すいません解けません秋田先生!」
「茶番は終わったか?今日は廃村に向かうのだろ?早く朝食を済ませろ」
ああ・・・ヤッバ。伯爵にモーニングコールを頼んでいたのすっかり忘れてたわ。伯爵の声が数学の鬼教師の秋田先生にめっちゃ似てたから頼んだけど布団の上で土下座とか情けない。
服を着替えて事前準備していた装備品をジュリアさんから借りた皮のバッグに詰め込んだらダイニングルームへ直行。朝食を早めに済ませて保存食を分けてもらった。
近くの時計を見ると8時を回っていたので庭で剣を振っていたコレンを呼び装備品を揃えて貰い向かったのは草木がない庭の一部。
移動は車も考えたが航空機の方が面白そうだ。
「陸軍系航空機と言えばヘリ!そして生成するのは俺の今の名前と同じ対戦車ヘリだ!出でよ!MI-35MkⅢ!その名もスーパーハインド!ついでに弾薬を補充した状態で!」
粒子が少しずつMI-35の形を作り出していき数分も満たない内に弾薬が全て装填された状態でスーパーハインドが完全に生成された。
巨大なテイルローターに複座式コックピット。翼に装備された四連対戦車ロケット砲や側面の機関砲がまたいい味出してるんだよなぁ。
だけど残念ながらそんな見惚れている暇はない。機体に触った瞬間、再び頭痛に襲われる。
「痛っ・・・!」
「ハインド公爵⁈大丈夫ですか⁈」
「あ、ああ。いつものことなんだ。悪いがちょっと待っててくれ」
「分かりました。ですが何かあればすぐに伝えて下さい!」
「あいよ。痛てぇー・・・」
何とか1分で頭痛は治まった。なんか兵器を生成する度に頭痛の時間が短くなってきてるんだよな。
もしかしたら耐性が出来たのかもしれない。一応この世界に来てからリボルバー二丁にロケットランチャー二基。バイクやらトラックやら生成してたし当たり前だよな。
「コレン。道具は全部後部に入れておけ。鎧とかも全部な」
「はっ!」
俺は貨物室のドアを開けて自分の道具とコレンの装備品を全て入れ閉めた。
次にコックピットハッチを開けて座席に置いてあるヘッドホンをつけると叩き込まれた操縦法に則りエンジンをスタート。機器のチェックを済ませたらコレンに複座の後部座席に座ってもらいヘッドホンをつけさせ自分も乗り込みコックピットハッチを閉めた。
『コレン。ヘリに乗る時はこのヘッドホンというものを使って会話する。これがないとメインローターが煩すぎて会話すら出来ないし』
『はっ!』
『質問はないのか?』
『知らないことは深く詮索しないのが俺の考えです!』
『ならいいんだ。テイク・オフ!』
質問攻めにされても困るのでコレンがバッサリ切り捨ててくれて良かった。
メインローターが更に回転率を上げて高音域の音を立てながら空へと飛び立つ。
下をちらりと見るとローターで出来た風に服を揺らしながらじっと見つめている伯爵がいた。何人かの友人達も口をパクパクさせながら俺に何かを伝えようとしている。俺は向こうからは見えない角度であったが親指を上に立てて返事をした。
『行ってくるぜ・・・兄弟!』
『シラルの街への行き方は任せてください!空の上からでも案内できますので!』
『頼んだぜコレン!』
『はっ!』
スーパーハインドは方向を変えてシラルの街へと飛んでいった。
一方伯爵は使用人を連れながら屋敷に戻り庭師に手紙を書いて今度来てもらうように便箋の準備を始める。そして同時に屋敷の扉が盛大に開き彼女が帰ってきた。
「たっだいまぁ〜〜〜!」
「ジュリア様。お帰りなさいま・・・酒臭っ⁈」
「スチムソン執事長!」
「私はいい!伯爵を呼ぶんだ!女性使用人も呼べ!男性使用人が関わるとろくな事にならない!」
「え〜?遊んでくれないのぉ?でも逃がさないもんねぇ〜」
「なっ⁈」
スチムソンはジュリアに背後を捉えられてしまい関節技をキメられそのまま倒れこむ。動かなくなった彼を見て使用人達は逃げ出し始めた。
それを嘲笑うかのように追尾して男性だけをつぶしていくジュリア。
使用人の間では彼女に対する取り決めが存在している。それはとても簡単なもので飲酒していた場合は女性使用人のみが介護しなければならないというものだ。これは彼女の防護の為ではなく男性使用人の安全確保の為である。
何が理由なのかは伯爵から伝えられていないが伯爵以外の男性だけを狙う。
「先に行け!お前だけは生き残るんだ!」
「や、やめろ!そんなことをしたら・・・」
「逝ってくる。娘を・・・頼んだぜ」
「やめろぉぉ!つかお前結婚してねぇ!」
一人で立ち向かう勇敢な男性使用人。風魔法を出してジュリアを押し返そうとするが彼女は上位の風魔法を出して弱い下位魔法を弾き返す。そして上位の風魔法をまともにくらった彼は吹き飛ばされ壁にのめり込み煙が立ち込める。辛うじて生きてはいた。
「おいぃぃ!10秒くらい保てよ!」
「む、無理だ。強すぎる・・・」
「えぇ〜?もう終わり?」
「ヒィッ」
「待ちなさい」
そこに来たのは戦闘用の備品を携えて来たウェスター伯爵。専用の投げナイフから薬品が入っている小さな瓶まで様々なものがセットされた状態の服を着て彼女の前に立つ。
「ウェスターくぅん!皆遊んでくれないの!また私と一緒に遊ぼ?」
「よし。なら僕の部屋に行こうか!」
「わぁ〜い!久しぶりのウェスターくんのお部屋だぁ!」
伯爵は笑いながら自分の妻を部屋にまで連れていき使用人たちは安堵の表情を浮かべた。
エルフの中でも特殊な酒乱状態に陥りやすいジュリアは酒に酔うと何故か意識が完全に幼児化し、場合によっては意識だけではなく身体全体が幼児化する可能性もある。そんな彼女を妻にした伯爵の器は大きいことが伺える。
部屋に着いた伯爵は彼女に机の上に置いてあるアルコールを分解する丸薬を口移しで飲ませた。
「ん・・・んん?ん⁈」
「・・・・」
「んー!ぷはっ⁈」
「ようやく起きたか。酒は飲み過ぎるなとあれほど注意したではないか」
「えーっと・・・今ので・・・その・・・」
「口移しの件か?いつも酔った時にやってる。今更なにかあるのか?」
「そうじゃなくて。私、今のでちょっとキちゃったかなぁ?なんて・・・」
「こんな年寄りが好きか?」
「私にかかればあなたも一瞬で若返らせるのよ?一番元気なときに・・・ね」
この後何が起きたのか、それは誰も知らない。
一方、ハインドとコレンはスーパーハインドでシラルの街に向かう途中にいた。
『らーらららら。らーらららら。ららーらーららららー』
『どういう歌なんです?』
『ああ。俺が好きだった曲の一つでさ。確か曲名は・・・だめだ。忘れた』
『それは残念です』
コレンが残念がった瞬間、手元にあるレーダーにロックオンがかかった。カメラには何も映っている様子はないが、画面中央にロックオンシステムが反応して追尾している。
俺は念のため、ロックオンした目標から離れるように速度を上げて上空に移動した。
「気味が悪りぃな。なんだったんだ?アレ」
ロックオンシステムが反応したってことは赤外線で何か見つけたわけだよな?でもモニター側からは何も見えなかった。まるで幽霊をセンサーが勝手に見つけたかのようにだ。
次の瞬間、何故かミサイル接近警報が鳴り響く。嫌な予感しかしない。
『ふざけんじゃねぇぞ!どっから撃った⁈』
『4時の方向!あれは・・・メスド?』
『メスド⁈』
『はい。速さは大したことはありませんが一撃の威力は高めの火属性魔法です』
『どのくらいだ?』
『あの大きさだと普通に俺達が消滅しますね』
最悪なんて話じゃない。だが幸運なことにメスド自体の速さはコレンの言う通り大したものではなかった。が、安心するのはまだ早かった。
真下に大量のロックオンマークが赤外線モニターに表示され洒落にならないほどの小さい火の塊がこちらに飛んできたのだ。
『チッ。対地ミサイルは使いたくなかったんだが仕方ない。せめてこの場を回避できればいい』
スーパーハインドから放たれる数々の対地ミサイル。それは全てロックオンした”何か”に向かって飛んでいき、草原を焼いていく。
俺はこの時なんとなく察した。赤外線センサーは魔力に反応していたんだ。熱感知のはずだが、それはともかくドラ◯エのメ◯みたいな小さな火の塊を発射するものを感知してロックオンした。これはかなりの発見だな。
この後、10分かけて◯ラの大群から離脱することができた。
『なんとか振り切れましたね・・・』
『と、言い切りたいな。コレン。降りる準備をしてくれ』
『何故です?』
『今のでメインローターの回りが悪くなった。これ以上はヘリがもたなそうなんでな』
抜かった・・・。狙われるんだったら装甲車の方がマシだった。俺だってまさか今のでメインローターの回転部の耐熱部品が逝くなんて思わなかったんだ。
仕方なくヘリを着陸させローターの部分を確認してみたが、やはり先ほどの襲撃のせいで幾つか溶けかけた部品があった。ついでに腹側の装甲も変形している箇所がある。流石は◯ラ。侮りがたし。
ずっと立っているわけにもいかないのでとりあえず魔力をヘリに注いで修復を開始。その間コレンは俺と自分の備品の安全を確認していた。
「回復薬にもヒビはなし・・・と。ハインド公爵!異常はありませんでした!」
「よし。ヘリの修復が終わり次第向かうぞ。あとどのくらいで着く?」
「今の速さならものの十数分で着きます」
「なら歩いて行くか?」
「いえ・・・地上だと何をされるか分からないので遠慮しておきます」
「同感だ」
ヘリの修復が終わり、再び荷物を積んでシラルの街へと向かうハインドとコレン。その姿を一人の人影が覗いていた。
「・・・私の邪魔はさせんぞ。来るなら返り討ちにするまでだ」
いつもPV・ユニーク、ありがとうございます!
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