事前準備3日目
体が軽い。まるで重力のない場所にいるかのようだ。でも俺は地面の上に立つようにしっかりと足を着けているし水平感覚もしっかりとある。
俺は覚えてる。この変な感覚を。あの時と同じ、あいつがやってくる前兆だ。
「やあ。元気そうじゃないか」
「ウラルか。また何の用だ?」
「用件を二つほど言いに来たんだ。ここは夢の中だけど緑茶でも飲む?」
「味は?」
「しないけど」
「なぜ出そうと思った?」
「いやなんとなく・・・」
味のしない緑茶なんて緑茶ではない。そういいたげな顔をしてやったつもりだがウラルは気付いていなかった。
確かに日本の文化に合わせるのであれば客人に出すのであれば緑茶と答える人が多い。だが中学時代に茶道部を経験している俺から言わせれば緑茶など数の暴力に等しき存在であり、抹茶こそが日本を統べるべく王座に降臨した神といえよう。
抹茶と茶菓子、そして和室。この三点が揃ってこそ本物のジャパニーズカルチャーである!
ちなみに当時の顧問の流派が裏千家だと聞いたことがあるがよく分からない。あと俺は抹茶は菓子類のみ食べれる。普通の抹茶は無理だ。
「わざわざ熱演ご苦労様。用件を早めに済ませたいから聞いてくれるかな?」
「はいよ。で?今回は何だ?」
「一つ目は君が受けたリビングデッドの話だね。早速だけど、あれはイレギュラーが絡んでる。まあ守護龍の君にかかれば大した相手じゃない。適当に腹パンして始末しておいてよ」
「腹パンってお前・・・」
「次は守護龍の能力覚醒について。あといつか今度でいいからアルスで他の守護龍達に合流してほしい。能力に関しては君に託していいものかどうか分からないけど」
「他の守護龍?守護龍の能力覚醒?」
ウラルによると、この世界は俺以外にも守護龍が存在しているらしい。それぞれが一属性の強大な魔力を持っており守護龍一人だけで対応しきれない場合は全ての守護龍の力を結集し、イレギュラーを完全に消し去る。
俺だけじゃなかったのは残念だけど仲間がいるなら一人では出来ないこともできる。心強い味方がいるようなもんだ。
「でもねぇ。今は闇の守護龍が欠番なんだよ。だから早めに代わりを見つけたい。候補がいるなら教えてね。能力覚醒はリビングデッドが終わったらやってあげるからお楽しみに。ああ。もう夜が明けるね。じゃあこの辺りで・・・」
「なあウラル。雷の守護龍の能力ってどんなやつなのか、教えてくれよ」
「・・・今は言えないけどヒントはあげるよ。君達の言葉でいう『オーパーツ』。じゃあね」
ふっとウラルが消えてから俺は目を覚ました。時計は5時42分を示しながらカチカチと秒針が時を刻み続けている。
窓を開けて朝の風を浴びると少し冷たい風が肌に刺さる。今考えると来た最初は少し暑かった。でもこの屋敷に来てから4日以上いるわけだけど段々過ごしやすい温度になった。日本のように四季が存在するなら今は秋頃か。
「日本かぁ・・・父さん母さん。どうしてんのかなぁ。病気とか怪我とかしてなきゃいいんだけどな。ま、アレのせいで俺は元の世界から存在ごと消えてるようなもんだし家族なんて一人もいないし」
いや、血は繋がっていないけど家族ならいるか。伯爵、ジュリアさん、屋敷の皆。俺がそう思ってるだけかもしれない。でも俺にとっては大切な人達だ。皆が寿命を全うできるように守っていこう。
それが不老不死の俺にできることだ。文明が滅ぶならば俺が止める。この世界を救う為に、崩壊しない為に俺は存在しているのだから。
「まさか俺以外にも守護龍がいるとは思わなかった。どんなやつか楽しみだけど、まずは自分のやることを済ませないと」
申請書が入っている大きめの封筒を持ちロビーを通って庭に置かせて貰っている偵察バイクを移動させ、道端でエンジンをスタート。再びギルドへバイクのアクセルを回し走らせる。歌は歌わず、ただ朝の風に吹かれながらのギルドへの道になった。
ギルドに到着し、受付嬢にランクSのコレンの件を話すと何故かでっかいオヤジが呼ばれた。まさかヤクザ的なものではないと信じたいが、何が起きるのか分からない。俺は衝撃波装甲を展開できるよう身構える。
「ギルドマスターのキュウだ。コレンを騎士団に引き取ると聞いた。ランクSを引き抜くとは・・・よほど自信があるとみえる」
「自信?俺は志願されただけだ」
「奴から入ると?」
「そうだ。分かったならギルドのランク証明欄にサインしてくれ。こっちも忙しい」
「そうか。なら尚更だ。騎士団だかなんだか知らんがランクSを抜かれてはギルドの戦力バランスに乱れが生じる」
「残念ながら俺はギルドを脱退させて頂きます。ギルドマスター」
いつの間にここにいたのだろうか。そこには屋敷に来た時とは違う黒色の若干ゴツゴツとした鎧を着込んだコレンがいた。可動域は広く前回着ていた鎧よりも動きが自由になっている。
大剣も持ち手が変わり形状も通常のものより大きくなって腰には質素なロングソードと思しき剣が掛けられている。
「黒龍の鎧だと⁈コレン・・・本当にお前から志願したというのか⁈」
「昔約束しましたよね?俺が黒龍を狩って全部位を剥ぎ取り自分一人分の鎧を作れるくらいになればどこにいっても構わないと」
「それはそうだが・・・」
「これは俺の意思と思って結構です。これを着ることでギルドから脱退し、改めてハインド公爵の騎士団に入団することを示すことにします」
俺の前に跪いたコレンはロングソードを鞘ごと腰から抜いて捧げるように腕を上げる。
「我が命、公爵に捧げることをここに誓う。我が手足は公爵の手足として。どうか誓いの剣の御受け取りを」
俺は正直固まってしまっていた。ギルドに到着しておっさんと戦うのかと思いきや自分からギルド脱退を申し入れて、しかもそのギルドの室内で忠誠を誓うという彼の行動に。もちろん全ハンターの視線が集中している。
だが彼はここまでして俺に着いて行くと言ってきた。俺はまだ彼の素性を知らない。でもここまでされては引くわけにもいかない。
差し出された剣を受け取り厨二病で考え得るセリフを結集し騎士団の入団を認める言葉を脳内で創り出す。
「よろしい。では其方の誓いの剣に名前をやろう」
「はっ!有難き幸せ!」
うん。調子に乗ってこんなことを口走ってしまったわけだがどうしようか。というか必死に考えてこの言葉ってのが恥ずかしい。
剣の名前?自分でいうのもなんだが、そんなことは何一つ考えていない。だけど言ってしまったからには最後までやらなければ。
「誓いの剣はこの時より己の仁を突き通す剣となる。その名は『ムラクモ』。如何なる時もこれを持ち、我を守るため、その剣を振るうのだ」
「はっ!」
なんか王みたいな感じになったけどそれはまあいいや。
最初に考えた円卓系の剣の名前は流石に止めて良かったかもしれない。かっこいいとかいう問題じゃなくて俺の騎士団が円卓みたいな状況になったら崩壊しそうだ。アーサー王の最後じゃないがカムランの丘で果てるような真似は絶対にしたくない。
死なないけど後悔は残る。人より生きすぎる存在って想像したことはあるけど感じたことはない。せめて後悔しない方を選んでいきたい。
「やはりそちらを選んだか。祝いの言葉など貴様には要らんな」
「・・・ウィグ。お前まだランクAをやっていたのか?」
「まだギルドのランク制度は利用させてもらう。いずれお前と戦うだろう。その時は昔の友情など忘れて殺しに行く。また会おう」
何人かの仲間と共に転移魔法らしき魔法で消えてしまうウィグ。その背中には焼け焦げたエンブレムが書かれたマントを背負い重圧を受ける器であることが伺えた。
「あれは誰だ?友人みたいだったが?」
「彼はもはや友人などという存在ではありません。ただの反乱分子です!」
「反乱分子?」
「・・・また話します。先に帰っていただいて大丈夫です」
「いや?俺は帰らないよ。コレンの・・・騎士団長候補の話を聞いたら帰るのは二の次になった」
「俺を騎士団長にですか⁈」
「代わりにウィグとかいうやつの話をしてくれたらな。どうする?」
「・・・分かりました。話しましょう」
「待て」
話に割り込んできたのはさっきのおっさんならぬギルドマスターのキュウとかいうやつだった。
ポケットに手を突っ込み中から出したのは銀色に鈍く輝く鍵。それをコレンの手のひらに渡すと受付のスタッフ専用と思われる扉を開けてどこかに行ってしまった。
「この鍵は?」
「たぶん応接室の鍵だと思います。あそこなら誰にも邪魔されませんし」
「じゃあさっさと行こう。お前が先に来た理由も知りたいしな」
「ちょっと王都に買い物に来ただけですよ」
「何を買った?」
「ワイバーンの炭火焼体験セットです」
「旨そうだなおい」
階段を登り二階の廊下を右に曲がると応接室があった。このギルドは一軒家より二回りほど大きいから応接室がいくつもあるみたいだな。
斜向かいの応接室にも人がいたけど声が聞こえることはなかった。防音がしっかりしてるみたいだが石膏で防音工事でもしてあるのか?
そんな疑問が浮かんだがコレンが鍵を開けた音でそんなことは別にどうでもよくなり応接室に入って早速コレンから話を聞くことにした。
「では・・・何から話した方がいいですか?」
「ウィグって言ったか?アイツとお前の関係を全部知りたい」
「かなり省いて話すので分からないところがあったら言って下さい」
「ああ」
と言ってくれたコレンだが数時間に及ぶ超大作になったので俺の◯ロム脳でなんとか補正・要約して簡単にまとめた。
まずコレンとウィグは元々別大陸のアルスの同盟国『エヴィロイド』出身で似たような境遇の持ち主。仲がよく狩場で喧嘩することも数え切れないほどあった。
青年期にはギルドでハンターをしていた親の意向でハンターになり僅か1年でランクAに昇格しギルドに関与していた姉のコネでランクSに昇格した。まあ多分ランクSについては大学とかに出す推薦書的なものを書いてもらったんだろう。
一応ウィグとはハンターになったあとも連絡を取り合ってはいたものの、2年前に連絡が取れなくなったらしい。しかし数日前、急に下宿先に届いた手紙に銀貨一枚と共にとんでもないことが書いてあった。
『お前の力を貸して欲しい。腐りきった祖国を救わないか』
もちろんだがこんな少ない文でも明らかに革命以外の何物でもないことが分かる。
本来ならコレンが止めたいと一番思っているが相手の実力も不明のまま止めに出ても返り討ちに遭うだけだ。
もし仮に止めるなら騎士団を創るしかない。だけど俺は明日にはリビングデッドの処理に行かないといけないから処理するかどうか決めるには時間が無さすぎる。
「仮に飛行船で今日向かったとしても俺の国は一週間はかかります。それに準備もあるでしょう。今すぐにって訳ではないかと」
「その前にお前を殺しにくるだろうな」
「はい。しかしそれは公爵も同じでは?」
「うん?まあそうだな・・・」
ウィグにしてみれば俺は王命さえあればコレンを騎士団として派遣させられる危険人物だ。
コレンはランクSだがウィグも同等の力を持つキレ者だという。あちらの視点で考えれば襲わない手はない。逆に俺は早めに排除すべき目標だ。
「・・・コレン。お前、予定何か入ってるか?」
「いえ。何も入っていませんが?」
「明日からののリビングデッド排除に付き合え。だがお前はリビングデッドと戦わなくていい。俺一人でやれって言われてるし」
「なら誰と戦えというのです?」
「招かねざる客人を手厚くもてなせ」
コレンは俺の言ってる意味が分かったようで真剣な顔になり一礼すると応接室から出ていった。朝からハプニングの起こりまくりだが仕方がない。攻めてくるならば迎撃するだけだ。
「来るならこい。身体に風穴開けてやらぁ」
俺は腰に差しっぱなしのトーラスの銃身を抜いてガンプレイをし、再び腰にしまう。
久しぶりに俺の武器が火を噴くぜ。ゾンビゲーで最初からコルトパイソンを持ってるようなもんだからな!負ける気が全くしねぇ!
「さて。帰りますか」
応接室の鍵をギルドマスター返し書類をしっかり持って外に止めてあるバイクに乗るとアクセルを回し屋敷で最終チェックを済ませるために全速力で走って帰った。
いつもPV・ユニーク、ありがとうございます!
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