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幼なじみ未満  作者: ねこ
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切ない松山くん

一人で顔を赤くしてお風呂掃除をした翌日。


病院の薬が効いたのか、父は母と二人で朝食を食べていて、少し寝坊した私も一緒に食べ始めた。


「お父さん起きてて大丈夫?」


「真美…。お父さん大丈夫じゃない。これ食って薬飲んだら寝るよ。」


「真美…。お母さんも寝坊しちゃって、お弁当出来なかったの。悪いけどお昼は何か買って食べてね。」


「分かった。何食べようかな…。」


昨夜よりは、調子が良さそうな父に少し安心して、コンビニに寄る為に早目に家を出て学校に行く事にして急いで用意をした。


『おはよう。今日は、お昼を買わないといけないから、先に学校行くね。桜ちゃんにも伝えてね。』


昨日の事もあるので、少し匠と顔を合わせづらく、良い口実にもなる。いつもより15分程早く家を出て、早足で歩いてコンビニに向かった。


コンビニでお昼を買うのは久しぶりなので、何を買うか考えているうちに、たまには違うコンビニに行きたくなった。

なので、学校を通り越してすぐ近くにある、いつものコンビニと違う系列のコンビニに行く事にした。


お昼を楽しみに、お弁当から始まり、美味しそうなパンやおにぎりとお菓子を見て悩みながら真剣に選んでしまう。


「あれ?まぁちゃん?一人?」


すると、誰かに声をかけられ隣を見ると松山がいる。


「うん。今日のお昼はコンビニだから早目に一人で来たの。」


「ふ〜ん。俺もコンビニ。じゃあさ、話したい事もあるし今日は二人で昼食わない?」


「え?ん〜いいよ。分かった。」


断ろうかとも思ったけれど、昨日の松山の様子が気になる。私も声をかけたので、一緒に食べる事にした。


レジを済ませ、そのまま学校に向かい松山と並んで話しながら歩きはじめる。


「こんな風に、まぁちゃんと二人で学校行くの初めてだよね。」


「そうだね。学校だといつも、谷沢くんがいるもんね。」


「なんか新鮮だな。普通のまぁちゃんだし。普通ってこんな感じなのかな。」


「普通よりおとなしいと思うけど…。男子は、谷沢くんと松山くん達としか、こんなに話し出来ないし。」


私もこの時間を新鮮には感じたけれど、普通と言われても私にはよく分からなかった。


「いや、まぁちゃん、最近よく笑うし可愛くなったよ。本当だよ。匠のおかげ?それとも、僕がいつも甘くしてるから?」


「いや、慣れてきたのかな?松山くん達ってさ、谷沢くんにズバって言うじゃん。それが、今まで私の言いたかった事だった時もあって面白いし。谷沢くんも優しいんだけどね…。」


「匠、まぁちゃん大好きでヤキモチ焼きだもんね。何か言われたら言い返すのは、俺に任せておいて。いつでも、まぁちゃんの味方するから。」


そんな風に話しながらゆっくり歩いていると、いつもの時間に教室についた。


松山が扉を開けた所で、匠と桜ちゃんが荷物を持ったまま話しをしている。

私達に気が付いた匠は不機嫌そうになり、松山と桜ちゃんが目を合わせてニッと一瞬笑ったのを私は挨拶をしながら見逃さなかった。


「桜ちゃん、谷沢くん。おはよう。」


「真美ちゃん、松山くんおはよう。谷沢くんさ、朝からコンビニ2軒も寄ってお昼買ったんだよ。」


「え?そうなの?俺、すぐそこのコンビニでまぁちゃんに会って一緒に来たよ。楽しくてさ。2人だけで昼を食う約束もしたんだ。今日の俺は、まぁちゃんに好かれてるのかもしれない。」


「え?」


「ごめんね。」


松山の言葉に驚いていた匠に、松山から話しがあると誘われたとは言えず謝った、私。


いや…。いつもたっくん達とお昼が一緒な訳じゃないし、たっくんの友達の松山だし謝るのもおかしいかも。


「だから、桜ちゃん達とと今日は食べれないの。ごめんね。」


そう考えて身体ごと方向転換して、続く言葉で桜ちゃんに謝った。


「そうゆう事なんだ。桜ちゃん。俺の我が儘でごめんね。ほら、匠。行こう。」


「いいよ。気にしないで。真美ちゃん。お昼、何にしたの?」


匠は松山に引っ張られ、私も桜ちゃんに着いていく形で席についた。


そうして、あっさり授業が始まった。


今日の授業は移動教室も多く、それから匠と話す機会はなかった。


朝の匠の事が気になりながらも、お昼休みがくると松山と自販機で飲み物を買って人気の無い日当たりの良い階段に向かった。


そこで、松山の言葉に私は開けようとしたパンを落とした。


「僕さぁ、好きな子がいるんだ。けど俺、その子の視界にすら入ってないと思うんだ。どうしたらいい?」


いきなりの恋愛相談に落としたパンを拾いながら思った。


それは…、性格の意地悪な所を見抜かれてるからじゃないかな?


「ん〜。私も谷沢くんが初めてね彼氏だから、よく分からないな。どんな子なの?」


出た言葉は全く違う物だったけど、思った事は確かだ。

松山の性格はいいと思う。気遣いもあり、言葉も甘くて態度も優しいと思う。時に裏返って厳しいけれど。


松山の好きな子は、割と近くにある隣の学校の子で、松山の家の近くのコンビニで夕方や夜にバイトしている女の子らしい。


「わざわざ買い物行っても、話しかける機会もなかなかなくてさ…。その子も、まぁちゃんみたいな普通の感じの子なんだよね。俺の事も見ないから知らないと思うし。」


「あ〜。私も初めは谷沢くんに遊ばれてるのか疑ってたし、好きじゃなかったよ…。むしろ、避けようとしてた。」


「なら、匠の何が良かったの?きっかけは?」


「谷沢くんとは、家が割と近いから小さな頃は一緒に遊んでたんだ。告白されてから、毎朝迎えに来てくれたり、帰りも一緒だったり、辛い時に助けてくれたりしたのを見てるうちに段々好きになってた感じかな?」


私の恥ずかしい思い出をそっと隠して、綺麗に言った。


「匠に聞いても、はぐらかされるだけだしさ。やっぱり見てるだけじゃ駄目だよなぁ。まぁちゃんに聞いて良かったよ。」


その時、愛の天使が私に舞い降り匠の言葉を思い出させた。


「あのさ、松山くんってバイトした事ある?」


「夏休みと冬休みに家業を手伝うくらいかな。」


その言葉に身を乗り出し、松山に近付きながら話してしまう。


「私はした事ないんだけど、谷沢くんがバイトしてて、仕事中に高田さんから遊びの誘いされて断ってても一緒に怒られたりしたんだって。だから、その彼女もバイト中は話しにくいのかもよ。」


それからも自分の思い付きに、うっとりしてしまいそうになりながら話してしまう。


「とりあえず、松山くんが買い物した時に、バイトが終わる時間聞いて待ってるから良かったら声かけてって待つの。来てくれたら気にかけてくれてるんじゃない?それで、メール交換してメル友から始めるなんてどう?」


「まぁちゃん…。やってみるけど、よく思いついたね。」


私が一生懸命なのに、ため息まじりに松山は言った。


「え?」


「あの賭けの誤解が解けてからやっと、携帯の連絡先交換したのに、よく思いついたなと思って。匠が家の電話にかけてたんだろ?」


「ど、どこまで知ってるのかな?」


「匠が誤解するような告白して、まぁちゃんが誤解して、そのまま進んでってまで匠から聞いた。後は、まぁちゃんが誤解したまま泣いて匠が、それを解いたと予想した。」


大筋は当たってる。私はおにぎりを落としそうになった。そんな私を松山は、ほったらかしで遠くを見つめる。


「待ってたら来てくれるかなぁ。逃げられたらどうしよう。」


「松山くんは、格好いいし、基本は優しいよ。その子に彼氏がいるかも知れないけど、やってみないよりは良いんじゃないかな。何かあったらちゃんと慰めてあげるから。」


松山がジトジトした目付きで私を見る。


「彼氏がいるかもなんて、俺が考えないようにしてた事をサラっと言ったね。やっぱり、まぁちゃんいつか人前で抱き着いて口説いてあげる。」


松山の意地悪は口だけなので、今更気にならない。ちびちび炭酸を飲む松山を見て思った。


「松山くんは話しやすいから、話したらいい人って分かってもらえるよ。もしかして一目惚れ?」


「まぁちゃんって変な所だけ妙に鋭いね。そうだよ。一目惚れだよ。だから余計に話しかけもできない。なんとも思ってない子なら話せるのに…。」


言ってから八つ当たりのように、アルミ缶を潰す松山。

少し茶色いふわふわとした天然パーマの髪に、くっきりとした二重の少しだけ垂れた目に形の良い唇。睫毛まで長い横顔も整って見える。


「松山くんってモテるでしょう…。」


「匠ほどじゃないよ。」


私の質問に興味なさそうに答える松山。


「それで、その子の興味引こうとして、わざわざそのコンビニに女の子と二人で行って仲良さそうにしたりした事ない?」


「え?」


ギクッと身体を揺らす松山。コイツやったな。


「私みたいな普通の子がモテそうな人がそんな事してるの見たら、その女の子が彼女かと思うかも知れない。」


「ま、まぁちゃん…。」


「しかも毎回違う女の子だったら、周りに女の子が沢山いるモテそうな人だから、私なんか無理って思うかも知れない。」


私の言葉にうろたえていた松山は、膝に肘をついて頭を抱えてしまった。その様子に私の方が慌ててしまう。


「松山くんがしてるかどうかわからないし、全部かも知れないって話しだよ。ほら、チョコあげるから元気だして。」


コンビニの袋からチョコを出して、隙間から松山の膝に置いた。


「まぁちゃんって…見てたら意地悪して泣かせたくなるくらい可愛いよね。匠にとっても楽しくて、まぁちゃんと随分仲良くなれた昼だったって言っとくよ。ほら、予鈴鳴ったし行こう。」


元気なく立ち上がる松山。少し心配になってしまう。


「松山くん?」


「ん?話し聞いてくれてありがとう。また聞いて。」


そう、手を差し出して私が立つのを助けてくれた。


それから、松山は一人でコンビニにずっと行っていたらしい。

けれど松山が声をかける前に、その子はコンビニを辞めてしまい、松山はがっくり肩を落とすのでありました。




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