おまけ
翌日の月曜日の朝。
「行ってきます。」
玄関で母に見送られドアを閉める。
「おはよう。」
いつもの場所に切れ長の目元も柔らかく、顔全部で笑顔になったキラキラの匠がいた。
顔が赤くなるのが自分でもわかる。挨拶を返して、いつものように匠に手を繋がれて二人歩き始めた。
手を繋がれて匠の温もりが嬉しい、気持ちも軽い。微笑む匠の顔を見て、顔を赤らめながら私も自然と笑顔がこぼれる。
この一ヶ月のいつもの行動なのに心ひとつで、こうも違うかと驚きすら感じた。
駅前で手を離して桜ちゃんと合流して挨拶を交わす。嬉し恥ずかしのひと時。
桜ちゃんには、日曜日の夜に、土曜日のデートと付き合う事は報告しておいた。
日曜日の笑う悪魔の匠の恐ろしさは、とてもじゃないけどメールだけでは伝わらないだろうと、後で話す事にしていた。
けれど、少し照れ臭い私を見て笑顔の桜ちゃんは匠に言った。
「谷沢くん。真美ちゃんよろしくね。真美ちゃんの独特で頑固な勘違いも解けて良かったね。」
ニッコリ笑う桜ちゃんと大爆笑の匠。
小悪魔がいた…。
けなされてる様にしか聞こえないけど、小悪魔桜なりのお祝いの言葉らしい…。
「ありがとう。」
笑いすぎて涙をにじませたお礼を言う匠に、桜ちゃんが続ける。
「谷沢くん見てたら真剣だから疑いようが無ないって。それとなくでも聞いてみたらって、何回か言ったんだけどね。
悩む真美ちゃんの気持ちもわかるな。
これまでの谷沢くんも谷沢くんだからね。」
小悪魔桜が笑う悪魔の匠をチクりとさしながら、愚痴をこぼしてる…。
小悪魔桜が私に向かって吐く毒は、たまにだし普段優しく可愛い子だけにより強力に感じてしまう。
車の窓も凍るくらい寒い朝なのに、私の額には汗がにじむのはなぜでしょう。
「いろいろ大変だったよ。」
笑う悪魔の匠も小悪魔桜に愚痴まじりで話しながら、三人で歩きはじめた。
神様…。別に今朝、わざわざ本人の目の前で話さなくても良い内容ですよね?
素敵な朝の時間って少ないものなんですね…。
大好きな二人に笑われ慰められながら神様に愚痴った。
いつもの時間に学校について教室に入る。
席に荷物置いて廊下に出ると匠に呼び止められ、匠が話し出そうとしたら
「まぁちゃん、おはよう。」
「今日の昼は、まぁちゃんの弁当食べたい。俺に癒しをくれないか。」
「おはよう。まぁちゃん。浮かない顔してどうしたの?匠に何かされた?僕に話してみて。」
それぞれタイプは違うけど、匠くらいの身長の整ったほうの顔立ちの三人に一気に話しかけられるのは、今だに慣れない。
戸惑っていると匠の長い腕が私の腰を抱き寄せる。
いやいやいやいや。
学校学校、やめようよ。
顔がまた赤くなるのがわかり匠を見上げると、目が合いスゥと目が細まる…。
げっ。なぜ怒る?
私、何もしてないしてない。隠してもない。
心がざわざわ慌てはじめた時。
「柳、おはよう。お前の心配当たりだった。けど解決した。
青井、勝手に真美を昼に誘うな。そして、たかるな。
松山、俺は真美が嫌がる事はしてない。」
匠がまとめて三人に返事をした。
真美と人前で呼ばれてドキドキして、匠を見上げると何故か匠の顔が険しい。
「え?解決して名前呼び?じゃあ勝ち?」
「匠が一緒にいたいだろ?変わりに誘ってやったんだ。感謝しろ。」
「匠が嫌がる事をしても、まぁちゃんが人に言える訳ないじゃん。僕は、いつでもまぁちゃんの味方だよ。」
腰に回った匠の手にグッと力が込められ、すぐ離された。そのまま、腕組みする匠。
「そう、普通に付き合う事になった。そもそも、ここまでこじれた元と言えばお前らだ!
あの時、お前らが教室に来たから真美が変な誤解したんだ!」
いや…。それ、八つ当たりだし。
しかも勝手に人の恥をばらすなよ…。
悪魔、小悪魔ペアのダメージもあるから、心が痛むじゃんかよ。
匠の怒りが自分に向いてないとわかり、妙にさめてる私。
「え?だからちゃんと話せって言ってたろ?ただでさえ噂や絡まれたりで、まぁちゃん大変なんだからって。」
「お前が情けないだけだ。誤解させた上にお試し期間なんて貰っておいて、余計誤解させたままギリギリまで話さないし。」
「そうだよね。まぁちゃんに信用されなかったのも、匠の告白に問題あったんじゃない?もしかして、付き合おうの一言で終わりなんて馬鹿してないよね?」
あぁ…。三人が天使に見える。
素敵すぎます。ファンになっちゃいそう。
明日は、ちゃんと別にオカズを差し入れます。
匠を笑いながらピシパシ的確な三人の天使の言葉は続き、ムキになった匠と笑える会話になってきている。
ここでも、いつもと少し違う賑やかな朝となりました。