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幼なじみ未満  作者: ねこ
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翌日、とても気持ちの良いお天気の午後。

私は、母のお見舞返し持って匠の家の前で黄昏れていた。


世間一般には、恋する乙女が片想いの人との誤解も解け、想いが通じあった。

そんな翌日の嬉し恥ずかしドキドキお宅訪問の状況。


残念な事に今の私と全くちがう。


帰りたくなってきた…。


今朝は、昼近い時間に目が覚めてリビングに降りた。

腫れて更に細くなった目の私を大笑いした母と難しい顔をした父。


「日が良いから今日じゃないとダメなの。お土産買ってくるからお願いね。」


なんで私が…。

どうしてもなら出掛けるんだし、自分で届けに行け。

それか昨日のうちに郵送しとけ…。


寝ぼけていて、まだ言葉にはならないうちに、二人はいそいそと出掛けて行った。


昨夜は、匠の初めての告白から昨日までを思い返しながら布団の中でどうにも耐えられずジタバタしていた。

いつの間にか日付も随分前に変わっていて、落ち込んで俯せたまま寝たのが悪かった。


朝になって腫れた目を冷やして、随分ましな目になると気持ちも少し上向いていく。


そして、なんとか匠の家まで来てはみたものの、いざとなると臆病風に吹かれる。

ドア横のインターフォンを今まで軽く押していたのに、初めてためらって押せなくなってしまっていた。


そんな時に限ってドアがいきなり開く。


「まぁちゃん?」


驚くジャージ姿の匠。玄関の外まで出てきた。


うん。私もビックリだよ。


昨日の事もあったし匠も出掛ける所みたいだったので、紙袋の花柄をひたすら観察しながら言葉少なに届け物を渡した。


「じゃあね。」


一刻も早く立ち去ろうと短く別れを告げれば、手首が捕る。


「駄目。上がって?」


「嫌。帰らないといけないから。」


どうしても匠の顔が見られないまま答えたら、そのまま凄い力で引かれてドアの中に押し込まれ抱きしめられた。


「どうして?そんなに俺が嫌?そんなに一緒にいたくない?」


「そうじゃない。どうしてもの用事があるから…。ごめん。」


抱きしめられて大きくドクドクと心臓が動く私が匠が嫌な訳がない。匠の腕の力が緩んだ。


「じゃあ、お茶だけ。」


そう言われ匠の部屋に通された。

匠の両親は、うちの両親との退院祝いの夕食の前に映画に行ったそうだ。

なのに、外に人影が見えたので窓から覗きドアを開けただけらしい。


匠がお茶を取りに行き、一人で立ったまま見回すと意外にすっきりとした部屋。

テレビがある。新作のゲームに本棚、ベット。勉強机で目がピタリと止まった。


嫌な予感に近付くと机の上に見た事のある封筒。見慣れた字。

匠に読まれずにいただろうから、公園に探しに行こうとしていた手紙。


背中を嫌な汗がだらだら流れていくのがわかる。


これは私の手紙…。なんでここに?ここにあってはいけない。

もしかして読まれた?嫌われてしまった?


ドアが開く音がしたので、ギギギと首から軋む音が聞こえる気がしながら振り向く。

やっぱり匠。開封されたか確認しようと、手紙を持った私をニッコリと見ていた。


小さなテーブルにお茶を置いた匠に手をひかれぎこちなく座った。


「昨日、ちゃんと俺が手紙は拾って帰った。


『今まで色々ありがとう。

けど、やっぱり付き合えません。無理です。


谷沢くんにかまわれる事がうっとうしいし、噂話や嫌がらせをされる毎日にも疲れました。

一緒にいるからそうなるし、本当は谷沢くんの事が嫌いなんです。


告白したのは、いつか誰かに告白する為のただの練習です。

気持ちも何も、谷沢くんにはありません。

ごめんなさい。忘れて下さい。


お試し期間のうちの事は、全て無かった事にして下さい。

そして、もう私に関わらないで下さい。谷沢くんといたら迷惑ばかりで嫌なんです。


今までありがとう。

さようなら。』


どう?」


どうって聞かれても…。

もう帰って良いですか…。


「合ってるよね?

家で読んだ時には、誤解はとけたはずだから内容が嘘だと分かっていても涙が出たよ。

昨日の公園でまぁちゃんに本当に俺の気持ちが伝わってるか、誤解が解けたか不安になった。

悲劇のヒロインになら似合う内容だけどね。」


デートの前日に匠達の話の一部分を盗み聞き、キーワードの様な内容を勝手に解釈して一人賭けと決め付けた。


手紙に「私は匠を嫌いなので別れます。」そう書けば、賭けの勝が決まった匠が読んだ時に変な同情も沸かないだろう。


匠も振りを続けなくてもよくなり、私からスッキリ離れやすくなるだろう。

私も賭けに使われ振り回されるよりは、悲しく辛くなくなるだろう。


そう一人、悩んで考えて「ありがとう」と「ごめんなさい」以外、嘘ばかりをわざとキツイ言葉を使い、涙を流しながら何度も書き直しながら手紙を書いた。


それが公園で、匠に真実を教えられた時には、一人で勝手に誤解して悩んで騒いだ凄い恥ずかしい奴の位置が私だった。


手紙の内容も結果、一人よがりな思いやりと自己防衛。

匠の言う通り悲劇のヒロインみたい。


昨日までは分からなかった一番匠を傷つけるだろう内容の手紙。

匠に対しての昨日までの自分に感じる羞恥心と反省と後悔や自己嫌悪を、昨夜なんかよりも更に強く突き付けてくる手紙。


匠がドアを開ける前に手紙を掴み逃げ帰りたくなっていたのに、手紙を一番読まれたく無かった匠に読まれていた。

更に内容を一言も間違えずにスラスラと暗唱もされた。


しかも、私の目の前で手を繋いだまま視線をバッチリ合わせて微笑みながら追い撃ちをかける様に…。


神様…。ここに悪魔がいます。

だんだん背中を流れる汗が増えて、止まる気配がありません。

あんな手紙を書いて、昨日の状況でその存在を忘れていた私は、そんなに悪いのでしょうか…。



「俺宛だから読んでも問題ないはず。記憶力は良いから一度で覚えた。

他人に拾われなくて良かったろ?」


普通ならね…。

けど、今回は風に飛ばされて地の果てまで行って、誰にも見つからずにいて欲しかったよ…。


身体も心も身動きがとれないまま、何とか手を取り戻した。


そうしたら、笑う悪魔の匠は手紙を私から取り上げヒラヒラさせながらレベルアップした。


もう、嫌だ…。

世間一般になりたかった…。





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