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異世界転移したら、地球を所有してました。その裏で、地球では大騒動が始まっていた。  作者: りどみ


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日本政府の新たな日々

 始業直後の執務室は、今日も慌ただしかった。


 あちこちで端末の操作音が響き、職員たちが資料を手に行き交っている。海外とのオンライン会議を終えた職員が席へ戻れば、別の職員から新しく届いた報告書が差し出される。


 以前の日本政府の業務は決められた手順に沿って同じことを繰り返す、単調なものだった。

 それが今では、次々に新しい案件が舞い込み、そのたびに自分たちで考え、判断し、仕事を前へ進めていく。


 室内は、以前にはなかった活気が満ちていた。忙しいのは忙しい。だが自分たちの手で昨日までなかったものが少しずつ形になっていく。

 そんなはっきりとした実感が、職員たちの表情を自然と明るくしていた。


「ドイツ側の加工試験、評価が出ました。予定していた強度基準をクリアしています」


 担当者が端末を操作し、共有されている評価資料を開く。


「量産に移せそうですか?」


「先方は前向きです。評価結果も踏まえ、実用化に向けた次の段階へ進めたいとのことです」


「国内側の評価は?」


「こちらも問題ありません。用途を限定した場合なら、十分に実用に耐えるという見方です」


「では、共同で量産化の条件を詰めていきましょう」


「了解です。規格のすり合わせまでこちらで調整します」


 担当者は手早く要点を入力すると、そのまま次の資料へ目を移した。


「次に、アメリカの魔石研究です。基礎分析が一通り終わりまして、日本側の結果と一致しました。よって、エネルギー変換の再現実験に取り掛かる段階になりました」


「なるほど……サンプルの追加要求は?」


「来ています」


 画面を数回スクロールする。


「現行の研究計画なら対応可能です。ただ、再現実験を並行して進めるなら、追加分を少し増やしたほうがいいかと」


「分かりました。では、必要量をまとめて田中さんへの確認に回しましょう。研究責任者には、追加分を含めた計画で進めるよう伝えておいてください」


「了解です」


 担当者は手早くメモに走り書きし、次の資料を指し示す。


「次は……フランスでの栽培試験ですね」


「はい。条件はほぼ固まりました。次は収量と世代更新の確認です。そこは先方だけで進められそうなので、追加の試料提供はまだ必要ありません」


「分かりました。では、現状のままで進めましょう。ただ、次の段階で必要になりそうな試料は、先に準備しておくようにしてください」


「了解です。必要になった時点ですぐ動かせるようにしておきます」


「お願いします」


 異世界からもたらされたものは、日本だけで研究しているわけではない。

 各国の研究機関や企業が、それぞれの得意分野で研究を進めている。


「あとは……確か森田さんが今日戻る予定でしたね」


 担当者が端末を操作し、予定表を確認する。画面には、日付と往来予定者名が並んでいる。

 現在、日本とドリアラ王国を結ぶ田中定期便は午前十時と午後四時の二回。森田美咲教授の名前は、その十時の欄に入っていた。


「はい。十時の便で戻る予定です。研究者八名も一緒ですね」


「例の件も?」


「はい、一緒に転移予定です。十個体が申請されています」


「では、確認も兼ねて転移部屋へ行きましょうか」









 午前十時、転移部屋の中央に白い光が浮かび上がった。森田と、その後ろに続く八人の研究者が姿を現す。

 そのうち数人が、透明なケースを大事そうに抱えていた。


「お疲れさまです、そちらが例の?」


「はい」


 森田が満面の笑みでうなずく。ケースの中には、淡桃色の毛玉が十個体入っていた。

 大きさは、握り拳ほど。短く柔らかな毛に覆われて丸々としている。


「王国で精霊と呼ばれているものです。まあ家の周りに普通にいる存在らしくて。日本でいうヤモリみたいな感じですね」


「へぇ……」


「現地の人によると、特別に交流するとかでもなくて。付かず離れずといった話だったんですが」


 ケースの中で一個体がころんと転がった。他の個体も、それを追うようにころころと転がる。

 森田が目を輝かせて力説する。


「田中さんがこの子たちと意思疎通できたんですよ」


「意思疎通?」


「といっても複雑な会話ではなく、田中さんによれば単語だそうですが」


「単語……」


「かなり賢いですよ。好奇心も強くて田中さんが何かしていると、すぐ寄ってきて近くで見ているんです」


 ころころとケースの中を転がる淡桃色の毛玉。


「田中さんの家の周りには大量に、鈴なりに集まってまして」


「……田中さん、好かれてるんですね」


「はい、とっても。田中さんが色からでしょうね、モモと呼ぶので私たちもそう呼んでます」


 森田は朗らかに笑う。


「今回の十個体も、こちらから捕まえたわけではなくて。田中さんを介して調査のために地球へ行くのを募ったところ、自分から来てくれたんです」


「……自分から?」


「はい」


 森田がケース越しに指先で優しくなぞる。


「言ってしまえば、立候補ですね。あ、ちゃんと国王陛下にも持ち出す許可を頂きましたので」


 ケース越しに森田の指をころころと追いかける毛玉。


「……可愛いですね」


 思わず漏れた言葉に、森田が嬉しそうに笑った。


「可愛いんですよ」


 小さな毛玉たちは、ケースの中を楽しそうに転がり続けていた。


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