地球Side刑事
再捜査から二週間。
警視庁捜査一課の会議室は重苦しい空気が漂っていた。
壁一面に貼られた写真。消失現場。防犯カメラの静止画。
現場見取り図。鑑識資料。
その中央には、一人の女性の写真。
田中愛子 二十五歳。
担当刑事・黒崎は腕を組んだまま、その写真を見つめていた。
若い刑事が報告書を読み上げる。
「……以上、現場周辺への再度の聞き込み、終了しました。新たな追加証言はありません」
「防犯カメラは」
「周辺二百七十三台を再解析しましたが、新事実なしです。消失の瞬間は例の映像以外、確認できません」
「SNSは」
「憶測ばかりです。動画の真偽を巡る議論は続いていますが、有力な情報はありません」
誰も口を開かなかった。
事件は、止まっていた。いや、最初から進んでいない。
それが事実だった。
黒崎は小さく舌打ちした。
事件が起きた瞬間から、刑事として積み上げてきた経験は何一つ役に立たなかった。
資料を閉じ、深く椅子にもたれかかる。
田中愛子は確かに消えた。だが、それで終わりではなかった。
一度だけ姿を現し、再び忽然と消失した。
拉致でも監禁でも説明がつかない。
不可解さだけが、黒崎の胸に重く残っていた。
「……本日は解散」
会議が終わる。
刑事たちは疲れた表情で席を立っていく。
黒崎も資料をまとめ、自席へ戻ろうとした、その時だった。
部屋の扉が勢いよく開く。
「黒崎刑事!」
情報解析班の若い捜査員が駆け込んできた。
息を切らしながら叫ぶ。
「新しい情報です!」
全員の足が止まる。
「何だ」
「田中愛子さんのスマートフォンが使用されました」
会議室の空気が止まった。
「……どういうことだ」
黒崎が低く問い返す。
「通信会社から緊急通知が入りました。SIMカード、端末識別番号ともに田中愛子さん本人のスマートフォンで間違いありません」
「電源が入ったのか」
「はい。基地局へ接続した後、数十秒間だけデータ通信が行われています」
「通話やメッセージは」
「確認されていません。現在分かっているのは通信が発生したという事実だけです」
黒崎は腕を組み、わずかに目を細めた。
「位置は」
「解析中です。まもなく判明します」
「通信内容は」
「こちらも解析中ですが、接続時間が短く、少し時間がかかります」
沈黙が流れる。
消失した人間のスマートフォン。その電源が、今になって入った。
「本人かあるいは……。いずれにせよ、事態は動いた」
その一言で、会議室の空気が一変した。
「位置情報が出たら即、動くぞ。基地局の接続ログ、防犯カメラ、周辺映像も全部押さえる。今度は一つも見逃すな」
「了解!」
刑事たちは一斉に動き始めた。
黒崎は田中愛子の写真を見つめる。完全に途絶えていた痕跡が、再び現れた。
この通信が意味するものはなんなのか。答えはまだ分からない。
「位置情報出ましたっ! 場所は……石垣島です!!」




