第7話 村人の不信
「ハジマリノマチ」の隣にある、少し活気のある村「ツギノムラ」
その門番は、長年の勤務において、人生で最も理解不能な光景を目にしていた。
「おい、止まれ! 何だ貴様……いや、何なんだその引きずっているものは!」
門番が槍を構える先には、顔を真っ青にし、全身から滝のような汗と湯気を出しながら、ズリ……ズリ……と地面を削りながら歩くゼニマルの姿があった。
彼が肩に食い込ませて引きずっているのは、尋常ではない輝きを放つ「純金の縄」でぐるぐる巻きにされた、ぐったりとした山賊十数人の塊だ。純金特有のずっしりとした質量に加え、成人男性十数人の体重。その総重量は優に1トンを超えている。
「……はぁ、はぁ……。動摩擦係数……無視……。削れる……俺の資産が、アスファルトならぬ砂利道で削れていく……! これは、俺の、正当な報酬だ……」
「いや、どう見ても山賊を拉致している怪しい男にしか見えん! そもそもその縄、本物の金か!? どこの国に山賊を金で縛る勇者がいる!」
「ここにいるよ。かっこいいでしょ?」
後ろから、ふかふかのクッションが敷き詰められた馬車からリッチーが顔を出す。彼は「一歩も歩きたくない」という理由で、高騰した15万Gをポンと支払い、再び馬車をチャーターしていたのだ。
「リッチー! 貴様は……はぁ……馬車代なんて、無駄な、ことを……。門番! この縄を、今すぐ一番高い質屋へ案内しろ! ついでにこの山賊どもも懸賞金に変えてやる! 漏れもなく回収するぞ!」
「あ、ああ……。わかった、とりあえず中に入れ。ただし、その縄で村の舗装を削るなよ。修繕費を請求するからな」
「……ッ!? 削れた分の金の粉を回収させろぉぉ!! 俺の時価総額が減るだろうが!!」
――数分後。村で一番大きな質屋『ガッポリ商会』
ゼニマルはカウンターに「金の縄」を縛られた山賊ごと叩きつけた。
あまりの重量に、オーク材の頑丈なカウンターがミシミシと悲鳴を上げる。
「店主! これを換金しろ! 純度100%の最高級品だ! 山賊の懸賞金と合わせて、即金で頼む!」
店主は老眼鏡をずらし、まじまじと縄を見つめた。そして、ルーペを取り出して表面の細工を確認すると、深くため息をついた。
「ほう……。確かにこれは見事な純金だ。魔法による特殊コーティングまで施されている。……だがねえ、お客さん。これは『縄』だ」
「それがどうした! 溶かせば立派なインゴットになるだろうが!」
「それが問題なんだよ。魔法加工が特殊すぎて、溶かして地金にするのに莫大な専用魔力と手間がかかる。それに、今この世界は魔王軍のせいで深刻な物不足と不景気だ。みんな『金塊』より『今日のパン』や『実用的な鉄』を求めてる。こんな流動性の低い高価な装飾品、満額で買い取って在庫を抱える余裕はうちにはないね」
「……なっ」
「それに、この山賊ども。今は村の財政もカツカツでな。こんな小悪党に払う懸賞金なんて用意されてないよ。牢屋の飯代がかかるだけ迷惑なくらいだ」
ゼニマルの顔からサァッと血の気が引いた。
「……で、では、いくらになるんだ」
「そうさね……加工の手間と在庫リスクを考慮して、手元に残るのは、ざっと24万Gってところだね」
「な……ななな、70パーセントの減損処理だとぉぉぉ!?」
ゼニマルの絶叫が村中に響き渡った。
80万Gの価値がある縄が、一瞬にして24万Gに暴落。山賊の捕獲にかけたカロリーもタダ働き。完全なる「キャピタル・ロス」である。
「冗談じゃない! 俺がどれだけのカロリーを使ってここまで運んだと思ってるんだ! 途中で削れた金粉の損失だけでも数千Gにはなるんだぞ!」
「じゃあ、売らないのかい? 持ち歩くには重すぎると思うけど」
「……う、うう……。リッチー! お前がナイルで買ったんだから返品しろ! クーリングオフだ!取り戻せ!」
「えー、ナイルは『お客様都合の返品』は受け付けてないんだよね。送料の方が高くなるし。……あ、そうだ。店主さん、この村ごと僕が買っちゃおうかな? 村の財政を潤せば、満額で買い取れるでしょ?」
「村を、買う……?」
店主と、様子を見に来ていた門番が完全に凍りつく。
「やめろぉぉ! 根本的な解決になってない! 村を買う金があれば、俺のHPを1でも回復させる手段を探せぇぇ!!」
結局、ゼニマルは経済の暴挙に屈することなく、意地でも資産価値を維持するため、その重すぎる金の縄を「自分の持ち物」として引きずって歩く決意をした。
命よりも重い金の重圧が、物理的にゼニマルの肩にのしかかるのだった。
■贅沢勇者:リッチー
【所持金】9,975,394,520G
●本日の支出
馬車 ──15万G
■節約勇者:ゼニマル
【HP】 9,999,999,999
【所持金】 100G
【装備】 銅の剣×99
【道具】 折れた剣の先、金の縄
【換金アイテム】合計時価総額──286G
●本日の収入
無し
●本日の支出
莫大なカロリーと精神力




