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斯くてドラゴンは人になる  作者: 冫メ况。
3章〜解放の銀
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解放の銀12

アイトを馬車に乗せて数日が経った日の正午前。街道の先にトルマリン王国が見えてきた。

ナイト王国と同様に、トルマリン王国領土の外周は高い壁で囲われており、その周りは平原が広がっている。

遠目から見て、ナイト王国よりは小さく見えるが、国と呼ばれる規模としては十分大きいと感じた。

あと半刻もあれば到着すると思っていたが、俺たちの前を進んでいる馬車が歩みを止めたらしく、俺たちを乗せた馬車もそこで止まってしまった。


「お〜。結構並んでんな…。お客さん方、もうトルマリン王国は見えて来てるんだが、入国に時間がかかるかも知れねぇ。もうちょっと待っててくれ。」


グレースが俺たちにそう言うと、ラピスは窓から身を乗り出し、街道の先の景色を見ていた。

恐らく、トルマリン王国に入国するために並んだ馬車が、行列を成していることだろう。


「わ〜。ほんとだ、結構並んでるわね。これ、全部王選に参加する人たちなのかしら?」

「商売目的の商人も居ると思うけど、殆どは王選参加者だろうな。」

「うん。正確には、王選参加希望者だね。多分、ここに並んでる人の殆どは参加できないんじゃないかな。」

「…何かしら条件があるということか?」

「その通り。その反応だと、やっぱり君たちにも詳しい情報が行き届いてないみたいだね。」


アイトに言われるまで気にしてなかったが、確かに王選に参加条件があってもおかしくない。と言うか、あってしかるべきだ。

王選の話が広まる過程で、参加条件の話が淘汰されたのか。


「参加条件ッて、具体的に何があんだ?」

「うん。トルマリン王国の国民でない人は、そもそも国内の有権者が身元を保証してくれないと参加できないんだ。仮に身元を保証してくれたとしても、参加費として少なくないお金が必要だし、トルマリン王国の情勢についてもある程度知ってないと、王選には参加できないね。」

「…まァ一国の王になれんだから、そのくらいはしねェとな。」


ロードの言う通り、部外者を王にするならそのくらいの条件は必要だろう。

となると、王選に参加できる国外の人間はかなり少なくなるはずだ。


「アイトがトルマリン王国を出る前から、宿はほとんど埋まってたって言ってたよな?」

「あぁ、うん。それがどうかしたのかな?」

「てっきり俺は、その宿に泊まってる人たちは王選に参加する国外の人が殆どだと思ってたんだ。でも国の有権者が身元を保証するという条件があるなら、そうとも限らないんだよな?」

「…その通りだよ。王選に参加する国外の人は、有権者から住処を与えられてるはずだからね。宿を埋めてる人は、観光客と商人が殆どだったよ。」

「そんなことまで知ってるの?凄いわね。」

「僕も気になったから、調べただけだよ。ちなみにその観光客は、王選に参加できなかった人たちばかりだったね。」


アイトはトルマリン王国の事情をよく調べている。

特に理由は聞いていないが、生半可な気持ちで王選に参加しているわけではなさそうだ。


「じャあここに並んでる人も、殆どは観光客になるッてことか?」

「いや、そうとも限らないと思うよ。宿が取れないことを知ったら、すぐに帰っちゃう人も結構居たからね。」


なるほど。

向かい側から来る馬車がやたら多いと思っていたが、あれは宿が取れずに帰る人たちの馬車なのだろう。

国の外に野宿してまで、祭典を楽しもうとする人はあまり居ないらしい。

トルマリン王国としては、国内の経済を回す観光客を失ってしまうことになるため、少し勿体ないな。


「…まぁ、人で溢れかえることは無さそうだな。観光目的の俺たちとしては助かる。」

「確かにそうだね。でも王選が開催されたら、日帰りの観光客がたくさん来るらしいよ。今回は国外の参加者も居るから、通常の王選よりも人が集まるんじゃないかな?」

「そうか…。じゃあ、それまでにある程度は回っておきたいな。」

「そうだね。その辺は僕に任せて欲しい。」


アイトから聞いた話によると、王選は3日後に開催されるらしい。

明日と明後日は、アイトに案内してもらって観光する予定となっている。


「そう言えば、アイトは王選の準備をしなくてもいいのか?トルマリン王国の国民にも、何かしら参加条件があるだろ?」

「あぁ、うん。トルマリン王国の人は、歳が18以上なら男女問わず参加できるんだ。僕もちょうど18だから、問題なく参加できるよ。準備と言えば…そうだね。固有魔法も使えたし、後は選定内容が僕に有利な内容になることを祈るだけだよ。」

「へぇ〜!アイトさんって、アリウスと同い年なんだ!」

「アリウスって…君たちが話してたナイト王国の王女様だよね?」


ここまでの道中、アイトに俺たちのことを話す内に、俺とセラフィが賢者の弟子であることにも触れた。その流れで、アリウスのことも話していたのだ。

トルマリン王国では賢者という地位を設けていないらしく、アイトもその辺りには疎い。

そのおかげか、俺たちが賢者の弟子だと伝えても、態度を変える様子はなかった。


「そうよ。もしアイトさんが王様になったら、会う機会もあるんじゃないかしら?」

「…その前に、他の国の文化についても勉強しないといけないね。まだ僕が知らないことはたくさんあるから、失礼のないようにして行くよ。」

「えぇ…王様になっても勉強しなきゃいけないのね…。」

「そりャそうだろ。」

「ははは。まぁもし会うことがあったら、君たちと出会ったことを話の種にさせてもらうよ。」

「うん。それはアリウスも喜ぶと思う。」


そんな話をしている内に馬車は少しずつ進んで行き、俺たちはようやくトルマリン王国の中に入ることができた。


─────────────────────────────────


「着きましたぜ、お客さん方。ここで降りるってことで良いのかい?」

「あぁ。ありがとう、グレース。」


昼の時間を少し過ぎた頃。俺たちを乗せた馬車は、トルマリン王国の中にある『旅馬』の前に到着した。

俺たちはここで降りて、観光がてら歩いてアイトの家に向かう予定だ。


「全員降りたな。んじゃ、俺は『旅馬(ここ)』で働いてるから、出立する頃にまた来てくれ。」

「わかった。王選が終わったら訪ねると思う。」

「了解だ。観光、楽しんでな!」


そうして俺たちはグレースと別れ、アイトの家路に着いた。

旅馬に着くまで軽く街並みを見ていたが、下車して改めて見てみると、高い建造物が多い印象があった。

その建物の殆どは、元々あった建造物の上に増築されているもののようだ。

ナイト王国とは少し違う造りのため、ロードやラピスも気になっているのか、見上げて建物を観察している。

そんな俺たちの様子を見たアイトが声を掛けてきた。


「皆、建物が気になってるみたいだね。」

「…あぁ。増築されてる建物が多いみたいだな。」

「そうだね。この国は100年以上、領地を広げてないのに人が増えてるから、新しく家や施設を作ろうとしても土地が無いんだ。だからああやって、建物の上に増築することで土地不足を補ってるんだよ。」


100年もの間、国土を広げてない?

スティブ王国は十数年でかなり領地を広げているそうだが、本来その行いは難しいものなのだろうか。


「え?100年も領地を広げてないの?なんで?」

「…国民から国に対して、領土を広げるように要望を出してはいるんだけど、この国にそんな余裕は無いそうだよ。特に、城壁の資材にお金がかかるみたいでね。」


…だとしても、やりようはあるはずだ。

一度に領土を拡大せずとも、少しずつ広げていけば良い。

資材が足りないのであれば、今ある城壁を取り壊して資材の足しにすればいい。

国を営む人間なら何かしら対応することはできると思うが…。


「ねぇ。アイトさん。」

「何かな、セラフィさん。」

「あの城壁、結界魔法が張られてるでしょ?」

「…凄いね、セラフィさん。そんなことまでわかるんだ。」

「うん。どういう結界が張られてるの?」


セラフィがそう聞くと言うことは、結界の解析ができなかった、ということか?


「あれはね、城壁を強固にする結界魔法が張られてるんだよ。」

「…それだけ?」

「え…うん。それだけだよ。もしかして、ナイト王国ではもっと凄い結界魔法が張られてるのかな?」

「あー…ううん。ナイト王国には結界は張られてないよ。ただ、凄く複雑な結界だったから、気になっただけ。」

「なるほど。昔の人が組んだ結界だからかな。」

「…昔の人?」


セラフィがそう聞き返すと、アイトは少し得意げな表情になった。


「そうだよ。そしてその人こそ、このトルマリン王国の初代女王であり、君たちも知っている『貴方の見る景色』の主役…女王シャル様と言われてるんだ。」

「女王シャルが…?それは…まだ生きているということ?」

「いや。もう随分前に亡くなられたよ。僕も詳しく知らないけど、あの結界は特殊だから、死後も結界が解かれないって話を聞いたよ。」


基本的に結界は、その結界を張った本人が死ぬと消えるのがこの世界の決まりだ。

それは、この世界では共通認識のはずだ。

仮に、女王シャルの使う結界魔法が固有魔法だったとしても、死後も残り続けるとは考えにくい。


「その話、アイトは信じてるのか?」

「…一般的にはありえない話だと言うことはわかってるけど、僕は信じてるよ。何せ、女王シャル様は僕の御先祖様だからね。御先祖様を信じた方が、ご利益がありそうだと思わないかい?」

女王シャルと白竜シャルで名前が被っており、紛らわしくなっておりますが、ご容赦ください。

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