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12話 武闘祭

 俺とサラカが出会ってから、一週間が過ぎた。

 マキリの店で装備を整えた日以外はほぼ毎日迷宮に潜っていたため、サラカとの連携も危なげないものになっていた。


「サラカ、その『トレント』は木の部分に攻撃してもすぐ再生されます。根を狙って下さい。今は他の魔物も来ていないので冷静に」

「了解、ですっ!」


 その主な要因は三つ。一つ目はお互いの立ち回り方を理解したこと。サラカがアタックで俺がサポートおよび指揮、という役割分担が非常にきっちりしていたため、慣れるのにそう時間はかからなかった。


「討伐お見事──おっと、魔物の大群がやって来そうです。ここは引きながら迎撃しましょう。俺が可能な限り進行を抑えるので、サラカは射撃に集中を。今の貴女なら殲滅も可能だと思いますので」

「や、やってみます!」


 二つ目は装備。マキリが用意してくれたサラカの装備は流石と言うべきか性能面も抜群で、以前の彼女に比べて動きが非常に軽くなり、殲滅力が増大した。


 無論それと引き換えに防御力は低下しているのだが、そもそも(ニード)のルーンによって身体能力を強化できる彼女に魔物の攻撃が当たることはほとんどないし、たまの危ない攻撃は──俺が全て防いでみせる。


「サラカ、無理に当てる必要はありません。当たらなくても威嚇射撃になって進行を遅らせればその分余裕が出ますので、回転率を重視してください。それに、多少のズレならば俺が魔物を誘導して無理やり(・・・・)当たらせます(・・・・・・)

「割ととんでもないこと言ってる自覚あります!?」


 そして三つ目は、俺のこの右眼だ。数日間の使用によって右眼の性能は更に研ぎ澄まされている。

 今ならば、右眼で対象を視認すればその『色』から魔物や魔法の弱点だけでなく、詳細な状態や次の動作も大まかに分かるようになってきた。


 例えば今サラカの描いた(ケン)のルーンを見れば、その色合いから約一秒後に熱線がどの方向に射出されるかが分かる。

 眼前の魔物を見れば左側の色が濃い。つまりそこが弱いということは今この魔物は右側に意識を集中しているということ。

 よってこの魔物はこの後高確率で右に動く。


 と、こんな風にして色の濃淡から次の動きを予測する。その予測とサラカの熱線の軌道を照らし合わせれば、こんなこともできる。


「よっと」


 ぱちん、と指を鳴らして結界術を起動する。右眼の効果によって俺の結界術も無駄を無くして研ぎ澄ますことが出来ている。


 今ならば簡易的な結界なら詠唱抜きでも起動可能だ。連携の為軌道の合図を分かりやすくすることと個人的な癖によって指鳴らしだけはするようにしているが。


 そうして俺の翠性遮断結界が出現する。視認した魔物の右側の足元に。


「ガッ!?」


 予測通り右に動こうとした魔物は俺の結界に足を引っかけてつんのめる。その結果魔物の想定以上に右側に動いてしまい──丁度そこに、サラカの熱線が飛んできた。


 断末魔の悲鳴すら上げられずに魔物が頭部を吹き飛ばされて消滅する。結果的にこの魔物はサラカの射線に自ら飛び込んだ形になった──いや、俺がそうなるように動かした、と言う方が正しいか。


 それを正確に理解したサラカが、思わずと言った調子で呟いた。


「……やっぱりあなた、未来でも見えているのでは?」

「見えてはいませんよ。読んでいるだけです」


 最早恒例となってしまったやり取りの後。

 いつものように魔物を殲滅し素材を集め、俺と彼女は帰路に付くのだった。



「しかし改めて思うんですがその右眼、一体何なんですか?」


 素材をギルドで換金した帰り道、サラカがふとそんなことを聞いてきた。


「わたしの知る限り、眼に関する技能(スキル)は『魔眼』や『天眼』が挙げられますが、それらとは違うんですか?」

「多分、違うと思います。『魔眼』は眼そのものの内包する世界が他者に影響を与える技能を指し、『天眼』は逆に内包する世界が自分に影響を与える技能ですから」


 俺はそう答える。


 例えば『石化の魔眼』が有名な好例だろう。あれは停止の概念を内包する魔眼で見ることで、その概念を他者に押し付けた結果相手を石化させる、という技能。


 逆に天眼だと、俺の知るものでは『韋駄の天眼』が挙げられる。確かあれは『時間の進みが遅く見える』という眼によって、逆説的に自分自身が速く動けるという技能だったはずだ。


 それらの眼と、俺の眼は根本的に違う。何故なら、


「この眼は、自身にも他者にも影響を与えません。本当にただ見え方が変わるだけなんですよね。だから、そもそも技能と呼べる代物でもありませんよ」


 そう説明する。そもそもこの眼が何なのかという答えを俺自身正確に把握していないため、何を言っても推測の域を出ないのだ。


 それに、と俺は思考する。


 この眼に覚醒して以降、俺はこの眼の正体について考察を重ねてきた。その中で最も説明がしやすい理屈はやはり、最初に考えた『呪いが視ている景色を視るモノ』という解釈だ。


 だとすれば。

 呪い、そして迷宮。この世界の根幹をなす二つの要素と、この眼は俺の想像以上に密接に関わっている。よって、人が『技能』と呼ぶものからはこの眼は大きく外れている。


 これも推測だが、そんな予感がする。


「……だとすると、尚更凄いですね」


 そんな俺の思考は、サラカの呟きによって遮られる。


「凄い?」

「だって、その眼が見るだけなのならば、そこから得られる情報を整理及び判断して、先の状況を予知したり魔物を誘導したりするのはすべてあなた自身の実力ということでしょう? それが出来るのは誇るべきことかと」

「っ」


 彼女の素直な賞賛に思わず息を呑む。

 ……マキリの店を訪れてから、彼女は少し変わったように思う。具体的にはこのように俺の働きをより詳細に評価してくれるようになったことと、


「……しかし本当にそうなると、わたし戦う以外のこと何もしてませんね。戦闘でもあなたの指示通り動くだけですし、我ながら楽をしすぎだと思います」


 この通り、何かにつけて意欲的に働こうとするようになってしまったこと。


「いや、指示通りきちんと動いてくれるだけでこちらとしては十分なのですが。楽が出来るのなら良いことでしょう。無理に何かしていただく必要は──」

「……あのですね。そうやって息をするように人を堕落させるのが二十八回も追い出される遠因を作ったんだとわたしは最近思うようになってきましたよ」


 呆れたようにそう言われてしまった。


「とにかく。わたしはわたしが個人的にあなたに負担させすぎだと思うから勝手にあなたのために動くのです。個人に寄りかかりすぎるのは適切なパーティー運営の上で問題があると思ったからそうするだけです。あなたが気にする必要はありませんから」


 そこまで言われると俺からは何も言えない。こういったとき彼女は存外頑固であるとこの一週間で学んだことだし。


 彼女はしばらく考え込んだのち、俺にこう問うてきた。


「……あなた、何か欲しいものはありますか?」

「…………、お金ですかね」

「熟考の割に即物的な答えですね!?」


 驚きの声を上げさせて申し訳ないが、順を追って考えるとそうなってしまうのだ。


 サラカという非常に優秀な冒険者とパーティーを組めた以上、これまで入れなかった迷宮にも潜ってみたい、というのが俺の当面の望みだ。

 例えばサラカの服の原料が取れる迷宮である『迷宮:ユグドラシル』は、迷宮を縦に貫通する大樹を中心とした非常に幻想的な光景が広がる場所らしい。是非とも探検してみたい。


 だが、その迷宮は単純に難易度が高い。サラカと一緒なら潜れないこともないだろうが、それでも専用の装備や迷宮固有の魔物に対策する解毒ポーションなどは用意しなければ少しばかりリスクが高すぎる。


 サラカの装備を買ったこともあって今はそれらの資金が心もとない。よってしばらくは近場の迷宮でお金を貯めるという方策を取っていた以上、今必要なものはと聞かれた時は答えがそうなってしまうのだ。


「普通こういう時は趣味に使うものを答えるんでしょうが、俺は特に趣味も無いというか冒険者をやること自体が趣味ですからね……申し訳ない」

「むむむむむ……」


 俺の答えを受けてサラカが唸る。


 事情が事情な以上、まさかサラカ個人のお金から出してもらう訳にもいかないだろう。それはサラカも理解しているため、どうしたものかと歩きながら唸り声を上げ続け……


 その目線が、あるところで止まった。


 それは街の掲示板の一角に貼られた、一枚のポスターで。

 上半分には『武闘祭』とでかでかと書かれており。

 その下に、『タッグトーナメント形式』と記され。

 更に下半分には、『優勝賞金五十万G(ジルグ)』と書かれていた。


 サラカが、ゆっくりと振り向く。


「……エルク」

「はい」

「これ、出ましょうか」

「いやいやいやいや」




 ◆




 結論から言うと出場することになった。


 その経緯を説明する前に、まずは『武闘祭』がどういうものか軽く解説しておこう。

 そもそもこの街は、冒険者の数が非常に多い。理由は単純、迷宮の数が多いからだ。


 だからこそこの街の領主は、迷宮から得られる利益だけでなく、冒険者を対象にしたビジネスや『冒険者』という存在そのものを用いたビジネスも前面に押し出して街の活性化を図ろうとした。


 マキリの店のような冒険者用の専門店は税を減らす等の政策が前者。そして、『武闘祭』が後者である。


 ここまで言えば語感からも大体分かると思うが、簡潔に言うと『武闘祭』は腕に自信のある冒険者同士の戦いを見世物にしようというイベントである。


「実際、そのコンセプトでこの街は発展してますし、経済効果もきちんとあります。冒険者としてもこのイベントで名を上げれば指名依頼が増えたりしますし、領主側としても優秀な冒険者を知っておくことは損になりません。他の街に行かないよう囲い込んだり、場合によっては専属の『騎士』として取り立てたりもしてるそうです」

「へぇ……色々考えているんですね」


 受付会場に向かう道中、俺の解説にサラカが感心した様子で頷く。


 そして、俺とサラカが出場を決めた理由について。

 普通に考えればあり得ない。何せサラカはともかく、俺には呪いがある。本来ならこのような催しに参加することは到底考えられない。


 だが、今回の『タッグトーナメント形式』という方式。この一点が鍵になる。


 この形式である以上、戦う上では個々人の能力もそうだが、それと同じくらいに連携も重要になってくる。

 俺とサラカはパーティーを組んでからの日は浅いが、役割が極端に分かれているおかげか既に実戦では問題ないレベルの連携が出来るようになっている。


 そして何より、サラカは強い。非常に強い。俺もこの街に五年いる為冒険者の大体のレベルは把握できているが、サラカはこの年齢でありながら既にこの街ではトップクラスの実力を持っていると言っていいだろう。


 勿論サラカ以上の実力を持った冒険者もいることにはいるが……恐らくそう言った者たちは武闘祭には出てこない。


 彼らはこんなものに出なくとも既に名を上げているし、収入もかなりあるため五十万という賞金もそこまで魅力的ではないだろう。有体に言えば出場するメリットがあまりないのだ。


 以上の理由によって、サラカと、そして今の俺が組んで出場すれば、優勝を狙う価値はある。そう判断して俺もサラカに賛成し出場を決めた。


 俺自身、この右眼によってさまざまなことが出来るようになった今の俺がどこまで通用するのか試してみたかったし。


 それに何より、サラカが俺の目的のために動こうとしてくれている。その意志を無碍にするのは、どうしても躊躇われたのだ。


 そうしているうちに、受付会場に到着した。


 受付の人間に身分証を提示して冒険者であることを示し、出された書類に必要事項を記入している間。俺はさりげなく周りの出場者を観察する。


 ……やはり読み通り、参加者のレベルはそこまで高くない。サラカの実力を鑑みれば、これは本当に優勝してもおかしくないかもしれない──



 ──という考えだったが、どうやらそう簡単にはいかないらしい。



「登録をお願いするわ」


 聞き覚えのある、涼やかな声が響いた。

 思わずそちらに目を向けると、真っ先に目に入るのは輝く銀髪。

 見る者が震えるような硬質な美貌を浮かべたその少女は、迷いのない声で受付に声を掛ける。


「……なんで、ここに」


 思わず出たその声に彼女が反応してこちらを向き──僅かに目を見開く。


「どうしたんだいニナ、珍しいものでも見たのか……い……」


 その少女の後ろからこれも見覚えのある紫髪の優男がやってきて、ニナの目線を追って俺を視認し──露骨に顔を顰めた。



 冒険者ニナ=サーティスと、冒険者アキオス=セルジア。


 一週間前俺を追い出した二人であり、この街でも最強格の実力を持つニナ擁する高位冒険者パーティーの二人。


 そして、この武闘祭で優勝を目指すならば間違いなく最大の障害となるだろう二人が、参加用紙を片手に立っていた。


武闘祭編、開幕です。

ここからざまぁ展開とかも入れていきます!

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