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13話 因縁の邂逅

「エルク? 君がどうしてここにいるんだい。参加用紙を持っているように見えるけど、まさかこの武闘祭に出場するつもりじゃないだろうね?」


 俺を視認したアキオスは開口一番、軽蔑を隠さない声で俺に問いかける。

 この人も相変わらずだな、と心中で嘆息しながら俺は答えた。


「……ええ。そのつもりですが」


 俺の回答にアキオスは一瞬呆けた顔を見せたが、すぐに顔を侮蔑の笑みに歪めて笑い出した。


「…………ははははは! おいおい何の冗談だい、君が? 誰も傷つけられないエルク君が武を競う祭りに出場するだって? 随分と愉快な話じゃないか! ああ、もしかして他に優勝させたい相手でもいるのかい? そのために少しでも枠を減らそうとしたのかな! でも残念だったね! 僕とニナが出場する以上それは全て無駄な努力さ!」


 そう言ってひとしきり高らかに笑った後、今度は目を細めて俺に凄んでくる。


「……だからさ、やめてくれないかな。君のような弱いくせに小賢しい知恵だけは回る人間がいると、僕たちのような高潔な冒険者の品位が下がるんだよ」


 アキオスは周りに見えない角度で右手を俺に翳し、魔力を集めていく。


「君のような何の取柄も無い人間は、大人しく強い人間の言うことに従って荷物持ちでもしていればいいんだ。分かるだろう? さもなくば──」

「やめなさい、アキオス」


 慣れた手つきで俺を脅していたアキオスの行動をニナが遮った。アキオスが苛立たしげな顔で振り向く。


「何だいニナ。いくら君にでもそこまで口を挟まれる筋合いは──ッ!?」


 そう言いかけた口が、全く別の方向から発せられた殺気によって閉じられる。


「口を挟むつもりは無いわ。これは忠告。

 ──それ以上は、そこの子が黙ってないわよ」


 ニナがそう指摘した方向には、漏れ出た魔力の圧で髪が靡くほどに魔力を高めたサラカの姿が。


「そこのあなた。今エルクに何をしようとしましたか?」


 同じ魔術師同士、魔力の動きからアキオスの脅しを察したのだろう。お返しと言わんばかりに魔力の放射だけで相手を圧するサラカがそこにいた。


 アキオス程の実力者がそれに気づかないはずもない。彼は姿を現したサラカの美しさに一瞬見惚れたものの、すぐにその圧力と殺気の大きさに気付いて身を竦ませた。


 そのままサラカが右手を掲げてルーンを刻もうとしたので、


「サラカ、ストップです。怒っていただけるのはありがたいですが、向こうも手を出していない以上その先はまずい」


 そう言ってサラカを止める。

 そして、怯んでしまったアキオスがプライドを保つため何かを言おうとするのに先んじて、俺は彼らに質問を投げかける。


「アキオス、ニナ、俺の方からも聞きたい。貴方がたの方こそ、どうして武闘祭に出場しようと思ったんです?」

「……どうして、だと? 君と違って僕たちが出場するのに理由が──」

「確かに理由は必要ありませんね。でも不自然だな、と思いまして。

 お二方。──ギースは(・・・・)どうしたんです(・・・・・・・)?」


 俺のその問いに、ニナとアキオスの顔が強張る。ああ、やはりか。


「あのパーティーの中で、一番こういった催しに興味を示しそうなのがギースです。そしてギースが出場するつもりなら、まず間違いなくパーティーメンバーである貴方たち二人のどちらかと組んで出場するはず。なのに今ギースはおらず、貴方たち二人が組んで出場している。これは少し不自然では?」

「……まったく、君はこういったことばかり勘が回るね」


 アキオスが忌々しそうに吐き捨てた後、


「いいだろう。教えてやる。ギースは辞めたよ」


 俺の予想していた通りの解答を告げた。


「何故でしょう? 俺が抜けさえすればパーティーは上手く回るはずだったのでは?」

「まるで自分を追い出したことを間違いだったかのように言うのはやめるんだねエルク。ギースが抜けたことと君の追放に因果関係は無い」

「……」

「君が抜けた後、これまで君がこなしていたささやかな雑務はギースが担当することになった。だがあのごろつきはよりにもよって、そんなことやってられるかと言って勝手にパーティーを飛び出したのだよ! 僕たちのパーティーに入れてやった恩を忘れてね!」

「そのささやかな雑務とやらは、全てギースが担当したので?」

「ああ。当然だろう? 君が抜けた以上僕たちのパーティーで一番弱いのはギースだ。一番戦闘に貢献できない者がそのようなことをやるのは責務だろうに」


 いや、多分それ因果関係あるどころかもろに直接要因かと。


 パーティーの消耗品整備、迷宮のマッピング、事前調査、等々。確かにあのパーティーにいた頃俺がやっていたのはそういう微々たるものだ。だがそれらも積み重なれば結構なタスクになる。


 勿論俺に出来ることなのだから他の人間にも出来るだろうが、『戦闘をこなしながら』という条件が付くと難易度が跳ね上がるのは想像に難くない。

 それが無いからこそ俺は出来ていたのであり、それをしなければならないギースが耐えきれなくなったのも理解できなくはない。


 俺のやっていたタスクは、パーティー全員が戦闘担当ならパーティー全員で分担すべきだったのだ。


「だからこそ、僕とニナはこのトーナメントに出場することにした。流石に二人だと回れない迷宮も出てくるのでね。優秀なタッグを見つけて勧誘することにしたのさ。優勝者である僕とニナの誘いを断る愚か者がまさか全員ということは無いだろう」

「……へぇ。もう優勝したつもりとは随分な自信ですね」


 アキオスが出場理由を語り終えたのと同時に、冷えた声で話しかけたのは俺の隣に居るサラカだ。


「エルク、話を聞く限りこの人たちが、以前あなたを追放したんですね?」

「……ええ。貴女と出会う直前に」


 俺の解答を受け、サラカの纏う空気の温度がさらに下がる。

 そんな彼女に対してアキオスが、先の失態を取り返すかのように穏やかな、しかし優越感を匂わせる声色で話しかける。


「やあ、お嬢さん。先ほどはすまなかったね。僕たちにとってあの程度の魔力を練るのは挨拶のようなものなのだが、エルクにとってはそうでもなかったようだ」

「おや、奇遇ですね。わたしにとってもあの程度の魔力放出は挨拶のようなものなのですが、まさかあれで怯んでしまうとは。実力を把握できずすみませんでした」


 ……薄々思ってたけどこの子、機嫌悪いときは結構毒吐くのね。

 そしてアキオス、自分から墓穴を掘りに行くとはかなり冷静さを失っているようだ。


「っ、サラカと言ったか。忠告しておこう、君はエルクに騙されている。どうやら彼と組んで出るようだが、彼は弱いくせに浅ましい、他人の粗を探すことしか能のない人間だ。きっとこの大会に出たのも、賞金を自分一人で掻っ攫う魂胆なのさ。君は見目麗しいお嬢さんなのだから、致命的に騙される前に己の見る目を磨くべきだと思うよ」


 長向上にも間髪入れず彼女は返す。


「あなたはブーメランを投げるのが趣味なのですか? あなたこそ見る目を磨くべきだと思います。エルクの価値を理解しなかった結果残るメンバーにも逃げられてパーティーを維持できなくなったからこその現状でしょうに」

「ッ! あれはギースに全ての責任があると言っているだろう! 内情を知りもしない者に勝手な決めつけをしないでもらいたいものだね!」


 瞬時に彼の表情が変わった。

 顔を怒りで真っ赤にしてアキオスが吐き捨てると、もう話すことは無いと言わんばかりに背を向ける。去り際に、


「いいだろう。何を言おうと僕とニナの優勝は揺るがない。この僕に舐めた口を聞いたことを後悔するがいいさ」


 そう言って、さっさと歩き出してしまった。


「……はぁ。今日は随分機嫌が悪いわね、あの男」


 そして、残されたニナが嘆息と共にそう呟く。

 その様子を見たサラカが訝し気な口調で問いかけた。


「その……あなたはニナさん、でしたか。ひとつ聞いても?」

「構わないわよ」

「あなたはどうして、彼に従っているのですか? あなたは先の魔力放射を受けても動じませんでした。あなたはきっと彼より強い。なのにどうして……」

「別に従ってるわけじゃないわ。アキオスの提案をわたしも妥当だと思ったからわざわざ反対もしなかっただけ。それに……どうでもいいもの」


 冷静な顔を崩さず、ニナが続ける。


「私はただ、迷宮で魔物を狩ることが出来ればそれでいい。だからパーティーメンバーは強さを第一に選定する。アキオスはその強さに価値がある。だからあの男が何をしようと私に害が無い限り放っておく。ギースが出て行った件もこの武闘祭で埋め合わせれば文句を言う気はないし──」


 そこでニナは、碧眼を俺の方にちらりと向けて。


「──戦えないエルクを追い出した判断が間違っていたとは、私も思わない」

「な──!」


 そのニナの断言に、サラカが色めきたった。


「……撤回を要求します。エルクさんには価値がある」

「貴女の価値と私の価値は違うわよ。私にとっては強さが──」

「その強さもです。あなたのパーティーにいた頃はどうか知りませんが、今のエルクさんは強い。それはわたしが断言します」


 ……あの、サラカさん。

 なんか知らない間に俺の期待値がどんどん上がってません?


 これでもニナのパーティーに在籍していた以上、ニナの性格もある程度は理解している。彼女はこの通りかなり極端な実力主義で、それ以外への興味が薄い。だが、だからこそ、こういう実力の変化を匂わせるようなことをニナに言ったら──


「……へぇ?」


 この通り喰いつくんですよこの人は。


「少なくとも私が追い出した時までは、私は彼に価値を感じなかった。たった一週間で何かが変わったとでもいうのかしら」

「ええそうですとも。せいぜいびっくりするがいいですよ!」


 サラカ、アキオスとやりあった時に比べて語彙量に差がありすぎます。

 ニナは興味深げにしつつも肩を竦める。


「でも、それを示すべきはここじゃないわね。私、言葉って信用してないの。見たものしか信じない。だからサラカ、もし貴女がエルクの価値を見初めて、それを証明したいなら……私に勝つことね。そうすれば、私も自分の判断が間違っていたと認めましょう」

「望むところです。もとよりここには優勝するつもりで来てますから」


 サラカのその言葉を聞くとニナは目線を横に向けて、トーナメントの組み合わせを確認してから。


「そう。じゃあここは、少しばかりありきたりな別れの挨拶をしましょうか」


 薄く不敵に笑って、振り返りざまにこう告げた。


決勝で待ってるわ(・・・・・・・・)、お二人さん。

 まあ、来なくても別に構わないけれどね?」


 こうして。

 ニナとアキオス、この武闘祭において最大の敵であり、俺にとっては因縁の二人との思わぬ邂逅は、幕を閉じたのだった。


評価いただきました! ありがとうございますm(*´Д`)m

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