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終幕へ…

さて、これで第二の幕が終わりました。



次は終幕への鎮魂歌です。



皆様は、誰が犯人なのかわかりましたか?


まだ、わからない方。


もう一度、言いましょう。



“この中に、嘘をついている人がいます”



いえ、“嘘が書かれている”と言った方が皆様にはわかりやすいでしょう。

犯人はあなた方のすぐ近くにいるのだから……。


あなた方は考えるだけ。


あなた方はこの終焉を見届けるだけ。



そして、あなた方がもし、犯人をわかったとしても、それは“どうする事もできないのです”



私達はまた、さっきの広間へと戻っていた。

白木君に引き続き、梨守さんまでも殺された。

もう誰が犯人なのか、どうでもよかった。



ただ、自分が殺されないのなら……。



私はやりきれない顔で天井を見上げた。

窓ガラスも何もない。

真っ暗な壁紙の中、明かりが点いているだけ。

もう、この屋敷から出る事はできないのだろうか?

月村君も大城さんも疲れ果てた顔で上の空を向いていた。



刻、一刻と時間は過ぎていく……。



突如、大城さんが何か決心したかのように、立ち上がった。

そして、何処かへ行こうと、扉の方へと歩き向かう。


「大城さん、どこに行くつもりなんだ?」


月村君の問いかけに大城さんは黙って、歩き続ける。


「おい! 沙流歌ちゃん! どこかに行くなら、皆で――!」






「……ホンマに皆で行った方が安全なん?」






大城さんが目を細めて、月村君を睨み付けた。


「どういう意味だ?」


「ウチは……もう、あんたらの事、信用できへん。……一人の方が安全かなぁ、って思って

る」


「…………」


月村君も、大城さんの言葉にどこか同じ気持ちを抱いていたのか、引き止める事ができなかった。


「ごめんな、月村君、宮野さん。ホンマにごめんな……」


そう言い残して、大城さんは白木君が殺された部屋のある廊下の扉を開けた。

それを黙って、見つめる私達。








大城さんが広間から出て行った後、月村君が苦々しい顔で私に話しかけてきた。


「宮野さん、ごめん。……僕も――」


「……仕方……ないわ」


彼が言いたい事はわかっていた。

私だって、大城さんと同じ気持ちだったのだ。

彼もまた、一人の方が安全だと踏んでいた。


「……すまない」


月村君はやるせない顔でそう呟いた。

私は、それに頷き、黙って彼を見送る。

月村君は梨守さんが殺された部屋へと向かっていった。

そして、扉を開けて、また一人、広間から立ち去っていった。










……とうとう、この場所は私一人だけとなった。






一人ぼっちの広間は、静寂で、何も起こらない。

ただ、……無意味な時間が過ぎていくだけ。



梨守さんが死ぬ寸前の事を思い出す。

梨守さんは死ぬ寸前、月村君に“何か”を渡していた。

それが何なのか、あの時、部屋が暗かったので分からなかったが……。

あれは一体何だったのだろうか?

もしかしたら、何か重要な物だったのだろうか?


いや……だが、もう遅い。


梨守さんから、その“何か”を渡された彼も、もう部屋の向こうに行ってしまった。

それに、彼がもし犯人だったのなら、それこそ、危ない。

危険を冒してまで、聞きに行く事ではない。





……そうだ。




誰も信用せず、誰の言う事も聞かず、誰の見た事も信じない。

自分だけを信じればいい。



“私は殺人鬼ではない”



それだけを信じていればよかったのだ。

他人を信じて、それで疑心暗鬼になった今、私達には初めから、“勝利する事”なんて不可能だったのだ。










そして、また、時間が過ぎていく。





あれから、いくら時間が経ったのだろうか。


依然、何も起こりはしない。

月村君や大城さんも、二度と、この広間には姿を現さなかった。

私は精神的にも、肉体的にも、限界まで追い詰められていた。

もはや、彼等がどうなったのか、わからない。

彼等も私と同じで、今も孤独の中、佇んでいるのだろうか。

私は立ち上がった。

ゆっくりと、ゆっくりと、大城さんが向かった方へと歩いていく。



――私は血迷ってしまったのだろうか?――



さっき、「自分だけを信じればよかった」と後悔したのに……。

なのに、こうしてまた、他人に頼ろうとする。

私は人との馴れ合いが好きじゃなかった。


……ハズだった。


だが、人は不安に陥ると、こうも他人に頼ってしまう。

人間というのは脆い生き物だ。

現に、今の私を見ればわかる。

体を震わせながら、「一人は嫌だと……」、他人に助けを求めているのだから。


ドアノブにそっと、手を置く。

ギシギシとした音を立てながら、ゆっくりと、ドアを開けた。










薄気味悪い廊下が続いている。

暗く、明かりが途切れているせいだろう。

それにこの先の男子トイレで白木君が殺されたのだ。

そう感じてしまうのは、無理もない事だった。

私は音を立てずに恐る恐る、歩いていく。

廊下には大城さんの姿は見えなかった。

この廊下には先に男女のトイレだけしかない。

なら、トイレにいるのだろうか?

私は女子トイレの方へと向かい、歩いていく。



隣の男子トイレには白木君が今も、死体となって、地面に倒れているだろう。

その光景は今も頭から離れる事はなかった。

女子トイレを覗いてみる。

明かりが点いて、水滴が落ちる音が聞こえていた。


「……誰もいない」


女子トイレには誰の姿もなく、私一人が手洗い場の鏡に映っていた。

便所内に大城さんがいないか、一つずつ、ドアをノックしていく。



コン、コン……。



全てのドアにノックをした。

だが、大城さんからの反応はない。

私は全てのドアを開けていくことにした。


一つ、一つとドアが開いていく。


だが、どの便所にも鍵が掛かっていなく、中には誰もいなかった。

とうとう、最後の便所のドアへと手を掛ける。



本当に彼女はこのトイレ内にいるのだろうか?


いや、いたとして……、果たして、生きているのだろうか?



白木君が殺されていた事と重ねてしまう。

だが、答えは開けてみなくてはわからないのだ。

手の震えを押さえて、ドアを強く押した。




「…………」












……最後の便所も誰もいなかった。






全ての女子トイレのドアが開いている。

だが、私以外の誰の姿も見えない。

なら、大城さんは一体、どこに行ったのだろうか?


その時、嫌な事が頭を過ぎった。




……男子トイレはまだ、確かめていない。


もしかしたら……、大城さんは……。




私は女子トイレから出た。

そして、男子トイレへと入っていく。

月村君がスイッチを入れっぱなしにしていたので、明かりは点いていた。


一歩、一歩。


緊張しながら、足を運ばせる。


頭に浮かぶ、嫌な想像をかき消しながら……。

死体となった白木君は依然、床に横たわっていた。






……“左手”に臓器を握り締めながら。






「……え?」


私は目を疑いながら、彼の左手を見つめた。



――……ちょっと、まて。



どういう事なのだ……。

確か、白木君は“右手”に臓器を握り締めていたはずだ。

うろ覚えだが、私は確かにそれを見ていた。



……それなのに、左手に変えられている。



「……これ…は」


臓器が握られていたはずの右手の方を見る。


「……あ…っ」


右手には紙が握られていた。

それに気づいた私は、すぐに彼の手から紙を奪い取る。

紙は四重に折りたたまれていた。

すぐにその紙を折り返してみる。

文字がだんだんと見えてきた。

全部折り返した後、私はすぐにその文字が書かれている紙を読んでみた。











『どうですか? 皆様。

 この殺人ゲームの犯人はもう誰だかわかりましたか?

 そろそろ、舞台も幕を下ろそうとしています。



 これが本当に最後の言葉です。



 あなたは、このゲームの殺人犯が誰だかわかりましたか?

 わからなければ、あなたの負けとみなし、誰一人この建物から生きては帰れないでしょう。



 さて……、忠告は終わりました。


 気づいていると思いますが、彼の臓器は右手から、左手に変えさせてもらいました。



 “新しい、新鮮な臓器です”。



 よく、ご覧になってください。

 そして、この部屋の天井を見てください。


 私は、あなた方の恐怖を浮かばせる顔を見るたびに、心が安らぐのです。

 

 これで、私からの手紙は終了とさせてもらいます。



 では、死後の世界で、また会いましょう……』











手紙に書かれていた通りに、よく目を凝らしながら、臓器を見てみる。

白木君から出ていた血は、少し色が黒くなっていた。

だが、臓器から流れる血はまだ、真紅のように赤い。


真新しい、鮮血だ。



ピタッ!



上の方から、一滴の水が私の頬に落ちてくる。

それを手で拭うと、手が真っ赤に変わっていった。




「……え……?」




手紙に書かれた通りに、目をゆっくりと、上へと向けていく。


「あ……あぁ……っ」


手が、足が、体の全てが震えだす。




そこには……。







天井に張り付けられ、お腹をズバッと、切り裂かれていた、大城さんの姿があった。




 

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