疑惑の手紙
もうすぐです。
もうすぐ、第二ゲームの幕が上がります。
さて、あなた方はこの猟奇的な殺人者が誰だかわかりましたか?
この時点でわかった方は、これ以上の犠牲者を増やさないためにも、どうかお引取りを……。
そして、犯人が誰だか、わからない方。
おめでとうございます。
あなた方にはまだまだ、このゲームを楽しんでもらいます。
次の幕では、狂気に満ち溢れた部屋でご覧になるでしょう。
血の海で覆いつくされた“女性の死体”を。
ズタズタに引き裂かれた四肢。
もぎ取られた四肢の痕からは大量の鮮血が見られる事でしょう。
それでは、どうかごゆっくり、お楽しみください。
私達はさっきまでいた部屋に全員で集まった。
無音、殺風景な部屋のせいか、ここが現実とはどこか遠くに離れてしまったように思わせられる。
全員の顔色には恐怖、不安、疲れが浮かび上がっていた。
――無理もない。
あんな事が起きた後なのだ。
平然としていられる方がおかしいだろう。
大城さんを見てみる。
余程のショックだったのだろう。
目が赤く腫れる程泣いて、今も梨守さんに慰められていた。
梨守さんはさっきの出来事でショックを受けたものの、もう立ち直っている様子だ。
地面に座っている月村君は、さっきから考え事をしているかのように、俯いて誰とも話そうとする素振りがない。
さっき、詳しく問い詰めなかったが、彼の手には“手紙のような物”を持っていた。
多分、トイレにいた時に殺された白木君の左手から、取ったものだろう。
何が書かかれていたのかはわからない。だが、月村君は何故、隠したのだろうか?
彼にとって、見られてはまずいものだったのだろうか?
わからない。
わからない事が多すぎる。
大体、何故私達はこのような閉鎖された建物に閉じ込められてしまったのだろうか?
私達を誘拐した犯人は、お金が目的なのか?
でも、お金が目的なら、犯人の姿が見当たらないのは不自然すぎる。
なら、犯人の目的は何なのだろうか?
私達を皆殺しにするつもりなのだろうか?
……いや、それはありえない。
そもそも、私達5人は何も接点がないはずだ。
月村君を再度、見る。
もしかしたら、彼の手紙には何か重要な事が書かれているのではないだろうか?
私は彼の方に向かい、言葉を掛けた。
「……月村君」
「え……? ああ、どうしたの? 宮野さん」
やはり、何か考えていたのだろう。
思いつめたような顔つきで私に振り向く。
「……あなた、やっぱり、さっき何か持っていたでしょう?」
「…………」
月村君は何も答えずに、黙ってしまう。
余程、見せたくないものなのだろうか?
「……一体、何を隠したの? 私には何か、“紙のように見えた”けど?」
私の言葉に大城さんと梨守さんが月村君に視線を向ける。
「それって本当なの? 宮野さん」
梨守さんは月村君を見つめながら、確認してくる。
「……ええ、私は“見たわ”」
梨守さんが無音の部屋の中、歩く音を立てながら、月村君の傍に近づいていく。
「月村君、何が書いてあったの?」
梨守さんが問いただすように、月村君に話しかける。
だが、彼は黙ったまま、何も答えずにいた。
「何か重大な事が書いてあったんでしょ? ……見せて!」
今まで冷静だった梨守さんが怒鳴るように、大声で言う。
後ろにいた大城さんはその光景を密かに見守っていた。
「……“見たら、きっと後悔すると思う”」
ようやく、月村君から出た言葉はその一言だった。
どういう意味なのだろうか?
私がそれを聞こうとした時、先に梨守さんの口が動いた。
「それはどういう意味なの?」
彼女も私と同じ疑問を持っていた。
「君たちも読んだら、……わかるよ」
そう言って、月村君は梨守さんに手紙を渡した。
梨守さんが手紙を読み始める。
私と大城さんは、彼女が読む手紙を静かに聞いた。
『ようこそ。
私はライアーと申します。
以後、よろしくお願いします。
この紙を見つけたという事は、既に幕が開いた、という事になります。
どうでしたか? 私が提供したこの殺戮ショーは十分楽しんで頂けましたか?
さて、いきなりで悪いのですが……。
あなた方には私が用意したゲームに参加してもらいます。
実に簡単なゲームです。
あなた方が私に勝利したなら、ここから無事に出してあげましょう。
ゲームの内容は殺人犯を探し出すこと。
どうですか? 実に簡単なゲームでしょう。
この建物にはあなた方、5人しかいません。
“これは本当です”。
“6人目がいる”等とは、甘い事は考えないでください。
犯人はあなた方5人に絞られる事になります。
あなた方の勝利条件は“私を見つけること”
最後まで、見つけられない場合は自動的に私の勝ちとさせていただきます。
考えてください。そして、私を探し当ててください。
“私はあなた方のすぐ近くに潜んでいますよ”』
月村君以外の全員が、ハッと息を飲み込んだ。
“私達の中に白木君を殺した犯人がいる”。
手紙の内容を信じれば、こういう事になる。
だが、すぐに疑問が生じてしまう。
――果たして、本当にそうなのか?
あの時、白木君以外の全員がこの部屋にいたのだ。
それはその場にいた全員が覚えている。白木君を殺す事は絶対に不可能なのだ。
“6人目がいないかぎり……”。
この手紙には、はっきりと“5人しかいません”と書かれているが、本当にそうなのだろうか?
まだ、この建物内で確認していない場所は数箇所、残っている。
この手紙が嘘だとしたら、6人目……すなわち、犯人がどこかに潜んでいるのかもしれない。
私は送り主の名前を思い返す。
“ライアー”。
“ライアー”とは英語で“嘘”という意味だ。
これが偽名なのは明らかなのだが、どうしてこんな意味の言葉を使ったのだろうか?
時間がどんどんと過ぎていく中、梨守さんが口を開く。
「この建物の中、まだ調べてない場所ってあるのよね?」
「あ、ああ。まだ、西の廊下の方は調べてないはずだ」
月村君がコクンと頷く。
「一応、全部調べておいた方がいいわね」
「そうだな。どうする? 全員で行ったほうが安全だとは思うんだけど……」
月村君の言った事は正論だ。
今、二手に分担すると危険な目に会う確率は上昇する。
最悪の事態を考えると犠牲者がまた一人、増えるかもしれない。
そう、“この中に犯人がいるのなら……”。
梨守さんも大城さんもその言葉に納得する。
こうして、意見がまとまった私達は早速、西の廊下へと向かった。
一刻も早く、こんな場所から出たい。
多分、今この場にいる全員がそう思いながら、月村君が西の廊下に繋がるドアを開けた。