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20 戦いの後、王都に向けて出発す!

 正午前に、私(茂吉)は英子さんを自衛隊仕様のパジェロの助手席に座らせると、……。 

 そのまま次の目的地、トラヴィス伯爵領に向けて出発した。


 後部座席には、ホブゴブリンの遺体から剥ぎ取った魔剣が、独特のオーラを放ちながらそこに置かれている。


 実際の話、こんな代物しろものを所有していたら、何かの呪いがかかかってしまうのではないかとも思われたが、……。

 まぁ、バルディ男爵が快くくれたのだ。ありがたく頂戴します。


 ふと横を見ると、英子さんはスケッチブックに熱心に男爵邸での出来事を描いていた。


「……」


 よく、何も見ずにあれ程詳細な絵を描けるものだ。


 何か声をかけようと思ったが、邪魔するのも悪い気がする。

 現在いまは、運転に集中するとしよう。


 ここから次の目的地は、反王党派の有力貴族の領地テリトリーなので、砂利がしっかり撒かれていて運転し易い。

 快適なものだと思いながら運転をしていると、英子さんが声をかけてきた。


「斎木さん、……よろしいでしょうか?」


「……。えぇ、どうぞ」


 ふむ。いつもよりも改まった声色だな。

 表情かおいろも、どこか遠慮がちに見えなくもない。


「私が無理を言ってしまって、……。男爵邸に残ってしまったから、これだけの騒ぎに巻き込まれてしまいました」


「……。まぁ、そうですな」


 私は車の運転に集中し、相手の方を見ずに正面を向いたままそう言った。


「……。怒ってます?」


「いいえ」


 いつもと変わらない調子で返事をしたつもりだが、英子さんは少しだけ躊躇したように息を飲んだ。

 何とも、気マズそうだな、……。


「男爵のご子息から聞きました。斎木さんは、あのホブゴブリンをとても冷静にほふられたと!」


「……」


「あの時、私は中庭で奥方様達と一緒にいたのですが、……。ホブゴブリンがあの巨体で飛び跳ねながら、やしきを襲ってきて、……。皆さん、もうこれはダメだと浮足立ってしまっていたんです」


「……」


 ここで、何事か気休めを伝えるべきか迷ったが、……。丁度いい言葉が、あいにく思い当たらなかった。


「ごめんなさい。私が余計なことを言ってしまって!」


「いや、……。英子さんは、それでいいんです」


「えっ!?」


「実際の話、私達が男爵に加勢したことで、あの邸の者は誰一人として死ぬことはなかったのですからな!」


「そうですよね」


「だから、……。英子さんは、これからもそうやって、この異世界の人々を救ってやって下さい!」


「はいっ!」


 私が笑顔を向けると、英子さんは何とも救われたような表情になった。


 英子さんは、午前中に脳裏に焼き付けていたゴブリンの死体や、ホブゴブリンの死体の構造を理解していたのか、再び念入りにデッサンを始めている。


 傷口から噴き出た血の色が何色で、濃緑色の皮膚の表面に浮き出た血管の様子は、一体どんなものなのか。

 腕や足の長さ、手の大きさがどのくらいか。手の指は何本で、同じ2足歩行をする人間との違いは何か。


 そんなことを思い出しているのだろうか?

 難儀なものだな、……。完全記憶能力フォトジェニック・メモリー持ちとは。


 スラスラとクロッキー帳に描写しているが、恐らく襲撃の際の様々な記憶も全て残っているのだろう。


「車の運転中に下向いて絵を描いていたら、酔ったりしませんか?」


 私はハンドルを握りつつ、軽く視線を送りながら訊ねた。


「大丈夫で~す! 私、絵を描いていると、集中しちゃいますから、へっちゃらなんです!」


「ふむ、……。そうでしたか」


「はいっ!」


 なるほどな。天性の明るさが、彼女の精神こころを守っているのだろう。

 それからはお互い特に話しかけることもなく、半刻ほど経過していった。


 新緑豊かな林を抜け、田園が広がりつつあった。

 人のいる気配が、段々と強くなってきたようだ。


「斎木さん、……。もうそろそろ、次の目的地に到着しますか?」


 私は、ちらりと車両のトリップメーターの数値を見てから、……。


「う~ん、そうですな。ここからだと、まだ、……50キロはあると思いますよ」


「……。なんか、さっきより田園が広がっているようなんですけど」


 英子さんが、ちらりと車窓から見える耕された畑の様子を見る。

 こちらも「そうですな」といって、ひとつだけ頷いた。


「……」


 再び、私は運転に集中し始めた。

 英子さんも黙ったまま、デッサンに集中している様子だ。


 時おり、何かを思い出したようにくすりと笑顔になる。

 過酷な中でも、何か楽しい思い出があるのなら、それでいい、……。


「そう言えば、……。英子さんにも、ちゃんとお伝えしなければならない話があります」


 私はハンドルを握りつつ、ちらりと英子さんの表情を見てから、再び前方に視線を戻した。


「一体、どんなことなのでしょうか?」


 英子さんは鉛筆を止めると、……。

 おそるおそる、若干警戒した様子で私の横顔をじっと見つめてきた。


「あ、あぁ。直接的には、英子さんの活動に支障がないように、王国側も配慮しますから。その辺りは、あまりお気遣いなくて構いませんよ!」


「そうなのですか?」


「えぇ。英子さんには、ここで正直に王国の現状をお伝えしておきます。実を申しますと、ヤムント王国は、まだ戦後復興期で人手も予算も足りず、国全体が貧しいんです!」


「……、はい」


 英子さんは慎重に言葉を選んだ様子で、ただ「はい」とだけ述べるにとどめた。


「新しくヤムントの国王となった瀬田良平、……。彼が、前王の負の遺産を削減している最中でしてな。それで、王都の遅れた社会インフラの急ピッチな整備や、奴隷制度の廃止など、……。ホンと、枚挙にいとまがない状態でしてね」


「……」


 これは、日本の外務省が近隣諸国に金をばら撒いて、インフラ整備をしていることと極めて似た事態だ。


 他には、戦災孤児を受け容れる施設の設置、王立学校の教育予算拡充、医療インフラの整備等々、まだまだやるべきことがたくさんある。


 更には、地方の貴族領主達とも良好な関係を維持できるよう、適材適所に日本国から人材を派遣したこと。

 日本政府が予算の一部を持ち出しで、その運営費を負担していることも改めて伝えた。


「王都に着いたら、早々に忙しくなりますよ。心の準備はできていますか?」


 私は、英子さんの目の色をじっと見つめた。


 この前人未到な計画プロジェクトは、私や瀬田少佐殿だけでは成立しない。

 優秀な創作者クリエーターの、目を見張るような活躍にかかっているのが現状だ。


「えぇ、大丈夫です。ここまできたら、やれることは何でもやってみせますよ!」


 胸を張って、そう宣言する英子さん。

 すると、お互いに込み上げてくるものがあったのか、……。


「ふふっ」


「ははははっ」


 しばらくの間、車内は穏やかな笑いに包まれていた。


  *         *


 これにて、本作は完結となります。

 本作は、現在も連載中の『魁!断筆姉さん!!』の姉妹作です。

 そちらもどうぞ、応援よろしくお願い致します。

「魁!暗躍オジさん!!」をお読み頂き、ありがとうございます!

斎木茂吉の活躍や、仲間たちとの冒険を楽しんで頂けたら嬉しいです!

この物語を気に入って下さったら、☆評価やブックマークで応援して頂けると、作者の励みになります!

茂吉と一緒に次の展開を盛り上げるため、ぜひ力を貸してください!✨

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