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11話 ニート、下層へ


 前方より迫り来る複数の魔物を切り伏せる。

 最小限の動きで魔物の命を断ち、返り血がつかない速度で次の魔物を殺す。

 本来、探索者になったばかりの俺の肉体は探索者としては弱い。

 今も日にちでいえば三日しか経ってない。

 だが今の俺の体は同時に複数の魔物を相手に出来るし、それを継続出来る。


 まぁ言ってしまえば、そういうスキルを手に入れた。

 【スキル:不撓不屈】。

 戦闘スキルのひとつであり、戦闘を行う為の精神的な面に作用する【スキル:不屈】が変化したスキルだ。

 戦闘を継続する限り、精神的な疲労と肉体的な疲労が軽減される。

 これのおかげで俺は未熟な肉体の状態での、この強行を決意した。


 広い空間にゴブリンとオーク、コボルトが迫り来る。

 粗末なゴブリンの武器を捌き、オークの突進をいなし、コボルドの噛みつきを避ける。

 剣を一振りする度に最低三体の魔物を殺すが、後続は途切れない。

 既に懐中電灯は捨てている。

 この速度での戦闘に懐中電灯の明かりは役に立たない。

 必要なのは剣の技能と、直感だ。


 数十体の魔物を斬り殺していると、魔物の血と油で剣の斬れ味が著しく低下する。

 当然、それを拭う時間なんてない。


 ――【魔法スキル:洗浄(クリーン)】。


 俺の体が光に包まれ、魔物の血と臓物で汚れた身体と服、剣が綺麗な状態になる。

 手に入れたスキルのひとつだ。

 ただ、スキルを使うと魔力を消費する。

 【スキル:不撓不屈】は戦闘中常に発動し微量の魔力を使うので、使い過ぎれば魔力が足りなくなる。

 魔力が足りない時のあの苦しみは何度も味わいたいものではない。


  迫り来る魔物を倒し続けて数十分後、足場がないほどに魔物の死体で溢れる頃には襲ってくる魔物がいなくなった。

 血と臓物に溢れて歩くのにも苦労するが、今回は当たりだった。

 襲ってきた魔物の中に虫型がいなかったのだ。

 どこかにはいるはずだからどうせ戦う事になるだろうけど。


 死体の山となった広い空間を抜ければ、そこは更に別の空間となっている。

 中層はこのように幾つかの広い空間と細い通路が迷路のように広がっている。

 その各所に魔物が存在しているが、俺に気づくなり他の空間の魔物もこちらへやってくる。

 よほど侵入者に恨みがあるらしい。

 何度かの経験を重ね、他の異界化迷宮の事も調べたけどやはりこの魔物の数は異常だ。

 迷宮核が魔物を産み出す。

 産み出された魔物は、繁殖を行わないので増えない。

 迷宮核が魔物を産み出すには、迷宮核が取り込んだ資源が必要だ。

 良質な資源があれば、大量に良質な魔物を産み出す事が出来る。


 ゴブリンは低品質な、量産品だ。

 ハイゴブリンやオーク、コボルトも良質とはいえない。

 だがその数がとんでもない。

 これは、二等級に分類される異界化迷宮の出来る事ではない。


 つまり、今迷宮核はこれだけの魔物を産み出す事の出来る()()を手に入れているという事だ。

 それが何なのかは、あまり考えたくはない。



 ――――



 移動する度に襲い来る魔物の大群を相手にしながら、俺はいよいよ下層の入り口へとたどりついた。

 休憩と行きたいところだが、【スキル:不撓不屈】は完全に戦闘意欲が途絶えた時に切れる。

 その後数時間は発動しない事も確認済みだ。

 これを切らすわけにはいかないので、万全とはいえないが【魔法スキル:洗浄(クリーン)】だけ使用する。

 気分はリフレッシュ、とはいかないな。


 下層へ向かう。

 そこは、巨大な空間だった。

 ただし今までとは違い、明るい。

 十分に周囲を認識できる。

 光源は不明だ。


 その一番奥に、宙に浮かぶ巨大な球体が目に留まる。

 球体は絶えずゆっくりと回転しており、時折不可思議な光を放っている。

 あれが迷宮核だ。


 予想に反し、ここに魔物はいなかった。

 迷宮核は、その規模に関わらず下層に必ず()()()と呼ばれる魔物がいると聞いていたが、今回は当てはまらなかった。


 ――なんて都合のいいことはない。


 回転する迷宮核の上に、そいつは座り込んでいた。

 椅子にでも座るように、平然とこちらを見下ろす黄色い瞳。


 古代鬼(エンシェントオーガ)


『キヒヒ』


 ――【スキル:不撓不屈】【スキル:筋力増加】【スキル:韋駄天】【スキル:鷹の目】【スキル:思考加速】【スキル:多重思考】【スキル:死線感知】【スキル:幻身(ファントム)】【スキル:痛覚無効】【スキル:金剛】。


 ――――っ!!!


 ありったけのスキルを発動させた瞬間、俺の胸に衝撃が走る。

 体の中身が全て背中から突き抜けるような感覚。

 ――だが痛みはない。

 いくつかのスキルが機能している証拠だろう。

【スキル:多重思考】、【スキル:鷹の目】、【スキル:思考加速】により俺は理解できない衝撃を受けると同時にこの状況を客観的に理解できた。

 単純に、古代鬼は俺へと接近しひと蹴り。

 それが俺の感知できない速度で行われただけだ。

【スキル:幻身】により一度だけの攻撃無効で致命傷は避けたが、【スキル:幻身】を貫通して衝撃は受けている。

 スキルが間に合ったのは奇跡的といえるだろう。


『キ……?』


 古代鬼が首を傾げている。

 一撃で俺が死んでいない事が疑問なのだろう。

 ほんの一秒未満の出来事だ。

 

 だが、俺の反撃は終わっていない。


――【剣術スキル:零距離逆殺(ブレイクカウンター)】。


 剣術スキルが40lvを超えた時に手に入れた、対象との距離が限りなく近い時に、かつ相手の先制があった時にのみ発動可能なスキルだ。

 俺の持つ剣が強い光を帯び、振り上げられる。


『――ギィァアア!!』


 俺の剣が古代鬼に触れた瞬間、閃光が弾け古代鬼が吹き飛ぶ。

 その体が空中で数十回の回転をし、迷宮核――の上へ直撃する。

 爆音と土煙が巻き上がる。


 ――そこで、ようやく俺の意識は引き戻されるように体に()()

 忘れていた呼吸を行い深く息を吐く。

 スキルの複数発動は何度かやったが、ここまで重ねたのは初めてだった。

 【スキル:多重思考】と【スキル:思考加速】を併用すると感覚がおかしくなり、時間と自己の認識が曖昧になってしまう。

 そこを上から覗くように俯瞰視点のようになる【スキル:鷹の目】であえて客観視する事で反撃まで辿り着けた。

 出来れば、そのまま迷宮核に直撃してくれていれば万々歳だったのにな。

 瓦礫と共に古代鬼が地面へ降りてくる。


 そう上手くはいかないよな、と俺はため息を吐いた。

 

 

 


 


 

 

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