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12話 ニート、決着す


 降りた衝撃で舞い上がった土煙が晴れる。

 予感はあった。

 剣を振り上げた時、派手な衝撃こそあったが腕に伝わってきたのは何かを斬った感触ではなかった。

 その予感通りに、古代鬼に目立った傷は見当たらない。

 いや、目を凝らせば薄く体に線が入っている。

 蚯蚓腫れ程度の衝撃は与える事が出来たらしい。

 そもそも、英雄と呼ばれる探索者も含め、日本中の探索者が勝てなかった魔物だ。

 俺程度が一人で勝てるとは思ってもいない。


『キヒッ、ヒヒ、ヒヒャヒャヒャヒャ!』


 突然、古代鬼が笑い出す。

 今までの獲物を甚振ろうとする前の笑みではない、心底面白いといった感じだ。

 だがそれだけで大気が震え、衝撃が襲い来る。

 踏ん張っても、俺の足が地面を削って後退した。


 かなりの魔力を消費した。

 もうスキルは使えない。

 スキルなしで古代鬼と戦う事は出来ない。


 ()()()失敗だ。

 俺は剣を鞘に納める。


『キヒ……?』


 さぁ来い、と俺は両手を広げた。

 目を閉じて、襲い来るであろう衝撃に備える。


 目を閉じて待つが、体が吹き飛ぶような衝撃も、痛みも来ない。

 恐る恐る目を開くと、首を傾げたままの古代鬼がまだそこにいた。

 どうしたんだ?


『――ナゼ、タタカワ、ナイ』


 俺は驚きを隠せずにいた。

 それは間違いなく、古代鬼から聞こえてきた声だったからだ。

 こいつが喋れるという情報はなかった。

 今までも一度もなかったことだ。


 話せるのか、と尋ねる。

 古代鬼はつまらなそうにしながら口を開いた。


『――スコシコトバ、ワカル。オマエ、オレトタタカウ』


 片言だが、理解できる内容だ。

 だが生憎と、俺はもう戦う手段がない。

 唯一の【スキル:不撓不屈】もそのうち切れるだろう。


『ツマラナイ。タタカエ、タタカエ。オマエ、ツヨイ。ツヨイオレトタタカウ』


 古代鬼が俺の方へ近づいてくる。

 下から、古代鬼の黄色い瞳が俺の目を覗き込んでくる。

 心の内を覗かれているような、不思議な感覚があった。

 それ以上に恐怖が勝る。


『オマエ、ナニカマジッテル』


 ()()()()()()()

 どういう意味だ?


『キヒヒ』


 古代鬼が笑いながら後ろへ飛んで距離を取った。

 そして今度は迷宮核の真下へ行く。


 そして軽く飛び、迷宮核を拳で突き上げた。


 ――は?


 思わず声を漏らす。

 なんだこれ。

 どういう事だ?


『マタアウ。コンドハ、ホンキデタタカウ』


 迷宮核が破壊された事で、急激に異界化迷宮の崩壊が始まった。

 こちらを見つめる古代鬼が手を振っていた。


 ――()()()()()()()()


 何か知らないが、冗談じゃない。

 もう二度と現れないでくれ。


 地面が大きく揺れ、視界が暗転する。


 ――気づけば、俺は何もない場所に立っていた。


 周囲を見渡せば、遠くに木々が見える。

 異界化迷宮の迷宮核が破壊されると、迷宮が崩壊し、土地が正常に戻る、というのは聞いていた話だ。

 ここにあった迷宮核の産物はどこかへ消え、資源を失った土地だけが戻ってきたのだ。


 何とも気の抜ける終わり方だ。

 数回の死を経験した結末がこれとは。


 肩透かしされた気分だ。


「――動くな」


 俺は両手を上に上げる。

 背中に突き立てられたのは、剣だろうか?

 驚いてはいない。


 そもそも、()()()()()()

 接触してきたのはこれが初めてだが、俺は最初から()()されていた。

 逃げ出さない為、かどうかは知らないが。


「お前には色々と聞かないといけない事がある。抵抗は無意味だと思え」


 強く背中に押し当てられた剣が突き刺さる。

 痛いのでやめてほしい。

 というか、【スキル:不撓不屈】が切れたので死ぬほどだるいのだ。


 あっ。


 無理だ。

 立ってられない。


「お、おい?!」


 俺は前へと倒れこむ。

 倒れながら、後ろじゃなくてよかったと思った。







 ――――――



 「それで、お前は何者なんだ?」


 刑事ドラマを見たことがあるだろうか。

 数十年前の、テレビというものがあった時代のものだ。

 犯人、もしくは容疑者が狭い個室で、強面の刑事に責め立てられる。

 ニートだった頃にネットで見漁った事がある。


 今俺はそれを受けていた。

 ちょっと感動する。


「いつまでだんまりしてるつもりだ?」


 感動している場合じゃなかった。

 俺は上を見上げる。

 四方にカメラが設置されて、俺は監視されているらしい。

 不思議な事に、ここではスキルが一つも発動しない。


 今襲われても俺は対抗手段がないという事だ。


 観念して、俺はこれまでの経緯を話す。

 簡潔に、タイムリープして日本が終わる魔物が出てくる前に食い止めた、と。


「何を言っているんだお前は」


 これほど呆れた顔を俺は見たことがない。

 まぁ、そうだよな。

 

 客観的にみて、俺は探索者になって三日で一つの異界化迷宮を攻略した事になる。

 二等級の大した事がない異界化迷宮とはいえ、だ。

 しかも俺のこれまでの経歴は言うまでもなく散々なものだ。

 探索者になったのも、国のアレに参加させられたからである。

 そんなやつがいきなり異界化迷宮を攻略したとなれば、何者だ、という話になるのだろう。


 経歴を偽った他国の探索者だのなんだのと言われるが、当然覚えのない話なので否定する。

 否定すると疑われる。

 もっと飛躍した疑いを掛けられる。

 これも否定する。


 そんなこんなで話が進まないでいると、突然個室の扉が開かれた。


 そこに、見覚えのない女が入ってきた。


()()さん、こっちへ来てもらえますか?」


 反応したのは俺だった。

 俺の事を呼んでいるらしい。

 言われた通りに、立ち上がってその女の近くまで行く。


「こちらへ来てください」


 案内された場所は、探索者協会本部長室、と書かれた部屋だった。


「失礼します」


 女が入る。

 続いて、俺も入れと言われた。


「ご苦労。――さて、初めまして、というべきかな? それとも、我々はすでに()()()()かな?」


 その部屋にいたのは、ごつい体格のスーツ姿の大男だった。

 俺は普通のオーガを見ていないのだが、オーガとはこういう男を言うんじゃないんだろうかと思った。

 って、なんだ?

 どういう意味だ?


「その反応を見るに、我々は初対面であるらしい。結構。では、かけてくれたまえ」


 言われた通りに部屋の中にあるソファーに座る。

 こういう時マナーがあった気がするが、知らないので無視だ。

 間違ってたら謝ろう。


「言わなくてもわかるかもしれないが、まずは自己紹介をしておこう。私は大岩広光、探索者協会の本部長という地位に就いている。本部長と呼んでくれたまえ。君は――工藤東(くどうあずま)で間違いないかね?」


 俺は頷く。

 普段あまり名乗らないし名前も聞かれないので、自分の名前を忘れそうになるのは内緒だ。


「君は探索者覚醒ツアーという、ふざけた名前のこれに参加したね」


 もう一度頷く。

 ふざけた名前は全くその通りだ。


「これは国家再生プロジェクトと呼ばれる、極秘の計画の一つだ。恐らく、君はその概要を知らずにいただろうが、これは従来の探索者の生み出し方と異なる方法が用いられている」


 ……つまりどういうことなんだ?

 


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― 新着の感想 ―
面白い…自分は一人称で小説を書くのが苦手なので、羨ましいです 工藤くんの淡々と死を積み上げながら得たスキルを多重でかけて敵と互角に渡り合う描写には痺れました 意識を飛ばして体だけ動かすのも凄く良い発想…
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