『STAR By keit』爆誕
夕陽が雷門を染める頃、俺と光の親友たちは光を見つけた。なぜか、殺陣のポーズを繰り返している。
「光!何やってたんだよ」
「ホント、心配かけるよなぁ」
「大丈夫なのか?」
俺が聞くまでもない。光はもう一度輝いていた。
取り戻した笑顔の理由は頑なに教えてもらえなかったが、本来のこいつに戻ったことはホッとした。
「ひーちゃん!どこに行ってたの!」
光のお母さんはわんわん泣きながら抱きしめた。
「ごめんね、お母さん、ごめん。大好きなのに心配ばかりかけて」
「私はね、あなたが幸せなら他に何もいらない!本当だよ。ごめんね、芸能界なんかに応募して……」
迷った表情の真鍋さんが、タイミングを見計らって声をかけた。
「光くん、好きな曲を何か歌ってみてくれないかな。レコーディングはしないから」
光が顔を上げると、真鍋さんは司社長に目配せした。
「これ以上、光を追い詰めないでください」
光のお母さんは真鍋さんの目の前に立って睨みつけた。その目にはうっすらと涙が滲んでいた。光はそれを制して、笑った。
「お母さん、だいじょうぶ。また、歌えるよ」
その後のレコーディングは圧巻だった。どの仮歌も綺麗で、力強く歌いのけてしまった。
ハイトーンボイスの中に、歌詞で伝えたいことそのものが含まれているような表現力のある声だった。
「本当に辛い、消えてしまいたい」という儚さと「それでもこの一瞬を生きたい」というバネのような生命感が交錯していた。化ける、こいつは化けるぞ。
考えたことは皆同じなのだろう。司社長が目を輝かせて話し出した。
「この子たちのユニット名が決まったわ。『STAR By kaito』、略してSbyKよ。」
「えすばいけー?」
スタッフに社長は嬉しそうに由来を話す。いつの間にかいたのか、メモ用紙の切れ端に「STAR By kaito(SbyK)」
「Sはスター、光のこと。Kは海音、KAITOのK。海音の引き出し方によって光の輝きを取り戻すのよ!SbyK」
司さんの興奮気味のトークは留まることを知らない。
「白川光は月という名の星なの。光の煌めきが海音という名の海に映る。海に映る月は本物ではないでしょ?でも、暗い海に映った方が、夜空を見上げた月より綺麗なこともあるじゃない!リアルより美しい偶像、すなわちあなたたちはアイドルなのよ!」
……こじつけじゃね?という空気もスタッフや関さん、俺の中にも流れたが、司社長は自信満々だった。少なくとも「HP to the World」よりは光一人に重荷を背負わせないスタンスになっている。
露骨に光を前面に出して「by海音」というコンセプトにしたのも、裏方志向の俺にアイドルを続けさせるための方便の一つだろう。明らかに乗せようとしてきているが、この話、乗った。そう腹を括ることにした。
「俺はやってみたい。光は?」
光の方を向くと、指さしてきた。
「今、同じことを聞こうと思った」
「分かった。大々的にプロデュースするわ。他に希望はある?」
「ユニット名なんですけれど」
俺はメモ用紙に書き足した。
「『STAR By kaito』じゃなくて『STAR By keit』にできませんか?光はもちろん、俺も、本名は晒さない方がいいと思うんです」
司社長は紙片をつまんで、部屋の中をツカツカと歩き回った。
「そうね、一度トラブルがあったからにはタレントは万全に守らなきゃ。それに、その名前なら中性的な趣があるし、海外の人にも親しんでもらえるかも……」
トークが止まらない司さんに俺は思い切って被せた。業界のお店の話を遮るなんて、自分の中では前代未聞だ。
「それと、歌う歌詞は選びたい。少なくとも俺は。心にもない言葉はあまり言いたくないんです」
「あら、それなら」
ツカツカ、と歩く足音が止まった。
「海音、あなたが歌詞を書いたら?」
それ以来、STAR By keitの大掛かりな宣伝が始まった。CM、ポスター、SNSなどのあらゆる広告に俺たちの写真とキャッチコピーが躍った。
「夢の多い生涯を送って来ました!これからも、きっと。ファンの皆と!」
「悪食、正直、アイドルとしてあるまじき秘蔵っ子&人気子役・外山海音によるユニット、デビュー!」
「万年ファールボーラー×2割9分の少年=最強アイドルズ爆誕!」




