前編
よろしくお願いします。
バーネット伯爵家には、亡くなった夫人の面影を残す双子の姉妹がいる。長女がアナベル、次女はイザベラ。
女性らしい華奢な体躯、透き通るような白い肌、輝くプラチナブロンドの巻き毛。ただひとつ違うのは瞳の色で、姉のアナベルは深海を思わせる深い蒼、妹のイザベラは夏空を思わせる輝く蒼であった。
デビュタントの年、ふたり揃って王宮の夜会にその姿を現したときは、誰もがその美しさに言葉を失い、会場は静まり返ったという。
その結果、社交界ではバーネット姉妹を、深海姫、夏空姫、と呼ぶようになった。
高貴な人々にとって金髪碧眼は優良物件だ。そういう意味でふたりは合格点であったが、明るい蒼を持つ夏空姫のほうがより需要が高いことが予測された。バーネット伯爵は、俗物とまでは言わないがそれなりに野心を持っていたので、より高値で売れるであろうイザベラに期待を寄せていた。
その頃、貴族令嬢の間では、自らのバースデーパーティーを大々的に催し、その参加者の中から婚約者を見繕う、ということが流行っていた。バーネット伯もその流行りに乗って、主要な貴族を集めることにしたのである。
「イザベラに新しいドレスを仕立ててくれ。生地は最高級のシルク、デザインは最新のものにするように」
「かしこまりました」
家令はそう応じ、主人の次の命令を待った。しかしバーネット伯はすでに手元の書類に目を落としており、命令が下される気配がない。それどころか室内に留まっている家令に怪訝な視線を向け、
「なにをしている、早く商人に連絡をとりなさい」
と言っている。そこで家令は言いにくそうにしながらも、
「アナベルお嬢様のドレスはいかがいたしましょうか」
と質問し、問われた伯爵は、一瞬の間をおいてから、アナベルにも仕立てるように、とだけ言った。
家令は、アナベルの存在を忘れていたであろう伯爵に内心でため息をつきながらも、それをおくびに出すこともなく、かしこまりました、と返事をし、退室した。
「ドレスに合わせて、大粒のダイヤが入ったアクセサリーも用意したんですってよ」
「さすが、今をときめく夏空姫は違うわねぇ」
バーネット伯爵邸、使用人の休憩室でメイドたちは噂話に華を咲かせている。
それを苦々しく聞いているのはアナベル付きのメイド、ドロシーであった。
イザベラのバースデーパーティーなら双子のアナベルだって主役だ。それなのに、イザベラにだけ豪華な衣装と宝石が用意され、アナベルは既成のドレスになってしまった。本当はアナベルにも仕立てる予定だったのだが、イザベラのデザインがあまりに凝りすぎていてそれに時間がかかる為、二人分のドレスを仕上げることはできない、と言われたのだ。
するとイザベラは、
「お姉様はお美しくていらっしゃるから、どんなドレスでも問題ないわ」
と言い、たまたま見本として仕立て屋が持ってきた地味なドレスを指差し、
「これでいいわ、これをアナベルのサイズに直してくれれば充分よ」
と勝手に決めてしまったのだ。
そのときアナベルはどうしていたかというと、バーネット伯から言いつけられた家政の仕事をこなしており、その場にはいなかった。仕事を片付けてサロンに出向いたときにはすでに仕立て屋は帰っており、残っていたイザベラ付きのメイドから、
「アナベル様のドレスはイザベラ様がお決めになられました」
と言われ、トルソーに残されたドレスを指さした。
「これ、既製品じゃない!」
気色ばむドロシーにメイドはいやらしい笑みを浮かべ、
「アナベル様は美しくていらっしゃるのでどんなドレスでも問題ない、と主が申しまして」
と言った。
「だからって既製品だなんて!」
大声をあげるドロシーをアナベルが窘めた。
「ドロシー、やめなさい。わたしは気にしないから」
そんなアナベルを見下すような顔をして、イザベラ付きのメイドはサロンを出ていき、その彼女にはもちろん、言い返さないアナベルにも、ドロシーは腹を立てたのであった。
バースデーパーティーの当日。バーネット邸には参加客が続々と集まってきた。
「イザベラ嬢、お誕生日おめでとうございます」
「今日もお美しくていらっしゃる、まるでこの空のようだ」
夏空姫という異名の通り、あえて日中を選んでガーデンパーティーにした。
イザベラの輝く蒼い瞳は、陽の光の下でますます美しく輝いている。彼女の周りには大勢の令息たちが集まっており、彼らは、夏空姫を射止めるのは自分だ、と牽制しあっていた。
片や、深海姫は入り口で招待客の対応をしている。
「本日はお越しくださり、ありがとうございます」
地味なドレスで挨拶をする姿は、ともすればバーネット伯の後妻のようで、しかしその割には若すぎる令嬢に、いったい何者なのかと首を傾げる招待客もいるほどであった。
そんな疑問を抱くひとりがハワード侯爵令息のエリックであった。
ハワード家はバーネット家と商売上の絡みがある。だからといって、娘のバースデーパーティーなどわざわざ参加しなくてもよかったのだが、評判の夏空姫がどんなものが見てみたい、という好奇心もあり、エリックが招待に応じることにしたのだ。
なるほど、確かに社交界が騒ぎたてるだけあって夏空姫は飛びぬけて美しい令嬢だった。金髪碧眼の見た目は完璧だったし、所作も悪くない。しかしそれだけのようにも思える。現に彼女の周りに集まっているのは、そこまで高位な令息はいない。
高位貴族の夫人ともなると、見た目はもちろん、それ以上を求められるのだ。それを持っている令嬢なのか、自分も含めた高位貴族令息たちは慎重に見極めている、といったところか。
「エリックも来てたのか」
「やぁ、デニス。珍しいね」
エリックに話しかけたのはデニス・オコーネル。オコーネル伯爵令息だ。
珍しいと言ったのは、彼が国外に滞在していることが多く、国内の、それもガーデンパーティーなど、滅多に参加しないことを知っていたからだ。
デニスは給仕からグラスを受け取り、ひとつをエリックに渡しながら言った。
「夏空姫と深海姫は国外でも噂になってるんだ。どんな令嬢だと聞かれることが多くてね、こうして実物を見に来たってわけだ」
「あそこで令息に囲まれてるのが夏空姫だが、深海姫は見かけないな」
エリックの疑問にデニスは笑った。
「何言ってるんだ、入り口で会っただろ?あれが深海姫だよ」
「あの令嬢が?バーネット伯の後妻にしては若いし、誰なんだろうと思ってたところだよ」
「後妻は酷い、でもそう思われても仕方ないかもな。夏空姫と深海姫は双子なんだ、バースデーパーティーというならふたりが主役でないと話が合わない」
デニスは若干声を落としてそう言い、エリックはそれにしたり顔をしてみせた。
「バーネット家の内情はうまくいってないのか」
「さぁ、俺は国内情勢には疎い」
バーネット家になにかあれば、共倒れになることはさすがにないが、一蹴できないほどの損失を被る可能性がある。健全な経営が望める状態でないのなら、早急に手を引かなければならない。
「少しつついてみるか」
エリックはため息と共にそう漏らしたのであった。
社交界にデビューをする前からバーネット姉妹、特にイザベラはその美しさが際立っていた。それに気づいたバーネット伯はデビュー前の令嬢でも参加できるお茶会に、自身の妹のお供としてイザベラを同行させていた。
本当は姉にもそれを頼みたかったのだが、姉の娘がイザベラと出かけることを渋った為、娘のいない伯爵の妹がそれを引き受けたのだ。
「悪いけど、娘がイザベラさんと出かけるのを嫌がるから一緒には行けないわ」
姉がそう言ったとき、バーネット伯は立腹するどころか、そうだろうと納得した。
イザベラの美しさは群を抜いている。大きな声では言えないが、陛下の娘である王女ですら霞んでしまう程の美貌だ。普通よりやや上程度の姉が産んだ娘など、イザベラの足元にも及ばない。一緒に並んでいたら優劣は明らかで、劣のほうが優との同行を拒むのは当然。さらに言うなら自分より劣る者を伴いたがるのが普通だ。
「アナなら連れて行ってもいいけれど」
姉が付け加えたそのひとことで、バーネット伯は自身の考えが正しいことを認識した。連れて歩いてもいい、つまりアナベルは劣っているのだ。
大した利にもならないアナベルに金をかけて着飾らせるよりは、滞りがちな家政を捌かせたほうがいい。
伯爵はそう判断し、姉の申し出を断って、アナベルには家政を与え、イザベラは妹に預け、積極的に社交させたのだった。
デビュタントでの演出もよかったと思う。
アナベルは、イザベラほどではないがそれでも、十人が十人とも美しいと判断するであろうレベルではあった。
そのアナベルをひとりで先に会場に入らせ、人目を引き付けさせ、それを上回る美しさを持ったイザベラを自分と共に入場させ、アナベルと合流する。アナベルに向かっていた人々の視線は否が応でもイザベラに向けられ、その結果、彼女は夏空姫という異名を授かった。
イザベラ程の美しさがあれば公爵夫人、いや、王太子妃すら狙えるかもしれない。妹の引き立て役にしたアナベルには悪いと思うが、イザベラが王族に与することができれば、アナベルにだってより良い縁談が来る。
イザベラを持ち上げることがアナベルの幸せにつながるのだと、バーネット伯は寸分の疑いも持っていなかったのである。
アナベルの朝は早い。朝食の前に、その日の晩餐のメニューをシェフと話し合って決める。
そのあと、新聞を片手に朝食を済ませ、執務室に入り、山のようになっている書類のひとつひとつを精査し、処理するのがアナベルの日課だ。
伯爵の判断が必要なものは、下調べまで終わらせた状態にしてから引き渡しする。アナベルで処理できるものについては、必要な手続きを取って片づけていく。
書類の山が片付く頃には昼になる。そして昼食を取りにダイニングへ向かうより早く、新たな書類が届けられ、それもまたひとやま築くほどの量だ。アナベルはメイドのひとりに、軽食を執務室へ運ぶように言い、書類を捌きながら昼食をつまむことになるのだ。
夕刻近くになり、晩餐のために急いでドレスアップをし、ダイニングへ向かうと、すでに伯爵とイザベラは食事を進めている。
「今日も遅刻か」
「時間を守らないと社交界で嫌われますよ」
アナベルは、ふたりからお小言を頂戴してから席に着くのであった。
アナベルとは対照的にイザベラの目覚めは遅い。社交界へデビューする前も遅かったが、デビュー後は連日のように夜会に出ているため、そもそもの就寝が遅いのだ。
お昼近くに目を覚まし、そのまま風呂に直行する。
軽食をつまみながら入浴を済ませ、そのあとはメイドたちの手によって、髪の毛一本、爪の先に至るまで徹底的に磨き上げられる。
そのあとは流行の最先端のドレスを身に着けるが、ヘアスタイルはあえて少し前のものにする。今はハーフアップが流行っているのだが、イザベラはうなじが見えるスタイルを好んでいた。自身のそれが男心をくすぐるのだと、イザベラはよくわかっていたからだ。
白魚のような美しい肌に添わせるネックレスは、先日知り合った伯爵令息から貰ったものだ。
「婚約者でもないわたくしが、このような高価なものは頂けませんわ」
彼には既に婚約者がいる。だからそう言って断ったのに、男は鼻息を荒くし、
「夏空姫の為に取り寄せた品物なのだ。貴女に身に着けてもらえなければわたしの努力が無駄になる」
と言い、強引にイザベラにそれを押し付けてきた。
彼の婚約者には悪いと思ったが、大粒のダイヤが光るそのネックレスの誘惑には勝てず、
「友情の証として、頂戴いたします」
と受け取ったのであった。
今夜のドレスも『友情の証』、これをくれたのは確か子爵令息だったと思う。
結い上げた髪に飾るのは、今夜のエスコートをお願いしたハワード侯爵令息から先ほど届けられたバラ。
「イザベラ様、侯爵令息が見えられました」
家令の報告にイザベラは頷いた。
「もう少しかかりそうなの、待たせておいて」
バーネット家は伯爵位で侯爵のほうが身分が上だ。その令息を待たせるなど淑女あるまじき行為なのだが、自身の優位を疑わないイザベラはなんとも思わない。
そう、イザベラは夏空姫。誰もが見惚れる美貌を持った令嬢なのだ。
侯爵程度では終わらせないわ。
イザベラは数多の男性を虜にしつつ、本命の王族からの誘いが来るのを待っていたのであった。
イザベラからの、侯爵令息を待たせておけという命令に、家令はどうしたものか悩んでいた。バーネット伯の命令すら聞かないイザベラが、家令ごときの忠告を聞き入れないことはわかっている。しかし侯爵令息に、イザベラの支度がまだ整っていない、などと言えるはずもなかった。
こうなると頼みの綱はアナベルである。家令は、申し訳ないとは思いつつも、彼女のいる執務室の扉をノックした。
するとアナベルから、どなた?と声がかかる。
「アナベル様、少々問題が起きました」
少しの間を空け、お入りなさい、と入室を許可された。
「またイザベラね?」
アナベルの呆れた物言いに家令は首をすくめてみせた。
「夜会のエスコートの為にハワード侯爵令息がお見えになっておられるのですが、イザベラ様の支度がまだ終わらないようで」
家令の言葉にアナベルはため息をついた。
イザベラは昼前に起床して、以降、夜会の準備にかまけていたはず。まだ終わっていないなんてことはありえない。男性を待たせて恋の駆け引きを楽しんでいるつもりだろうが、相手を選べと言いたい。侯爵令息を待たせるなど無作法もいいところだ。
「わたしが時間稼ぎをするわ」
アナベルはため息と共に立ち上がり、侯爵令息を案内したというサロンへと急いだ。
サロンに近づくほどバラの香りが強くなり、我が家にバラの紅茶なんてあったかしら、とアナベルは思ったが、それが紅茶の香りではなく、令息の手にする花束が発するものである、と気づいたのは、彼の姿を確認したときだった。
「姉のアナベルでございます。イザベラがお待たせしているようで申し訳ございません」
謝罪の言葉と共に入室したアナベルにハワード侯爵令息ことエリックは微笑んだ。
「いえ、女性の身支度は時間がかかるというもの。わたしが早く着きすぎてしまったのでしょう」
なるほど侯爵令息だけあって、如才ない返しをするものだ、と内心で舌を巻きつつ、アナベルは彼に新しい紅茶を用意する為、壁際に立っていたメイドに命じた。
「早摘みのアッサムをお出しして頂戴」
「かしこまりました」
メイドはうなずいて茶葉を用意している。
バーネット家では来客時、当たり障りのないアールグレイティーを出すことが決まっている。しかし、彼の持参したバラの香りは強く、せっかくのフレーバーティーが台無しだ。そこでアナベルは、香りではなく、味を楽しめるアッサムチャイを用意することにしたのだ。
「今年の綿の収穫は順調だそうですね」
メイドがお茶を用意している間、アナベルはエリックにそう言った。
ハワード領で生産されている綿を購入し、加工品として販売しているのがバーネット家だ。天候に恵まれ、その生育に問題がないことは、今朝の新聞に出ていた。
アナベルは家令から、ハワード家の令息を待たせている、と聞いた時点から、提供すべき話題を選定していたのだ。ハワード家とバーネット家は商売上のかかわりが強く、先日のバースデーパーティーにもこの青年が参加していたはず。侯爵令息がわざわざ令嬢のバースデーパーティーに出向いたということは、イザベラ個人に興味があったのかはともかく、商売上の重要な相手だと判断した結果だと推測できる。
それならば話題として挙げるのは商売がらみの内容がいいだろうと綿の話をふったのだった。
「おかげさまで。ですが、よく御存じですね」
「今朝の新聞に載っておりましたわ」
アナベルはエリックに新しい紅茶を勧めつつ、その向かいの席に座った。
「アナベル嬢は新聞を読まれるのですね」
エリックにそう言われてアナベルはどう返事をしていいか迷った。女性は基本的に新聞は読まない、経済や政治のことは女性に関係ない話題だからだ。
アナベルのように家政を任されている夫人なら読むこともあるだろうが、少なくとも若く、それも未婚の令嬢には無縁の代物だ。
バーネット伯爵夫人亡き後、アナベルがそれを担っているというのは、なんとなく外聞が悪い気がして、必死に隠しているわけではないが、表立って言いふらしたりもしていない。
「えぇ、まぁ」
うまい切り返しが見つからず、あいまいな返事しかできない。これ以上つっこまれたらどうしよう、と内心では焦っていたアナベルだったが、エリックはそれ以上なにも言わず、紅茶を飲んで、おいしいですね、と言っている。
当たり障りのない会話をしているうちに、イザベラがやってきた。夜会の為に着飾ったイザベラは美しく、エリックもかなりの美男子なのだが、その彼がかすんでしまうほどであった。
「お姉様、エリック様のお相手をありがとう」
イザベラはアナベルを一瞥し、それからエリックに向って、お待たせしました、と微笑んだ。
「いいえ、アナベル嬢との時間は有意義でしたから」
彼はそう言ってイザベラのエスコートの為に立ち上がった。アナベルもふたりを見送ろうとそれに続くと、エリックはアナベルの手をとり、その指先に口づけを落とし、
「またお会いしていただけますか?」
と言った。美しいイザベラの前でこんなことを言う男性は初めて、アナベルは喜ぶより先に不信感が募り、
「妹をよろしくお願いします」
と会話になっていない返事をし、同時にイザベラに、ハワード侯爵令息様を困らせないようにと注意をしておいた。
イザベラにとっても、自分を差し置いて姉を口説く男性がいるなど思っていなかっただろう。きっと今の彼女の機嫌はすこぶる悪く、あてこすりとばかりにエリックに無理難題を言うのは目に見えている。
ふたりが恋人同士であろうとなかろうと、忘れてはならないのは、エリックが侯爵令息でありイザベラは伯爵令嬢である、という点だ。侯爵を敵に回すなど、さすがのイザベラもそこまで愚かではないだろうが、頭に血が上っているとなにをしでかすかわからない一面もあるのも彼女だ。
ふたりを乗せた馬車が夕闇に溶けていき、それを見送ったアナベルは大きくため息をついたのであった。
そんなことがあった数日後、エリックとデニスは紳士クラブで共に酒を楽しんでいた。
「それでイザベラ嬢とはどうなったんだ?」
「どうもならないよ、会場に着いたらすぐに別れた」
エリックのあっけらかんとした物言いにデニスは遠慮なく大笑いする。
「お前、妹を頼むって言われたんだろうが」
「俺が気に掛けなくても彼女には多くの崇拝者がいるんだから問題ないさ」
「ま、冗談はさておき。バーネット家はどうだった?」
デニスの問いにエリックは苦い顔をして言った。
「たぶん家のすべてを任されているのは深海姫のほうだ。バーネット伯がなにを考えているかはわからないが、年頃の娘がふたりいるのに、片方には夜会への出席を許可して、片方はいまどき未亡人でも着ないような地味な装いで家に閉じ込めておくなど、正直、理解できない」
「夏空姫のほうは高位貴族に高く売りつけて、深海姫のほうには適当な婿でもとって、飼い殺しにする気なのかな」
「そうはさせないさ」
エリックの言葉にデニスは一瞬呆けた顔を見せたが、彼の浮かべる表情にくすりと笑った。
「縁は異なものとはよく言ったもんだ」
エリックも笑みを浮かべていたがこちらは悪いそれで、
「アナベル嬢とは約束をとりつけてある。さて、バーネット家には一波乱起きるぞ」
と言った。
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