67.洞窟の中
空模様はさらに悪くなり、小雨が降り出した。草原を撫でる風も徐々に強くなってくる。
それだけではない。彼らの背後から迫り来るであろう魔王軍。おそらく、あの村長を先頭に馬で追いかけてくるはずだ。
一行は、足早に洞窟を目指した。
しばらく進むと、小高い丘が見えてきて上り坂にさしかかった。洞窟と言うからには切り立った山でもあるのかと思っていたモモコは不安になる。
「おい、アルバン! 道に迷ってねえか!? 洞窟なんてないじゃないか!」
しかし、アルバンは振り返りもせず「案ずるな」とだけ言って、ずんずんと坂を上っていく。不安を胸にモモコは大股で坂を上った。
すると、丘の頂上付近でアルバンの姿がフッと消えた。
「あいつぅ!」
モモコはガリカたちを追い越し、一気に丘の頂上へ駆け上がった。その途端、視界に広がる異様な光景に目を丸くして立ち尽くす。
「なっ……!?」
それまでの天国のような草原の世界から打って変わって、岩だらけの世界が眼下に広がったのだ。
起伏が激しく、灰色の尖った岩が波打つように続く。そこには緑など全く見当たらない。
足下は、急な下り坂に続いていた。そこをアルバンが駆け下りている。
モモコに続いて丘の頂上にたどり着いたアンベールは、感嘆の声を上げる。
「これは……」
「さあ、いいから、追いかけるぞ」
駆け下りるモモコと競争するように、全員が急いで坂を下った。
道は一本しかなかった。所々に、横穴がある。しかし、アルバンはそれらには目もくれず、先を進む。
「おい、どこまで行く――」
モモコがアルバンの背中に声を掛けた途端、雨脚が強くなった。そのタイミングでアルバンが右折して、岩と岩との間へ入っていく。
「こんなところにあんのかよ!?」
文句を言うモモコだが、左右の岩にいくつか横穴が見えたので無口になった。
横穴を5つほど過ぎたときに、背を屈まないと入れないほど狭い穴が見えてきた。そこへアルバンが腰を屈めて入っていく。
「ちっこいあいつがあの態勢で入っていくってことは……」
モモコたちは、這うようにして穴へ潜り込んだ。
すると、中ではアルバンが右手の上に光の玉を持って立っている。魔法で明かりを取り出したようだ。中に入ったみんなも次々と立ち上がる。
その明かりを頼りに周囲を見ると、洞窟内は割と広い空間だった。上は、アンベールが背伸びをして手を伸ばすと届くくらいの高さ。横は三人が並んで歩けるほどの幅。
「この奥に隠し部屋がある」
「おいおい、ここって、お前の隠れ家か?」
モモコの声が洞窟の中でワンワンと響く。
「そうだ」
「へー。……すっげーなぁ」
アルバンの明かりを先頭に、一行は奥へ奥へと入っていく。すると、確かに、右側に木で出来たドアが見えてきた。しかも、3つ並んでいる。4つ目は、突き当たりにあってこちらを向いていた。
「用意周到だな」
「まあな」
「ってことは、あの村に行くと、常に追いかけられるシナリオになっているとか?」
「否定も肯定もしない」
「いや、絶対そうだぜ」
モモコはアルバンの後頭部を見ながらニヤニヤと笑った。しかし、アルバンは期待に反して振り返らなかった。
一番奥のドアに達したアルバンは、左手を前に突き出す。すると、ガチャッと音がしてひとりでにドアが開いた。ドアノブを触っていないのにである。
「お邪魔しまーす」
モモコは一応は挨拶をして中に入る。そして、辺りを見渡すと目が点になった。
「な、なんじゃこりゃ……」
そこは、周囲の壁が蔵書で溢れた図書館のような部屋だった。




