60.忍び寄る影
「何? そうなると、LV4の俺がLV7のアルバンにいつかは追いつくってこと?」
モモコは腕組みをして左手で顎を押さえる。
「何もしなければ、な。
今後は、自力でスキルアップするしかない」
「もしアルバンがLV8になったら、俺たちはどうなる?」
「勇者ではないから、全員のレベルアップには無関係だ」
全員が沈黙した。つまり、アルバンとガリカは、単独に自力でレベルアップするのみとなる。
「じゃあ、四人がLV7にアップする前に、自力で頑張れよ」
アルバンはそれには答えなかった。
モモコは、前回の勇者の時、アルバンはどこまでアップしたのか気になった。
「今までの最高記録は? 自己ベストって奴」
少し目が泳いだアルバンは、重い口を開いた。
「8だ……」
悪いことを聞いたと思ったモモコは、頭をかいて横を見た。
「ま、次はLV9を目指すんだな。俺がサポートする……って、LV4なりたての俺が言うのもなんだが」
無口になったアルバンの機嫌は直りそうにない。
「とにかく、先に進もう。……そうだ、セーブ、セーブっと」
いつも忘れそうになるセーブを慌てて終えたモモコは、アルバンではなくガリカに尋ねた。
「なあ、この近くに宿はないか? 体力は回復したとはいっても、オーバークロックでめちゃくちゃ筋肉使ったから、横になりたい」
ガリカはちょっと考えて、右方向に指さす。
「この先に、町というよりは、大きめの村があるから、そこへ行きましょう。ニブルって村よ」
「いかにも鈍そうな名前だな」
するとアンベールが知識を披露する。
「ニブルって4ビットのことよ」
「じゃあ、8ビットは2倍のヨンブルとか?」
「…………」
「さーせんした」
アンベールに睨まれたモモコは、そそくさと先を急いだ。
30分ほど歩くと、空模様がかなり怪しくなり、夕暮れ時と同じ暗さになってきた。
湿った風が強く吹いてくる。もしかしたら、嵐になるかも知れない。一行は、早足で村へと向かった。
すると、大きな木造平屋建ての建物がいくつか固まっている場所が見えてきた。
「あれがニブル。真ん中辺りに旅籠屋があったはず」
ガリカの言葉に、アンベールが「旅館のこと」とモモコへ通訳する。そうしないと、旗が立っている小屋、とかなんとか適当なことを言いそうだからだ。
三つか四つの部屋がつながったような長屋の建物が見えてきた。これが旅籠屋らしい。
ガリカが中に入って女主人と交渉すると、4部屋全室とも空いているとのこと。
さっそく、アンベールとアルバン、モモコとガリカとエスカ、フェムトとゼプトに分かれて3つの部屋を借りることにした。
エスカも宿代を1名分しっかり徴収され、一人当たり一泊20ゲルトなので素泊まりで140ゲルト取られた。
だが、ゲルトはたんまりあるので、食事代として60出すから、適当に用意してくれと交渉すると、女主人は快諾した。通常、この世界では一人の一回の食事が10ゲルトなので、六人分換算である。
結局、200減って残高は2399800ゲルト。安いものである。
たらふく食べて満足した一行は、それぞれの部屋に行き、ふかふかのベッドに体を投げ出す。
モモコは、二人と一匹では寂しいと、両隣の部屋から仲間を呼びに行き、一つの部屋に全員を集めて談笑した。
今までの冒険を振り返ると話が弾む。身振り手振りで笑いが起こる。
そんな中、外はとっぷりと暮れて、にわか雨が降り出した。
と、その時、茶色のドレスの上から黒いコートを羽織り、馬に乗った女が村に到着した。
茶髪でショートヘアの女は、美人ではあるが、どことなく冷たい表情をしている。
その女も宿を求めて旅籠屋まで行き、女主人と交渉する。最後の一部屋が空いているとのことで、交渉は成立。彼女は鍵を受け取ると、足早に部屋の中へ消えていった。




