13.時計の針は戻された
セーブポイントに何も保存されていないと、勇者と魔法使いという職業が決定した時点に戻ることが、これでわかった。
ゲイムスタート時点に、時間も場所も戻るのだ。
アンベールは、アルバンからミッションを無茶ぶりされるよりもっと前、出来れば、この異世界に来る前だったら良かったのに、と悔しがる。
なぜなら、その時は、今のアンベールはモモコ。
彼女は、ベッドの上で今はモモコであるアンベールに覆い被さった体勢から、もしかしたら手を伸ばせばエスカのくわえた赤い球を取り上げることが出来たかも知れないのだ。
「どうした? 何か考え事をしているようだが?」
首を傾げるアルバンの顔が視界に入ったので、アンベールはビクッとし、手に持った防具バシネットをスポッと被った。これで、耐久が80アップする。
「こ、これ、私の頭にぴったり合う」
「武器も防具も、持ち主の体に合うようになっている。
その防具は、剣で攻撃を受けてもビクともしないが、頭の中がガーンと鳴って耳鳴りがするから覚悟せよ」
そう言ってニヤニヤするアルバンを、モモコは中腰で両手を突き出したポーズのまま、横目で見る。
「あのさあ、さっき教えてくれた『お任せ魔法』だけど、本当に状況に応じて自動で最適の物が選択されるんだよな?」
「そのはずだが」
「ほんじゃ、やってみっか。
――出でよ! この場にふさわしい物!」
すると、モモコの突き出した両手の前に、輝く魔方陣が出現し、そこから横向きの雷が発射された。
バリバリバリバリッ!!
本物の雷よりは形も音も小さいが、それでも、光り輝くジグザグが森に向かって飛んでいく。
ミニサイズの稲妻は、その先にあった太い木に直撃して幹を抉った。哀れな大木は、メリメリと音を立てながらゆっくりと倒れていく。
と、その時、木のそばで「わわわわわぁ!!」「ひいいいいいぃ!!」という男たちの悲鳴が聞こえてきた。そして、倒れていく木の陰から3つの人影が出てきて、大慌てで逃げていく。
「やっべ! 誰かいた!
さーせんしたぁ!!
……これ、アブねえ魔法だなぁ!」
「そうかな?」
アルバンは、フフンと笑った。
こうして、アンベールもモモコも、アルバン先生による指導を小一時間受けて、ある程度は使い方を会得した。
二人は草むらに腰を下ろして休憩する。
アンベールは、両膝を立ててスカートを全開に広げるモモコの膝頭を叩いた。
モモコは、「わりぃ、わりぃ」と頭をかきながら、アンベールへ苦笑いの顔を向ける。
そんなモモコをちょっと睨んだアンベールは、先ほど彼女が稲妻で倒した大木の方へ目が釘付けになっているアルバンへ問いかけた。
「ミッションがコンプリートしたら、どうなるの?」
「ん?」
意外な質問をするという顔を、アルバンは向けてきた。
「つまり、……魔王討伐が完了したら」
「お前たちの願いを一つ叶えてやる。一つだぞ。
二人いても一つ」
アンベールは、顔を伏せる。
「何かあるのか?」
しゃがみ込んだアルバンは、アンベールの顔を覗き込む。
気配を感じたアンベールは、面を上げた。
「完了したときで、いい?」
「ああ、いいだろう」
アルバンは、アンベールに視線を向けながら立ち上がった。




