12.セーブポイントなしの結末
「あわわわわわっ!」
モモコは、驚きのあまり、腰が抜けてしまった。
足音がしなかったのに、いつの間にかそばにいたのだから、幽霊かと思ったのだ。
黒髪の人物は、スーッと立ち上がって姿を見せた。
面長でサイドテールの若い女。青いドレスに身を包み、満面に笑みを浮かべているが、手にロングソードを持っている。
彼女は、ひょいと木の上に飛び乗って、モモコの鼻へロングソードの切っ先を向ける。
「さあ、そのスキルをちょうだいな」
「お、お前は誰だ!?」
「お前? ずいぶん失礼な口を利く女ね」
「さっきの男たちも同じことを言ってたが、何が目的だ!?」
「しかも、男みたいな話し方をする……。
同じことを言っていた男たちがいるって?
ああ、スキル狩りに会ったのね。私もその一人よ」
「スキル狩り!?」
「そう。経験とか耐久とか敏捷とかを上げるために、相手を殺して奪うの」
「奪う!? そんなことが出来るのか?」
「あら、知らないの?
もしかして、この世界に来たばかり?
開拓民を志願したとか?
それなら、大したスキルはないわね」
「ああ、開拓民さ」
「嘘ばっかり」
女は、パチンと指を鳴らすと、モモコとアンベールの前にステイタス画面が現れた。
「職業、勇者と魔法使い、って書いてあるじゃない。
どこが開拓民?
……あら? セーブポイントって、もしかして、ミッション実行中の人たち?」
「……」
「しかも、セーブしていない。
ということは、始めたばかりの素人ね。
あらあら、経験値以外は、もうLV1のMAX。
これはこれは」
と、その時、モモコは意を決して立ち上がった。
「出でよ! この場に――」
だが、その後の言葉が出なかった。
女が素速くモモコの左胸をロングソードで貫いたからだ。
「この子が死んだら、あんたも自動的に死ぬわよ。
ミッションの実行者は、互いにリンク設定が成されているから。
さようなら」
女に別れを告げられたアンベールは、急に目の前が暗くなって、その場に倒れ込んだ。
◇◇◆◆◇◇
『>アンベールが勇者になりました』
『>モモコが魔法使いになりました』
意識が戻ったモモコとアンベールの前に、電子音とともに、ゲームに出てくるような半透明の画面が現れ、それぞれ上記のメッセージが表示された。
モモコはしゃがんだ姿勢で、アンベールは立った姿勢。
アンベールはモモコを見つけ出すや否や、急に泣き顔になり、しゃがんでモモコを抱きしめた。
「そんなに嬉しいか?」
二人を見つめるアルバンは、首を傾げた。
モモコは立ち上がる。
「魔法の使い方を教えてくれ!」
続いて、アンベールも立ち上がる
「武器の使い方を教えて!」
アルバンは、ニコニコ顔になった。
「ずいぶんと、やる気のある連中だ。
いいだろう」
それから、モモコは、さりげなくステイタス画面に移動し、さも偶然に開いたかのように装った。
「ここにセーブポイントってあるが」
「ああ、ステイタスと保存時点の場所と時間を、まとめてセーブしたものだ。
最大で10個しか残らない――」
「スペックはわかったから、セーブの仕方を教えてくれ!」
「よかろう」
モモコとアンベールは、顔を見合わせて微笑んだ。




