連合概要?
昔ながらのプロジェクターが真っ白なスクリーンに講義内容を映し出している。
部屋は暗くしてあり、眠たくなる。整然とした配置の椅子と机も学生の眠気を止めることはできない。しかし、ここ曽良場の学生達は割合真剣な方だった。
百鬼のテロリズムによって日本各地は分断された。当然に日本にある地方都市であった曽良場も例外ではない。
かつて都市機能の中枢だった区画が古代のジャングルめいた姿へと変えて、権力者達は軒並み天に召されたか地に眠った。急ごしらえに急ごしらえを重ねて文字通りの自治体として生まれ変わりつつある真っ最中だ。
最近必修科目に付け加えられた〈地方情勢概要〉と〈組織情勢・基本〉。および〈体育・新近代護身Ⅰ〉は冗談抜きで命に関わってくる。肉体的に成熟したばかりでも人を遊ばせておく余裕は曽良場にはない。大学生ぐらいの年齢ならかなりの者がなにがしかの手伝いに同行したことがあるため、疑念が挟まれない。
真面目な学生の中には既に履修を終えても、ちょくちょく顔を出す者さえいた。
連合とは?
プロジェクターによって画面にでかでかと文字が映し出されている。
その前に立つのはこの大学の講師にして現役の退魔師でもある双眸・護兵だった。別にこの講義の担当教員では無い。しかし、このお題にあってはこれほど適した存在もいない……ということで特別講師で呼ばれたのだ。そうした依頼を断るようなことはしない男だった。
「はい。では今日の講義の講師を務める双眸護兵です。はじめましての学生も多いでしょうが……」
「知ってるーー」
「知らない人いるのか? 講師兼退魔師とか珍獣過ぎるのに」
「有名過ぎるのに珍獣とはこれ如何に?」
「&@;/~~♪♬」
「はい。自己紹介の必要が無いのは分かったので、静かに。特にそこの人、念波飛ばさない」
暗い部屋を照らすように上がる明るい声で、わずかな寝ている学生達も目覚めて伸びをした。
真剣さと明るさは両立する。特に命が軽くなった時代では、必要以上に人々は明るい。それが良いことなのか悪いことなのか……見極めることは護兵にはできなかった。
「まず連合とは……読み通りのユニオン。つまりは組合です。他の退魔師の寄り合い同様に、危機の解決を依頼という形で請負い、整理し、それを必要に応じて解決のための人員を派遣します」
「うっす。日雇いみたいなもんっすか?」
顔だけゴリラな青年に護兵は頷いた。奇妙な風景のようだが、日常である。
スクリーンには簡単なフローチャートが描かれている。
「言い得て妙ですね。人員の派遣についてはこれに近い形があります。連合が特定人物を指名することも勿論ありますが、そればかりにすると組織と構成員の癒着が加速するため、掲示板に張り出されるように依頼は出されます。申し込んだ人物の資質が依頼の性質とあまりにかけ離れている場合は却下されることもありますよ」
「例えば?」
「妙な言い方になりますが、一般人程度を殺すしかできない程度の退魔師が、竜を倒すような依頼に申し込んで来たならばこれは当然に却下です。死体が増えるだけなので……これが実力不足のケースですね」
もっとも今の時代では情報が揃っている相手ばかりでもない。大した悪事をしない個体の戦闘能力が絶大な可能性も当然にありえる。よって相手の情報が揃わない場合、例えオーバーキルになろうとも一定以上の実力者を派遣せざるを得ない。
既に組織としては固定化が始まっているのかもしれない。
「あるいは敵を殺すしか能の無い者が、調査や説得の任務に志願しても断られたりもします。これが能力の不一致」
正直なところ、これが最も多い却下の事例になるだろう。護兵やその親友、符木津・博光のようなオールラウンダーばかりいるわけではない。実際、物理攻撃が通らない相手に力自慢を派遣したがために大惨事となった事例が連合の初期にもあった。
後は銃弾を反射する相手にうっかりマシンガン持ちを出したりとか、だ。
「そしてあまり無いですが、依頼対象と志願者があまりにも近しい関係である場合。討伐対象が志願者の親類縁者などであれば、逃がそうとする場合も考えられるためです。特殊ケースです」
この当たりは旧来の公的組織と同じだなぁ、と思う他はない。
火の中にいるのが他人と肉親ならば後者を優先してしまうのも、致し方ないことだ。致し方ないのだが、起こすわけにもいかないので最初から切り離すわけだ。
「他の組織は違うんですか? ニュースで同盟とかがやり過ぎたとか見ますけど」
「同盟……などは確かに違いますね。形式としては似ていますが、彼らはより過激……あるいは区別をしないとでも言い変えましょう。基準を無辜のあるいは善良のヒト死にに限定して、明瞭にしています。狩人という二つ名を帯びるだけあり、基準を侵した者は容赦なく排除する。これは決して悪いわけでもありません。悲しいことかもしれませんが、最も速い手段であることは間違い無く、拡大も防げる。彼らと比すれば連合は後手に周りがちなのも事実です」
連合と比較するならばやはり同盟だろう。
連合はクリーンで、同盟は過激。時折聞くことだが、正直を言えばどちらも一長一短である。連合は合理に過ぎて、情熱が足りない。同盟は事態を徹底的に解決するが、いらぬ穴まで空けている。
「さて……話を連合自体に戻しましょう。連合には母体となった存在があります。所謂伝統的な術士達……日本で言えば退魔百家などがこれに当たります。そして、西洋の魔法使い達。あるいは南洋の呪師などなど。元々秩序だった集団をさらに合体させたのが連合を形作ります。退魔組織としては大人しめ、というのはこの成り立ちが影響しています。元々が陰ながらとはいえ、社会を維持するための組織だったので必然的に世界に寄り添う形になっていったのです」
「#“〒神子守¶§~~§♪」
「おや、日本系術士について知りたい人が多いと? う~ん」
さて……次は退魔百家についてでも語ってみるか。
自分の家も含まれるので、なんだか気恥ずかしい。
そう思いながら護兵はPCを操作して、プロジェクターで写す画像を変えた。




