68話 ギルドマスター
修練場に出るとさっきまで何組かいた冒険者達がいなくなっていた。どこに行ったんだろう?
「お待たせ。こっちの用事は済んだよ。へー、美味しそうじゃん。」
「お兄ちゃん!これうまうまですっ!これお兄ちゃんとお姉ちゃんの分ですっ!このお爺ちゃんに教えて貰ってタァマが焼きましたっ!」
「これタァマちゃんが焼いたの?ありがとうタァマちゃん!いただきまーす、むぐむぐ・・・おっ、これはうまい!タァマちゃんは料理の天才だね!」
「本当!美味しいね!ありがとうタァマちゃん。」
俺とアリアから褒められたタァマちゃんはにへらぁと表情を崩して嬉しそうにしている。幸せそうで凄くいい笑顔だ。
「ほっほっほっ、ワシが釣ってきたんじゃから当たり前じゃ!」
違うぞ。確かに魚の素材は良かったんだろうが、ここまで美味しく感じたのはタァマちゃんが作ってくれたからだ。
「もうギルド長辞めて釣師にでも転職してみたらどうです?」
「それもいいのぅ・・そうしちゃおうかのぅ・・ギルド長面倒臭いしのぅ。」
冗談で言ったら乗り気になってしまった。これでギルド長辞められたら俺の責任っぽいじゃないか。そんな重い責任は背負えないので、とりあえず話題を変えて誤魔化しておこう。
「そ、そういえばさっきまでそこで訓練してた冒険者の人達がいなくなってますねー。」
「ふんっ、奴等ならこんなとこで魚なんて焼いてると迷惑だと文句を言ってきたから追い出してやったわぃ。ワシがギルド長だと気付くと慌てて出て行ったぞ。」
冒険者の言い分は正論なんだが、正論過ぎるのだが・・・なんていうかお気の毒に・・・。
「小僧っ!さっきセリアに聞いたんじゃがリーパーアントを狩ったそうじゃの?次はテンペストクラブじゃったか?狩れるのかの?」
セリアってさっきの毒舌受付嬢か。アリアを見ると首を振っている。そうだよな、俺達の探してるセリアさんならアリアが反応するもんな。紛らわしいから毒セリアと呼んでおこう。
「いえ、狩りませんよ?星4つに上がるみたいだし、無理に飛び級に挑戦しなくてもいいかなと。」
「ほほぅ、普通の冒険者なら飛びつく話ではあるんじゃがの。マーシュサーペントも倒してるようじゃから、その実力はあるかと思ったんじゃが、自信がないのかの?」
「えぇ、そうなんです。ウチのパーティのスローガンは『いのちをだいじに』ですから。」
「ほっほっほっ、中々冷静なようじゃの。気に入った。お主にワシの取っておきをご馳走してやろう。」
ギルド長は袋の中に腕を突っ込みゴソゴソと何かを探している。・・・袋に突っ込まれているギルド長の腕なんだけど、明らかに袋の大きさよりも長い分突っ込んでるよな?魔法の袋か?そう思って見ているとギルド長がニヤッと笑った。
「ほっほっほっ、驚いたかの?これは魔法の袋といっての。中の空間が歪められておりこの袋の容量よりも多くの物が入る魔道具なんじゃよ。」
ドヤ顔でギルド長が説明してくれる。
「ソウナンデスカー、スゴイデスネー。」
「むむ?あんまり驚いてないようじゃの?」
「そんなことないですよー。凄い魔道具ですねー。どれくらい入るんです?」
「そうじゃな。2ミールくらいの大きさの物なら入るぞ。ほれ。」
ギルド長は2mくらいの大きさの魚を取り出して地面に置く。見た事のない魚だな。
「これはさっき沖で釣ってきたのじゃ。皆は嫌がるんじゃが生で食べるとうまいんじゃ。」
おぉ、刺身で食えるのか。ていうか業務中に沖まで釣りに行くなよ。
「ただ、生で食えるのは短い期間でのう・・・加工しないと腐ってしまうんじゃ。」
「え?その袋に入れておけば時間が止まるんじゃ?」
「そんなわけあるかっ、これは空間を凝縮する魔道具じゃ!そもそも時間なんぞどうやって止めるんじゃ。そんなもんがあったら国宝級じゃわい。」
そんなもんをいくつも持ってる俺はなんだんだろう?にしてもギルド長の持っている魔法の袋は、空間圧縮の魔法しか掛かってないのか。容量も少ないみたいだし、意外としょっぱいな。魔法の袋(笑)だな。
微妙に勝った気分になってしまった。
「それなら食べきれない分は凍らしておけば良いんじゃ?」
「なんでそんな勝ち誇った顔でワシを見る?凍らせると何か良い事があるのか?」
「いや、俺の故郷でも生の魚を食べるんですけど、冷凍にして凍らしておく事で鮮度を長く保ったりできるし、魚に付いている寄生虫なんかも退治できます。かなり冷たい温度で急速冷凍しないと味が落ちるって聞いたことありましたけど。」
「なんと!?そんな方法が!?ちと詳しく・・・」
ギルド長に俺の知ってる限りの冷凍方法を教えてやるとギルド長は嬉しそうに喜んでいた。
「ほっほっほっ、いい事を聞いたわい。アンデルセンの奴にも教えてあげようかのー。あ、アンデルセンというのはワシの釣仲間での。漁業協会の会長をしておる男じゃ。奴も生で魚を食べるのが好きなんじゃよ。」
この2人はよく仕事をサボ・・・外回りで一緒に沖に出て海洋調査をしているらしい。
「のう小僧、お主の国では生魚を食べると言っておったの。一体どんな食べ方をするんじゃ?興味があるのぅ。」
「あぁ、はい。色々ありますよ。そのまま食べる刺身っていう料理や米と一緒に食べる寿司や海鮮丼。色々バリエーションはありましたね。生魚を食べられるのは新鮮な証拠ですからね。俺の故郷でも人気のある食べ物でした。」
「なんと・・・そんなに色々な食べ方があるのか・・・?この、この魚でもできるか!?」
「寿司や海鮮丼だと米炊かないといけないのですぐには無理ですが、刺身だったらできるんじゃないかと。」
「作ってくれ!それをこいつで作ってくれ!」
ギルド長落ち着け。爺さんに詰め寄られてもうれしくないぞ。
「わかりました!わかりましたからちょっと離れてっ!」
勢いに負けて了承してしまったが、このでかい魚を捌けるのか?とりあえずアリアにアイスウォールで台を作ってもらい氷の上部を平らに切断して即席のまな板にした。そこに2mの名前のわからない魚を乗せ・・・乗せ・・・乗せられない。
「これ超重いんですけど?どうやって片手で袋から出したんですか?」
「この袋はアイテムが全部出るまでは重さはないのじゃ。」
え?マジで?そんな機能俺の奴には付いてないのに・・・いつも地の重力魔法で重量調整をして運び込んでたんだけどなぁ。携帯用の奴は魔力で押し出してる感じだから、もしかしたらこっちに近いのかもしれない。
「もう一回魔法の袋に入れてこの氷の上に乗せてもらえますか?」
「うむっ!任せとけ!」
グラビティで軽くしても良かったのだが、ギルド長が魔法の袋(笑)を使いたそうにしてたから、魚の運搬はギルド長に任せて、氷板の上に魚を乗せてもらった。置かれた魚の鱗を落としてから、剣で頭と尻尾を落とし、3枚におろしてみた。
「ほぉー、うまいもんじゃのう。」
部位ごとに30cmくらいのブロックにして切り分けていき、魚の切り身の山が出来あがった。途中からアリアも手伝ってくれたから作業はスムーズに進んだ。セパレーションで寄生虫等を取り除くことも忘れない。まぁ俺やアリアの胃袋なら寄生虫如きなら恐るるに足らんが、タァマちゃんがお腹を壊したら大変だ。
途中見つからないようにマジカルハウスに戻り、大根と皿と醤油とワサビを取ってきた。
「あとはこれを一口サイズに切り分ければいいだけです。」
使わない分はアリアに凍らせて貰い、ギルド長に返しておいた。
皿の上に大根のつまを載せて、一口サイズに切り分けた刺身を乗せていく。この魚は赤身の魚のようだ。見た目はマグロだな。
「おぉっ!これが刺身という料理か!そしてこの皿はなんじゃ?初めて見るが・・・。」
「それは土器ですね。土を焼いて作られています。(クリエイトで作っちまった奴だけど)」
「土でこんな物が出来るのか!凄いのう!ではさっそく!さっそく食べようぞ!この黒い液体に刺身を付けて食べるんじゃな?」
「はい、お好みでこの緑色のやつを付けるといいですよ。ちょっと刺激がありますが、ウチの故郷では刺身とセットだったので。」
「うむっ!では頂くとするか!むぐっむぐっ・・・ツーーーーッ」
あ、ワサビが鼻にきたな。
「こ、これは・・・この刺激は・・・イイッ!く、癖になりそうじゃっ!それにこの黒い液体・・・なんて深い味がするんじゃ!小僧っ!これは美味いなっ!!」
「お粗末様です。」
あぁ口に合って良かった。俺も食べてみるか。
もぐもぐ・・・うん、うまい。あぁ・・海鮮丼食べたくなってきたなぁ。
アリアとタァマちゃんも喜んで食べているな。2人共ワサビは避けているが。・・・あれ?
「トリスは食べないの?」
「え?えぇっと・・・魚を生で食べるのに少々抵抗がありまして・・・。」
「娘っ!これを食えないのは人生損しておるぞっ!ワシも長い事生魚を食べてきたが、これほど美味い生魚は初めてじゃっ!この黒い液体は魔法の液体じゃ!」
ギルド長の猛烈な押しにトリスは追い詰められている。押されまくってるトリスにクリーンとセパレーションを掛けておいたから寄生虫なんかもいないし安全だよと小声で伝えると、恐る恐るといった感じで刺身を口に運んだ。
「あ、美味しい。」
「そうじゃろうそうじゃろう。美味いじゃろうっ!」
妙にギルド長が得意げだな。
「小僧っ!名をなんといったかの?」
「洋平です。石川洋平。石川が苗字で洋平が名前です。」
「ふむ、ヨーヘーか!ワシはこの冒険者ギルド キレース支部でギルド長をしておるクライソンじゃ!名前で呼ぶことを許可するぞ。ワシは見ての通り老人での、爺さんじゃ。親しい者はワシの事を親しみを込めて愛称で呼ぶんじゃが、なんと呼ばれてるかわかるか?ほれ当ててみい!」
えーっとクライソンって名前で爺さんだろ・・・あ、わかった。
「クソジジイ?」
「誰がクソジジイかっ!!」
バシィッ!
「脛が痛いっ!」
思いっきり蹴られてしまった。クソジジイの癖に俊敏に動きやがる。
「クソジジイじゃないわい。ソン爺さん、もしくはソン爺と呼ばれておるのじゃ。お主らもそう呼んで構わんぞ。それでじゃ、お主らテンペストクラブの討伐を受けんのなら暇じゃろ?暇じゃよな?この後ワシと一緒に外回りに行かんか?」
「あ、すいません。俺達この後人探しでセリアル教会に行かないといけないんですよ。」
「なん・・・じゃと?」
断られるということは考えていなかったという驚愕の目で俺を見てくるクソジジ・・・ソン爺。
「そ、それならば夕飯じゃっ!夕飯に生魚料理をワシに」
「夕飯は先約があるんですよ。すいません。」
「なんじゃとぉぉおぉおお!!!?」
ソン爺の絶叫が修練場にこだました。(じゃとーじゃとーじゃとー・・・)
「い、いつならいいんじゃ?いつならワシと遊んでくれるんじゃ?」
遊ぶってこの爺さん・・・
「いや、探し人の情報次第としか言えませんね。情報によっては今晩の夕食の約束もキャンセルして行動しないといけないでしょうし。」
「・・・わかった。じゃあ明日。時間が作れるようならば朝から冒険者ギルドに来てくれんかのう・・・。」
トボトボとギルドの建物に向かって歩いていくソン爺。背中から哀愁が漂っている。しかし、その右手にはしっかりと醤油差しが握られているのが目に入った。あのクソジジイ・・・俺の醤油をパクりやがった。
累計ユニークアクセスが1万人を超えました。お付き合いしてくださる皆様に感謝の意をお伝えします。
これからもよろしくお願いします。




