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虹の先に繋がる世界  作者: 水無月 壱九
グロスティア
52/172

52話 エルフの御魂

買い物をしていたら日も傾いてきたのでカナさんとの約束の為に冒険者ギルドに向かうことにする。


ギルド内に入ると、女性から声を掛けられた。振り向くとそこには青髪のスレンダーな女性・・・トリスさんが立っていた。


「ヨーヘーさん、アリアさん、それにタァマちゃんこんにちは。昨日のカナさんとの会話から夕方にここに来れば会えると思いお待ちしてみました。」


「こんにちは、トリスさん。」


「あ、ヨーヘー様、アリア様、タァマ様、お見えになられたのですね。お待ちしておりました。」


トリスさんに挨拶したところでカナさんが俺達に気付いたらしく声を掛けてきた。


「皆様、もし宜しければ早速私の家にご招待させて頂こうかと思うのですが、ご都合はいかがでしょうか?」


「あ、大丈夫ですよ。カナさんの手作り料理楽しみだなぁー。」


「ふふふ、腕に縒りを掛けて作りましたよ。皆様のお口に合えばいいのですけど。」


美人の料理だったらどんな料理でも食べてやろうじゃないか。これでもアリアのダメ料理を食べ続けた実績はあるからな!大抵の物ならいけるさ!


「では皆さん、私はこれで失礼しますね。それで後でお時間を作って頂けませんでしょうか。お願いしたい事がありまして。」


ん?なんだろう?なんかの依頼だろうか。


「別に構いませんよ。明日でしたら時間は指定してくれれば空けておきます。」


「あのトリス様、もしよろしければトリス様もご一緒に夕食をいかがですか?」


去ろうとしたトリスさんにカナさんが声を掛け一緒に夕食をと誘った。

遠慮しがちなトリスさんだったが、カナさんの「来てくださるとコメルも喜びます」の一言で一緒に来る事を了承するに至った。


カナさんの家は冒険者ギルドから10分程離れた所にある1階建ての一軒家だ。ここでコメルさんと2人で暮らしているらしい。出身はこの国の王都アルガニトという場所らしく、王都にある実家に両親が住んでいるらしい。カナさんは冒険者ギルドに就職した際にガラダ支部に配属になったらしく、ここに引越してきたとという話を聞かせてもらった。

俺達はテーブルに着き、カナさんは食事の準備でキッチンに向かい、入れ替わりでやってきたコメルさんが俺達の相手をしてくれている。


「それでですね。お姉ちゃんが冒険者ギルドで働く事になって、ガラダに配属されたんですけど、私はお姉ちゃんと離れたくなかったから一緒に付いて来ちゃったんです。それで、お姉ちゃんが仕事してる間暇だったのので冒険者ギルドに入り浸っていたら、どうせ来るならここで働かないか?ってギルド長に誘われて、それで私も職員になったんですよ。」


なるほど。コメルさんはカナさんが超好きというわけか。


「皆さんお待たせしました。コメル、運ぶの手伝ってくれる?」


「はーい。」


夕飯の準備が出来たみたいだ。5品くらいの料理が大皿に載せられてテーブルの上に置かれていく。


「うわー、うまそうだー!」


「本当!このグーツとか凄いトロトロ!このジュルワもサクサクしてて美味しそう!」


「ふふふ、ありがとうございます♪たくさんありますから一杯食べてくださいね。」


「お姉ちゃんの料理は凄く美味しいんだよー。昨日なんて久しぶりにお姉ちゃんの料理食べて嬉しくて泣いちゃった。またこの料理食べられるんだって。」


コメルさんは昨日の事を思い出したのかまた少し涙ぐんでいる。


「コメルったら・・・さぁ皆さん、冷めないうちにどうぞ召し上がってください。」


「「「いただきます!」」」


さて、食べながらだがテーブルに並んでいる料理の説明をしよう。カナさんの説明によると、ガーラ草とロイト豆のプラニュ、豚肉と芋のグーツ、カワメのジュルワ、、ファロー肉のバーニ、川貝のムーカの5品目だ。

名前を聞いてもしっくりこない人の為のグロスティア料理講座だよー。

まずガーラ草、これはほうれん草のような物だ。次にカワメ、5cmくらいの淡水魚だ。川貝は川で捕れる貝らしい。ムール貝みたいな大きさだな。ロイト豆というのはこの国でよく取れる豆の事で大豆のみたいな豆だ。別の国ではその国の名前がついているらしいが、大きさ等の多少の違いはあるが根本的には同じ豆らしい。ファローは牛的なポジションの食肉用の哺乳類だ。牛は牛でいるが、グロスティアではファローを家畜にする牧場が多いみたいだ。

次に調理法。今回ここには出ていない料理の調理法も一緒に説明しよう。


プラニュ:炒めもの

ムーカ:蒸したもの

ホカッカ:茹でたもの

ミクー:混ぜもの

グーツ:煮物

バーニ:焼いたもの

ジュルワ:揚げたもの

キーニ:漬けもの

ケリム:燻したもの


この世界ではこれらの調理法によって名前が変わるっぽい。すき焼きならは牛肉と野菜のグーツという名前になるわけだ。そしてビーフカレーも牛肉と野菜のグーツだったりする。アバウト過ぎだろと思うが、基本的に塩味なのでそれ程不自由はしないんだろうなぁ。同じ料理名でも人によって全然違うものになるらしい。まぁ美味しくて特徴ある物はレシピが公開されて個別の名前が付けられ、それが本屋の料理本等に載るわけだな。

なんてことを説明していたら、カワメのジュルワが残り1個な事に気付いてしまった。

危ない危ない、なんとか確保だ。


「ヨーヘー、これ本当に美味しいね!カナさん後でレシピ教えてくれません?」


「はい、いいですよ。喜んでもらえて何よりです。」


「お姉ちゃんの料理美味しいでしょー?ヨーヘーさんお嫁さんに欲しくなりませんか?」


「コ、コメル!変な事言わないの!」


「えー?だってお姉ちゃん料理作ってる時なんか嬉しそうだったじゃない。私ヨーヘーさんだったら許せるんだけどなー。」


マジでか!?コメルさんを見つけたことでそんなに好感度が上がってるとは・・・!


「それでヨーヘーさん。どうです?お姉ちゃん美人だし、料理も上手だし、優良物件だと思うんですけど?」


「確かに美人だし優良物件だねー。」


「もうっ!2人共からかわないでください!」


おっと、怒らせてしまったかな?カナさんは顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまっている。美人さんのテレる姿ってグッとくるね。チーズでちゃんと記録しておこう。

それとアリア、ファロー肉のバーニはスプーンですくって食べるものじゃないぞ。まったく掬えてないのにそれでも空のスプーンを口に運んでいる。何をやってるんだ?


タァマちゃんは用意された椅子には座らずに俺の膝の上に座って一生懸命料理を食べていた。最初の頃に比べたらあまり散らかさなくなったな。他の料理に比べてカワメのジュルワの減りが妙に早いと思ったらタァマちゃんに集中攻撃されてたのか。やっぱり魚好きなんだな。


楽しい雰囲気のまま夕食は終わり、お開きになることになった。


「ヨーヘー様、アリア様、タァマ様。この度はコメルを助けて頂いて本当にありがとうございました。何度お礼を言っても言い足りないくらいです。トリス様もコメルを守ってくださいましてありがとうございました。」


「いえ、こちらこそ美味しい夕飯をありがとうございました。凄く美味しかったですよ。」


「お魚美味しかったです!」


「ふふ、あんなもので良ければいつでもご馳走させて頂きますよ。」


「ではまた機会があったらお願いしますね。」


「カナさん、色々レシピ教えてくれてありがとうございました!私ももっと料理がうまくなるように頑張りますね!」


「はい、アリアさんなら私なんかよりもっと美味しい料理ができると思いますから頑張ってくださいね。」


「では、今日はご馳走様でした。おやすみなさい。」



カナさん宅を後にした俺達はトリスさんと一緒に宿に向かって歩いていた。


「タァマちゃん。カナさんの料理美味しかったねー」


「はい!お魚美味しかったです!」


「やっぱりタァマちゃんは魚が好きなの?」


「はい!お魚は大好きです!でもカレーはもっと好きです!!」


そうかそうか。カレーはしばらく作らないけどな!


「アリア、さっき貰ってたレシピ俺にも後で見せてね。」


「うんいいよー。後で一緒に作ってみよーね!」


カナさんの料理美味しかったから楽しみだ。特にカワメのジュルワの衣に使われてた食材が気になる。あの食感は何を使ったら出せるんだろう?


「改めて思いますけど皆様仲がよろしいですね。」


トリスさんが俺達のやり取りを見てそんな感想を述べてきた。


「へ?そうですか?あー、確かに仲良いですね。」


「はい、見ていてとても羨ましくなります。私がこの間までパーティを組んでいた方達もそこそこ仲が良かったのですが、その前のパーティは自分の役割だけこなすといった効率主義のパーティでしたし、リーダーの言う事が絶対というパーティもありました。でも、私はパーティは仲の良い所が一番安心します。」


俺もパーティは仲の良い方がいいなぁ。効率重視のパーティは息が詰まりそうだしね。リーダー絶対主義ってタァマちゃんのいたパーティがそれにあたるのかな?優秀なリーダーならいいんだろうけど、フーダーみたいな奴だと無理だな。


そんなことを考えているとトリスさんが俺達より数歩前に出て振り返る。


「ヨーヘーさん、改めましてこの度は助けて頂いてありがとうございました。」


「どういたしまして。トリスさんが元気になってよかったですよ。」


「・・・私はごらんの通りエルフです。生まれてからまだ19年しか経っていませんがエルフの寿命は長いのであのまま捕まっていたら途方もない時間をオーク達の慰み者として過ごすことになっていたでしょう。それを考えると恐ろしくて仕方ありませんでした。ヨーヘーさんがオークを倒してくださった時、勇者様が私を助けに来て下さったと思ったのです。そして私の体を綺麗に戻してくださった時、精霊樹様に感謝をし、それ以上の恩をヨーヘーさんに覚えたのです。ヨーヘーさんには感謝してもしきれません。」


それだけ感謝して貰えると正直嬉しい。助けてよかったって思えるな。

改めてトリスさんを見るとなんかモジモジしている。なんだ?


「ヨ、ヨーヘーさんがお求めになられるのであれば、こ、この身を捧げることも厭いません!」


へ?この子は何を言ってるんだ?この身を捧げる?こんな綺麗なエルフさんが?

それはなんというご褒・・・はっ!?

この刺すような視線はなんだ?この視線の方向にいたのはアリアだったはずだ。これは下手な対応をしたらスパコーンとされる可能性が高い。そしてアリアの俺に対する好感度が下がる気がする!それだけは絶対に避けなければ!


「せ、折角綺麗な体に戻ったんだからそれは大切にしよう。ね?。」


・・・どや?

ふぅ、プレッシャーが弱まった気がする。良かった俺は間違えなかった!


「・・・ヨーヘーさんはやっぱりお優しいのですね。私決めました。」


俺の苦渋の決断から出た言葉を良いように解釈したっぽいトリスさんが何かを決意した表情に変わり、自分の額に手を当てて瞑想し始めた。

すると彼女の手が光り始め、額から手を離すとトリスさんの髪と同じような空色の球体がその手の上に浮かんでいた。


「これはエルフの御魂といいまして、信頼の証として信頼に足る方に贈られるものです。・・・受け取って頂けませんでしょうか?」


トリスさんの手に浮かぶそれは淡く光っていて見ているだけで安心するような神秘さを醸し出している。

俺がエルフの御魂に見入っていると、少々不安そうな表情を浮かべているトリスさんに気付いた。

いけないいけない、反応してあげないと悪いよな。


「喜んで受け取りますよ。誰かに信頼してもらえるのは嬉しい事ですからね。」


俺がそう伝えると満面の笑みを浮かべたトリスさんが「はいっ」と頷いた。

するとその透き通るような白い肌を上気させたトリスさんがゆっくりと歩み寄ってきて俺の顔の前に球体を浮かべる。


「私、トリス=フェラーラはヨーヘーさんにこの御魂を捧げます。」


俺の額にエルフの御魂をかざしたトリスさんは俺の肩に手を置いて屈むように要求してきたので、俺は膝を折ってトリスさんの目線と同じ高さに屈む。

するとトリスさんが額で御魂を俺の額に押し込むように合わせてきた。

すーっと俺の中に暖かい物が入ってくる感覚がする。それは大自然に溶け込むかのような感覚というか、なんというかとても心地いいものだった。

それにしても近い!トリスさんの顔が近い!柔らかそうな唇が目の前にある!目を閉じている彼女はキスを要求しているようにも見える!というかこんな美人にここまで密着されてまだ理性を保っている俺は凄いんじゃないだろうか?普通なら勢いに任せちゃうよな!普段の俺ならたぶんやっちゃってただろう。俺の後ろで不機嫌オーラを出しているアリアの気配に気づかなければ!

内心俺がビビっているとトリスさんが俺からスッと離れる。

離れたトリスさんを見ると目の端にうっすらと涙を浮かべているが笑顔だったから問題ないだろうと思っておく。

今はアリアの不機嫌の方が問題だ。

アリアを恐る恐る見ると目が笑ってない。口も笑ってない。つまり笑顔じゃない。不満を表情に浮かべている。口の端がヒクヒクしているから笑顔だけど目は笑っていないを演出しようとしているのかもしれないが上手く出来ていない。つまり、そういう余裕もなく機嫌が悪いということがわかる。

何を言われるのだろうとビクビクしているとアリアが口火をきった。


「ねぇヨーヘー知ってた?エルフの御魂の授与はエルフにとって最上級の信頼の証なんだよ?そのエルフが一生で1回しか出せない物なんだって。」


「ほえ!?そうなの!?ト、トリスさん、知り合ったばかりの男に対してそれはちょっと重過ぎやしませんかね!?」


トリスさんは首をふるふると横に振ってそんなことはないと言っている様だ。


「それにヨーヘーわかってる?今の儀式、エルフ族では私の全ては貴方の物、一生をあなたに捧げます。という意味があるんだよ。トリスさんがエルフの御魂を捧げてヨーヘーがそれを受け入れた。つまり・・・エルフ風の婚儀みたいなものなんだけど!」


「なぬ!?っていうことは俺はトリスさんと結婚しちゃったってこと!?」


「ヨーヘーさんに助けて頂かなければ私はずっとあのままでした。討伐隊がオーク達を殲滅してくれたとしても私はオークの子を孕んでいたので、そんなモノを産むよりはと恐らく命を絶っていたでしょう。ヨーヘーさんが助けて下さったから今私が生きているのです。その方に対してエルフの御魂を捧げることはおかしいとは思いません。ですが、そんなに重く考えなくてもいいですよ。これは私からの一方的な信頼ですからヨーヘーさんの信頼を強要するものではありません。裏切らない友人といった認識でいいのです。ヨーヘーさんはエルフではありませんから婚儀として受け取らなくて構いません。・・・そう受け取って下さったら私は嬉しいのですけれど・・・。」


恥ずかしそうに頬を上気させて俯いてしまったトリスさんが妙に可愛く見えてしまう。


「ヨーヘーは知らなかったんだから婚儀は無効だよ!お互いにお友達が出来てよかったね!ね!ヨーヘー!ねっ!?」


「そ、そうだな!良い友達が出来てよかったよかった!」



「あの・・・それでですね。ヨーヘーさん、アリアさん。お願いがあるのですが・・・。」

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