27話 湿地帯の鰐蛇
蛙肉をポポーイと処理していると、遠くから声が聞こえた気がしたので周辺を見回してみると300mくらい離れたところに人影が見えた。
「人?冒険者・・・かな?」
「確認してみるよ。『ホークアイ』」
遠視魔法で人影を見つめると、フーダーとローラと猫耳幼女だった。
「猫耳幼女達みたいだ。」
「またクロコスネークが見つかってないのかな?」
フーダーが何か言ってるようだけど、よく聞こえない。
あー、あの耳が大きくなる宴会芸みたいな特殊魔法なら周音に長けていそうだし使えるかもしれない。
「『ビッグイアー』」
わー、耳が大きくなっちゃったー!
「プッ」
アリア・・・今笑ったね?顔を逸らして誤魔化しているみたいだけど、肩が震えてるんだよ。
まぁいい。フーダー達の会話に集中しよう。
「(おいおい!クロコスネークなんていないんじゃねーのか!?)」
「(わ・・し・・か・・・わ・・・・ん・・)」
なんとか聞こえるようになったかな?フーダーの声は聞き取れるが、ローラの声は聞こえ辛い、そういえばフーダーの奴は声が大きかったな。無駄に張り上げてたし。応援団向きなのかもしれない。
まだクロコスネークは見つかっていないようだ。でもあんなに騒いでいたら逆に見つかるんじゃないのか?
もしかしてそういう作戦なのか?
「(おい!クソ猫!!お前ちょっとその辺走り回って来い!!)」
「(ご・・にゃ・い、・め・にゃ・・)」
猫耳幼女は必死にペコペコしている。その顔は涙でグシャグシャだ。
「(ごめんなさいじゃねーよっ!おびき寄せて来いって言ってんだよ!このグズ!!魔力供給絶つぞ!!あぁクソッ!また水溜りだ!なんだってこんなに水溜りばっかりありやがる!クソ猫!グズグズしてねぇでさっさと拭けってんだよっ!殺されてぇのか!)」
あぁ胸糞悪ぃ・・・。どうにかしてあの子を解放してあげられないかなぁ。
たしか奴隷から解放するには主人の許可が必要なわけで、フーダーの奴に解放させるのは難しいだろうから、なんとかあの子を譲り受けて俺が主人になってから解放するしかないな。
全財産をはたいてでも所有権を譲ってもらう覚悟でいこう。いざとなったらクローンで増やす。そんなにあの子に執着してる様子じゃないから金をチラつかせれば所有権を譲ってくれそうな気がする。
そんな決意をしていると、彼等から少し離れた草が揺れた気がした。
少し気になったのでその付近を良く見る。
・・・あれは・・・クロコスネークだ。
彼等との距離は20m程。
「(拭き終わったならさっさと走り回って来い!おらとっとと行けって言ってるだろ!ったく、命令聞かないヤツはこうだ!!)」
「(あああああああああああ!!!)」
「(ハーッハッハッハッハッ!)」
なっ!猫耳幼女が首を抑えて身悶えている。ってゆーか、あいつ等気付いてないのか?
もうクロコスネークとの距離は15mくらいになっている。
「アリア!クロコスネークがあいつ等の背後にいる!あいつ等気付いてないみたいだ!行くよ!!」
俺はアリアに声を掛けて走り出した。間に合うか?
「後ろーーーー!!お前ら後ろーーーーーー!!」
くそっ!声が届いてないのか!!結構大声で叫んだんだけどなぁ!
俺達からあいつ等までの距離は250m、あいつ等からクロコスネークまでの距離は10m・・・
どの魔法も届く頃にはクロコスネークは接触してしまう。広範囲の魔法は奴等も巻き込んでしまうからダメだ。レーザーは射程外で届いたとしても威力は出ないだろう。テレポートは移動先で動けなくなるかもしれないから危険過ぎる。
せめて気付けよ!!ローラとかいう女!欠伸なんてしてるじゃねーよ!
「後ろを見ろーーーー!!!」
クロコスネークの動きが止まった。あいつ等との距離3m・・・
「クロコスネークが後ろにいるぞぉぉーーー!!!」
「あん?あー、お前け「ガブゥッ」」
あ・・・
先程までフーダーがいた所にクロコスネークがいた。
その大きな口から人間の足が見え、赤い液体が滴り落ちている。
「!!!?ああああああああ!!!!」
猫耳幼女が涙や鼻水や唾液をこぼしながら一際大きな声で絶叫する。
主人が・・・フーダーが死んだのだ。
「き、きぃゃぁぁああああああ!!!!」
ローラが腰を抜かしてへたり込んだ。
「馬鹿野郎っ!!そんなとこで座り込んでるんじゃねーよ!!死にたいのか!!」
ローラは俺の声が聞こえたのかこっちを見て手を伸ばしてくる。
「た、たす、た、たすけ、たす、たす!」
「届けよ!『サンダーランス』!!」
轟音を立てて稲光がクロコスネークに襲い掛かる。
しかし、クロコスネークまであと20mというところで消えてしまった。
「いや!助け、たす「ガブゥ!!」あぎゅ・・ぎぎ」
クロコスネークの顎がローラの下半身から肩に掛けて喰らいついた。ローラの頭と右腕が口の外に出ている状態だ。
「い゛や゛・・あ゛がぁ・・じに゛たぐな゛・・・ゴプゥ・・」
ローラの体から糸が切れたように力が抜けた。そのままクロコスネークに丸呑みにされる。
「くそっ!!」
クロコスネークは次の獲物として、発狂している猫耳幼女を見定めている。
少しでもクロコスネークの意識をこちらに向けさせないと!
クロコスネークまでの距離は100m。
この距離なら!
「『サンダーランス』!!」
再び轟音を響かせて稲光がクロコスネークに襲い掛かり直撃した。
「ギャグワァーーーー!!!」
雷に貫かれ痛みから暴れまわるクロコスネークの尾が猫耳幼女を弾き飛ばした。
放物線を描いて飛ばされた猫耳幼女が地面に落ちた時に水柱が上がる。
沼地に落ちたのか?無事でいてくれよ!
「アリア!あの子を頼む!!」
「任せて!ヨーヘー無理はしないでね!」
「わかってる!」
のた打ち回るクロコスネークに30mまで接近して止まった。
この距離を維持して攻撃する。
「『サンダーランス』『サンダーランス』」
「ギュガァァアァアア!!」
完全に俺をターゲットとして見定めたようで、こちらに寄ってこようとするが、俺も移動して距離をとる。
猫耳幼女はアリアに任せてあるので、俺の心にも少し余裕ができた。
警戒すべきはアイアンフロッグやフーダを殺った飛びつき攻撃だが、射程は恐らく5m程だろう。
距離感を意識しつつ継続してダメージを与える火魔法に切り替える。、
「『ファイアーストーム』!」
クロコスネークを中心に直径20m、高さ10mの炎の嵐が吹き荒れる。
「ギャワアアアア!!」
「きゃーーー!」
あ・・・やべっ、アリア達のいる付近にも火の手が回ったっぽい。
「あ、危ないじゃない!ヤケドするところだったわ!」
「アリアごめん!でも大丈夫だって信じてた!!ところでマイシスターは無事かなっ!?」
「マイシス・・・?この子ならヒールを掛けておいたから傷は治ってるわ。ただ、今は気を失ってるだけだから大丈夫だけど、まだ奴隷紋の激痛が続いているはずだから目が覚めた時が心配よ。」
「ありがとうアリア!」
「ちゃんと任されたからクロコスネークに集中してっ!」
炎が収まり所々焼け爛れているクロコスネークが蠢いていた。
まだ生きてるのか・・・
ホントにコイツ星2つかよ?
こんなの駆け出し冒険者じゃ無理じゃね?
とはいえ、そういえば他の冒険者の実力って知らなかったな。
俺が思ってるより皆強いのかもしれない。
そんなことを考えているとクロコスネークは距離が詰められないこちらを攻撃するのを諦めたのか、アリアと猫耳幼女がいる方へ移動し始めた。
「行かせるかよ!!『グラビティ』」
クロコスネーク付近の重力を10倍に変える。
「ギ・・・グギ・・・ガ・・・」
クロコスネークは自重に耐えられていないようだ。
「『ロックブロック』『ロックブロック』『ロックブロック』・・・・・」
重さ10kg程の岩の塊を20個程作る。
「『フライ』」
20個の岩の塊をクロコスネークの上空30m付近まで飛ばしてフライを解除する。
浮力を失い、重力に引かれて落下を始める岩の塊。
それらがグラビティの効果範囲に入り引力が増した為、落下速度に勢いがつく。
グラビティにより10倍の重量になっている空間に入った為、10kgの岩が100kgの岩と同等の威力を持ってクロコスネークに殺到した。
ドドドドドドドドドドドドドドッ!!!
「ギィアアア・・ア・アア・・アアアア・・ァァ・・・ァ・・」
うわぁ・・・これ結構えげつないな。でもなんかかっこいい・・・次に使う時は火を纏わせてみよう。メテオっぽくなるかもな。
この未完成メテオ(仮)を落とし続けることでクロコスネークはピクリとも動かなくなった。
「ふぅ・・・」
苦戦はしなかったけど、タフだったなぁ。
クロコスネークの生死を確認して、死んでいると判断できたのでアリアのところに向かった。
アリアも猫耳幼女もずぶ濡れだった。沼地に落ちた猫耳幼女を助ける為にアリアも飛び込んだんだろう。
早く乾かさないとまた風邪ひくぞ。
「大丈夫?」
「えぇ、でもこの子はダメかもしれない。」
「え?なんで?傷はヒールで治ってるんでしょ?」
「奴隷紋は条件によって凄い激痛を与えるって教えたでしょ?今回は主人が死んで魔力供給が完全になくなったわけだから、死ぬまでその激痛が続くの。大体の奴隷はその痛みに耐え切れなくて1時間くらいで死んでしまうのよ。稀に激痛に耐え切って生き続ける奴隷もいるみたいだけど、この子はたぶん無理だと思うの。」
なんてこった・・・折角助けられたのに・・・
目が覚めてから苦しんで死ぬより、クロコスネークに一瞬で殺されたほうが良かったのか?
いや!そんなことはないはずだ!この子だって死ぬのは嫌だったはずだ。何か・・・何か方法があるはずだ・・・。
「うっ」
その時、猫耳幼女が苦しげな声を漏らした。
「あ、あ、あああああ!!!」
苦悶の表情を浮かべ体を弓なりに仰け反らして絶叫する猫耳幼女。小さい子のこんな苦しむ姿は見たくない。
「くそっなんとかできないのか!?」
「ヨーヘー・・・」
激痛に襲われ涙を流している猫耳幼女の瞳と俺の目が合った。
「ああっ!・・・お、お兄ちゃ・・・た、すけ・・うぅぅう・・あああああああああ!」
俺に助けを求めて手を差し出してくる猫耳幼女。
何か!何か無いのか!!奴隷紋の魔法を無効にするような!!・・・待てよ?魔法を無効?もしかしたら!!
「ヨーヘー!この子が・・・!ヨーヘー?」
「ちょっと試してみたい魔法があるんだ。その子の首を俺に見せてくれる?」
アリアに指示を出して猫耳幼女の首にある奴隷紋に手を添える。うまく行ってくれよ。
「『ディスペル』」
ミイ師匠に教えて貰った魔法効果を打ち消す魔法だ。
奴隷紋は魔法で付けるとアリアが言っていた。魔法であるならディスペルで効果が消えるのではないか?
猫耳幼女の絶叫が止んでいた。まだ苦しそうな顔をしてはいるが、さっきよりは穏やかな表情だ。まぁまた気絶してしまったようだけど。
「成功・・・か?」
「うそ・・・ねぇヨーヘーこれって凄いことだと思うの。大発見だよ!奴隷紋って主人以外でも消せるんだぁ・・・。」
そう言われて猫耳幼女の首を見ると、さっきまで奴隷紋があった場所は薄汚れた肌があるだけで、奴隷紋は綺麗に消えていた。
「ヨーヘー。これは人前でやらない方がいいよ。たぶん奴隷商人とか彼等と繋がりが濃い貴族に目を付けられる・・・というか、命を狙われると思うから。ううん、それだけじゃないわ。きっと奴隷からも狙われるようになると思う。」
そうだよな。絶対に消せないと思われていた呪印が消す事ができるというのは色んな奴から狙われるだろう。
「わかったよ。人前でディスペルを使って奴隷紋を消すのはやらないようにする。」
「ディスペル自体も人前ではあまり使わない方がいいよ。ミイ師匠が作った魔法だから効果を知ってる人はいないだろうけど、もし、ディスペルの効果が知られる事になったら、そこから奴隷紋も消せるんじゃないかって連想する人はいると思うの。それに過去に奴隷紋を消して奴隷を解放したって例はあったのよ。」
「え?絶対に消せないんじゃなかったの?」
「今はその方法が知られてないだけ。昔は消せたのではないかという事例があったの。」
「そうなの?」
「ヨーヘーも知ってるはずよ。昔獣人を率いて大陸を統一した王様のお話。」
「あー、天獣王?」
あったな。天獣王の物語にそんなシーンが。詳しくは書いてなかったけど、奴隷を解放して味方にしていったという内容だった。
「そう、あの頃は大半の獣人が奴隷だったの。彼らが奴隷紋の激痛を発動させることなく主人や人族を攻撃できる状態じゃないととても戦力にはならないはずでしょ?でも、実際には獣人によって大陸は統一されたわけだから。解呪の方法があったはずなのよ。」
「それがディスペル?」
「ディスペル使えるのってミイ師匠とヨーヘーだけだからディスペルじゃないだろうけど、似たような魔法があったのかもしれない。今もその頃の解呪方法の研究はされているけど、詳しくは解かっていないみたい。でもディスペルは実際に解呪してみせたわけだから、そういう効果の方法があったんだと思う。」
「実はミイ師匠が400年前に一回起きていて手助けしたって可能性もあったりしてねー。」
「とにかくそんなわけだからディスペルについては隠した方がいいと思うの。使う時は誰にもバレないようにね。」
「なるほどね。わかった。人前ではなるべく使わない。それにしても特殊魔法って人前で使えないような魔法多いな。」
「それだけ特殊ってことよ。特殊魔法使いなんてあんまりいないもの。1万人に1人くらいの確率だよ。それにただでさえミイ師匠から伝授された特殊魔法は反則的なものが多いんだから。悪い人の目に付かないように気をつけないとね。」
「わかったよ。とりあえずクロコスネークの剥ぎ取りしてくるから、その子見てて貰っていい?」
「うん、いってらっしゃい。他の敵もいるかもしれないから気をつけてね。」
アリア達から離れて、クロコスネークの死骸のところまで行き、セパレーションで売れる部分を分離していく。剥ぎ取っているとクロコスネークの中から直径20cmくらいの魔結晶が出てきた。
「でかいな。まぁラッキーということで。」
さて、残るは内臓系か・・・この膨らんでいるのが胃袋だよな・・・。
これは開きたくない・・・十中八九スプラッタな光景が広がっていることだろう。
そうだ、人が死んだんだよな。
猫耳幼女に酷い扱いをしていた奴らだし、いい印象は持っていなかったが、それでも死ぬとなると少し辛いな。
なんとかすれば助かったのではないかと思ってしまう。例えばテレポートで飛んでターゲットを俺に移せばとかね・・・。まぁそうなったら俺が食われてただろうけど。
こいつ等だからこの程度の気持ちで済んでいるけど、もしこれがアリアだったら・・・・
想像するのすら怖い。やめよう。少しネガティブになっているな。
「『ピットフォール』」
地魔法で落とし穴を作り、そこに胃袋を放り込む。
さすが湿地帯だ。作った穴がどんどん水で満たされていく。
これ・・・浮いてこないよな?火葬にするべきだったか?
蓋・・・しておくか。
魔法で大きめの岩を作り落とし穴に沈める。地面にはみ出した部分に『フーダーとローラと蛇、ここに眠る』と刻んでおいた。
南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏。




