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虹の先に繋がる世界  作者: 水無月 壱九
天獣王編
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123話 魔族の子供

やはりガオーは天運を持っているのだろう。ガオーを助けたのは俺と奴の運だった。落下しているガオーに気付いた俺は、すぐに落下速度を落とす為に風魔法とグラビティをガオーに掛けた。しかし減速はしたものの、止まるまでには至らず、そのまま落下。ここでガオーの運が味方した。奴が落ちたのは湖だった。そのおかげもあり、全身骨折で済んだのだ。いやー危なかった危なかった。一応生きてはいたからなんとかなったな。俺は神聖魔法は使えないので、リバースで元に戻したのだ。落ちた時の痛みが再び襲う事になるが、気絶しているから大丈夫だろう。


ガオーを岸へと引き上げて一息つく。ここはドアートの近くにあるクラシ湖だろう。セリアと訪れた事のある湖でもある。あの時は裸になって湖で遊ぶ俺とユリアちゃんに、ユグドが嫉妬して襲い掛かってきたんだったな。今ではいい思い出だ。ホント、良い思い出だ・・・。

懐かしがって景色を眺めていると、湖の水辺に人が倒れている事に気が付いた。ガオーのことじゃないぞ。


ガオーは放置して近くまで行ってみると、13歳くらいだろうか?金髪の少女が、深緑の髪をした10歳くらいの少年を抱きながら倒れていた。慌てて状態を確認してみると、弱っているようだが2人共まだ息はあるようだ。

ど、どどどどどうすればいいんだろう?こういう時にセリアかアリアがいてくれればといいのに彼女等はこの時代にはいない。そして、こういう時に必要になる神聖魔法を俺は使えない。

少年の方は気が付いたようで、薄っすらと目を開いたが、俺を見るなり怯えたように狼狽えだした。よく見るとこの子は瞳が赤い。これは魔族の特徴である。それに額にちょこんとだが2本の角があるようだ。鬼人族なのかな?

最初は狼狽えていた少年だが、急に首筋を押さえて悶え出した。この行為には見覚えがある。というより最近よく見る光景だ。この子も奴隷なんだろう。そして奴隷紋が激痛を与えているに違いない。なんらかの理由で主人からの魔力が絶たれているのだと推察できる。俺には痛みに苦しむ姿を楽しむような趣味は無いので、痛みの根源である奴隷紋をディスペルで解除した。俺が少年に手を伸ばした際に、非常に怯えた少年だったが、奴隷紋を解除すると痛みが消えたことに不思議がり、首を傾げて俺の事を見ていた。俺が何かやった事は理解したのだろう。


「あれ・・・?痛くない・・・。はっ!お姉ちゃん!!」


一瞬虚をつかれていた少年だったが、何かを思い出したように一緒に倒れていた少女を心配し、駆け寄っていた。


「お姉ちゃん!お姉ちゃん!しっかりして!お姉ちゃん!」


少年は必死になって少女に呼びかけていた。俺が少年の隣にしゃがみこむと、一瞬だけ身体を強張らせたが、俺が危害を与える人間ではないと理解したのだろう。俺に対して少女を助けて欲しいと懇願してきた。今まで人族に虐げられてきただろうに、少女を助ける為に同じ人族である俺を頼ってくる。それ程までに大切な存在なのかな。とりあえず俺は少女の首筋を確認し、奴隷紋があることを確認した。すぐにディスペルを掛けて奴隷紋を解除すると、若干だが少女の表情が和らいだ様に見える。

少女に触れた時に体が冷え切っていたので、すぐに暖めてやらねばと思い、マジカルハウスの中に連れ込むことにする。もちろん少年も一緒にだ。少年は中の様子に驚いていたが、早く風呂に入れてやろうと思い、脱衣所まで誘導した。


そこで服を脱ぐようにいうと、少年は素直にその見に纏う生地の少ない服・・・というか布を取り外し、全裸になって次の指示を待っている。少年の体は食事を充分に取れていないんだろう。出会った頃ののタァマちゃんのようにガリガリの体つきだった。少年の体を見てちょっと悲しい気分になったが、感傷に浸っている場合ではないので、未だ弱々しい雰囲気で意識の無い少女の衣服を引ん剥いた。この子もあまり食事を取っていないんだろうと思い、ガリガリの身体を予想していたのだが、思いのほか健康体に見えた。出ると事は出て、引っ込むところは引っ込むといった・・・なんというか興奮してしまう身体だった。顔を良く見ると、とても整っており、寝顔はとても綺麗な子だ。目を覚ました表情を見てみたいな。一瞬魅入ってしまったが、彼女は病人なのだと気を取り直して、少女を床に寝かせてから俺も全裸になり、少女を抱えて直し、少年を伴って風呂場に入った。

本来なら身体を洗ってから入浴させるところだが、今回はすぐにでも身体を温めてやらないといけないと思い、ビックリしないように何回か少女に掛け湯をしてから湯船に入れてあげた。お湯の温度も少し温めだ。しばらくすると青白かった肌も血色が戻ってきたように見えた。少年はその間俺の隣に腰掛けて、少女を心配そうに見つめていた。すると、少女の意識が戻ったのか、焦点の定まっていない瞳で辺りを見回していた。俺の顔を見たがなんの反応もせず、その視界に少年の姿を捉えると、若干微笑んでみせたのだ。やっぱり思ったとおりの美少女だな。彼女は口を動かして何かを言ったようだが、声は発せていない。でも口の動きから少女は『よかった』と言ったのだろう。少年も少女が笑顔を見せた事で安心したのか、微笑んでいる。

充分に身体も暖まったので、風呂から上がり、少年と少女の身体をバスタオルでしっかりと、それはもうしっかりと拭いてパジャマを着させてあげた。

2人をベッドに寝かせてから俺は2人の為に料理を作ることにする。栄養価の高い物を煮込んでスープのようにしてあげているのだ。正直あの弱った身体に固形物は辛いだろう。


料理を作り上げて彼等のところに持っていくと、タイミング良く少年の腹がグーっと鳴った事に笑いを堪える。

少年は手渡されたスープを手に取り、ズズズズーっと凄い勢いですすり始めた。誰も取ったりしないからゆっくり食べなさい。お替りだってあるからね。食べ過ぎはよくないけど、2杯くらいならいいだろう。

問題は少女の方だった。全然力が入らないのか、スプーンも取り落としてしまうし、俺が口にスープを運んであげても飲み込む事が出来ないでいる。この少年の食べる姿を見るに、この少女も充分な食事を取れていないんじゃいだろうかと思うのだ。先程はスプーンを手に取り、食べようとしたのを見ているので、食べたくないというわけではないはずだ。これは何が何でも食べさせてあげないといけないな。仕方無しに、俺はスープを口に含み、口移しで少女にスープを飲ませる事にした。

一瞬少女の身体が強張ったが、すぐに力を抜いてスープを受け入れてくれている。スープも無事に胃の中に入っているようだ。そうして作ってきたスープを飲ませる事に成功した俺は、食事が終わった少女と少年に布団を掛けて寝るように指示をした。すると疲れていたのだろう。すぐに2人の寝息が聞こえてきたので、おやすみと声を掛けてその場を後にした。ここには怖い人はいないから、安心してゆっくりとおやすみ。


それから10日間、俺は甲斐甲斐しく2人の世話を焼いていた。2人はみるみる回復していき、少女に至ってはもう走り回れるようになっているくらいだ。そう、走り回れるくらい元気になっているのだ。出会った頃の弱々しさはどこへいったのかというくらい元気だ。まさかこんなお転婆娘だったとはね・・・。

それに加えて


「ねぇダーリン!ご飯食べるんでしょ?ローリーが食べさせてあげるぅ~。はい、あ~ん。」


と、この様にとても懐かれてしまった。

この少女、ローリーというらしい。ローリーも魔族であるらしいが、目の色以外は人族と変わらないように見える。どんな魔族なのかはまだ教えて貰っていない。少年、こちらはヴァン君というらしい。ヴァン君はやはり鬼人族であるとのこと。ヴァン君は大人しめであり、最初はちょっと警戒していたが、俺が危害を加えない人族と知ると懐いてくれたのだ。ヴァン君は何故か俺の事を先生と呼ぶ。お姉ちゃんを元気にさせたからだろうか?この2人は血は繋がっていないらしいが、ヴァン君が人族の主人に躾という名目で虐待されている現場を見咎めたローリーが、その場にいた人族の主人を殴り飛ばし、奴隷紋の痛みを堪えながらヴァン君を連れて逃げてきたんだとか。当然追っ手もあったようで、そいつ等を撃退しながら逃げ続けたが、連戦に次ぐ連戦に加え、奴隷紋の痛みに段々耐えられなくなってきた彼女は、ヤケになってクラシ湖に飛び込んで泳いで逃げたのだとか。泳いでるうちに意識が遠くなり、気が付いたら裸で俺に抱かれていて(風呂の話だぞ)、意識の無いローリーに熱い口付けをして(スープの口移しだ。熱いのはスープの温度である。それに意識はあったはずだ。)助けてくれた王子様に優しく介抱されていたと。いくつか美化されている話を本人から聞いている。

ローリーの話によると、彼女は大魔法師らしい。彼女の魔法を使って押し寄せる人族の追っ手を撃退していったんだとさ。奴隷紋に耐えながら集中を乱さずに魔法を使うとか、とんでもない使い手もいたもんだ。


それから更に10日が経過した。

ローリー達はすっかり元気になった。そして俺はある事に気付いてしまう。


・・・・・・ガオーどうしたっけ?


確かガオーの治療をしてからローリー達を見つけたんだ。それから俺はローリー達に構いっぱなしだった。ガオーを回収した記憶は無い。ということは、あの場所に20日間ほったらかしてしたということになるだろう。背中に嫌な汗を感じて、ガオーを寝かせた場所に戻ってみると、そこには朽ち果てた獅子族の遺体が・・・なかった。そうだよな、怪我は治しておいたんだし、起きてどっかに行くよな。『魔物がいるよー』の反応もなかったし、魔物に襲われたということもないだろう。一応サーチで探してみると、ドアートの街方面にいる事がわかった。恐らくドアートで四天王の紅一点を捜しているんだろう。

ガオーが無事な事にホッと一安心してマジカルハウスに戻る。


「ローリー、ヴァン君、君達も元気になったことだし、ここでお別れしようか。俺は仲間と合流する為にドアートに行かないといけない。君達はあの町に戻ると問題があるだろう?もう奴隷紋も消してあるから自由に生きるといいよ。」


「そんな!ダーリンと離ればなれになるのなんて嫌っ!一生傍にいるって決めたんだからぁ!」


なんだろう?この子の発言はとても重い。


「先生!ボクも先生と離れるのは嫌です!お姉ちゃんも先生と一緒にいることを望んでます。だからボクも一緒にいたいんです!」


「でもなぁ、俺達実は奴隷解放軍なんだ。俺と一緒にいると危ないぞ?」


「だったらローリーもそれに参加するわっ!言ったでしょ?ローリーは凄く強い大魔法師なんだから!それにこのファンタズムマジカルステッキがあれば、どんな敵でも一撃爆殺よ!」


それその辺の湖畔で拾ったちょっと太めの棒だよね?そんなファンシーな名前は似合わないと思うんだけど?結構頑丈そうだから殴れば凄く痛そうでもあるが、魔法の杖にはならないと思うのは俺だけだろうか。どっちかっていうと棍棒だ。


「ボ、ボクは戦う力はあまりないけど、一生懸命色々覚えます!お姉ちゃんに魔法を教えて貰って強くなりますから連れて行ってください!」


ふむ・・・まぁ年端も行かない子供達とここでさよならというのも無責任だよな。保護という面で考えれば解放軍の中に入れて保護した方がいいかもしれない。


「よし、そこまで言うならわかった。一緒に行こう。まずはドアートで俺の仲間と合流しよう。」


「わぁい♪ダーリン大好きーーー!うふっ♪」


「ありがとうございます!それで先生、ドアートで先生の仲間と合流した後、ドアートの奴隷を解放するんですか?」


抱きついてこようとするローリーの頭を抑えてしっかり阻止しつつ、ヴァン君の質問に答えることにする。


「それもやるだろうけど、ドアートにはとても強いと言われている女性奴隷がいるらしくてね、その人を仲間にするのが俺達の目的なんだよ。」


「もう、ダーリンったら照れ屋さんなんだからぁ♪でもそれならダーリンの目的はもう達成したようなものね!」


それはどういうことだろう?


「このローリーこそがドアートで最強の大天才超絶大魔法師のローリー=デスフィストなんですもの!」


デ、デスフィスト・・・?聞き間違いだろうか?デスフィストという名前には聞き覚えがある。


「えっと・・・名前、なんだって?」


「ローリーよ!ダーリンにならハニーって呼んでもいいわっ!」


そっちじゃない。それはもう知っているんだ。


「ローリー=デスフィスト、この国で最強で最高の大天才超絶美少女大魔法師よっ!!」


肩書きが増えている。しかし俺はローリーの名前を聞いて目眩がした。デスフィスト・・・それは四天王の紅一点と言われた破壊女王の名前だったからだ。

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