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110話 コック認定

セリアさんが泊まっているという宿屋に場所を移した俺達は、ユグドがセリアさんと別れてからの話を語っていた。


「ふーん、そんな事があったんだぁ。ていうかユグド、私の為に頑張ってくれたんだね。ありがとね。私はユグドがたくさんの人を殺しちゃった事は責めないよ。だって私の為にやったことなんでしょう?私とユグドの再会の邪魔をしたんだから当然の報いね!だから私はユグドを許す!あはっ、こんなんじゃ聖女失格かなぁ?」


俺もふーん、そんな事があったんだぁって感想ですよ。それにしても、さっきまでの鬼はどこに行ったのだろうか。今のセリアさんは慈愛に満ちた表情をしている。なんか物騒な考え方が聞こえた気がしたが、言葉を聞かなければまさに聖女の微笑みと言っていいだろう。つーか、またお互いが見つめあって2人の世界に入っている。再会してから1日も経っていないのにもう何回目だろうか?正直ウザい。

蚊帳の外になったのでマイドーターであるラブリーユリアちゃんと遊ぶ事にしよう。

ユリアちゃんは俺に懐いてくれるとてもいい子だ。俺もパパとして愛情たっぷりに育ててあげたい。ほら、飴をあげよう。

俺がユリアちゃんと仲睦まじく遊んでいるとポンポンと肩を叩かれた。


「ん?あ、戻ってきました?」


肩を叩いたのはセリアさんだった。


「ごめんねっ、ほら、久しぶり過ぎてさ。もう会えないと思ってたから嬉しくって・・・つい、ね?」


「別に大丈夫ですよセリアさん。仲が良くていいじゃないですか。」


「ありがと。そう言って貰えると助かるよ。そうそうヨーヘー君、私の事はセリアって呼び捨てでいいよ。私達って同い年らしいじゃない?だから堅苦しい敬語はやめて普通に話そうよ。」


「うーん、そう?いや、聖女様だし敬語の方がいいかなーと思ったんだけど、それならお言葉に甘えてタメ口でしゃべるよ。」


「うんうん、それでよろしい。それにヨーヘー君ってヨウフェなんでしょ?それなら今後長い付き合いになるだろうしねー。」


そうだった。俺はこれからKYヨウフェ君として、この2人に付き合わないといけないんだった。


「不束者ですが、よろしくお願いします。」


「パパー、ユリねー、おなかすいちゃった!」


そんなユリアちゃんの声にいち早く反応したのはユグドだった。


「そうか、ユリアはお腹が空いたのか。じゃあパパが何か買ってきてあげよう。」


するとユリアちゃんはきょとんとした表情をしてユグドに言い放つ。


「?おにーちゃんだれー?」


現実は残酷だ。ユリアちゃんの言葉にユグドがフリーズした。


「え?俺はユリアのパパだよ。お母さんの旦那さんだよ。」


「えー?ちがうよー?パパはこのひとだもん。おにーちゃんはユリのパパじゃないよー?」


「・・・・・・」


ユグドがすっごい見てくる。俺は自然に視線を逸らす。それを見ていたセリアは爆笑している。


「ヨーヘーてめぇぇぇぇぇぇっ!!!!マジでぶっ殺すぞっ!!!」


「めっ!パパをいぢめないで!!おにーちゃんなんてきらいー!!」


「なっ!!?」


おー、ユグドがまたフリーズした。娘に嫌いって言われるなんて余程ショックだったんだろう。

世の中の娘を持ったお父さん達が高確率で通る道だ。ちゃんと乗り越えろよ。


「ユリアちゃんおいでー。パパが美味しいものあげまちゅからねー。」


「わーぃ♪パパだいちゅきーーー♪」


俺は魔法の袋からホットケーキを取り出して、ユリアちゃんに食べさせてあげた。

ホットケーキをあぐあぐと頬張りながら、幸せそうな表情をしているユリアちゃんの頭を撫でてあげる。いやー、可愛いなぁ。

お腹を抱えて笑っていたセリアは、ホットケーキが気になったのか、自分にもよこせと要求してきたので、魔法の袋から更に一枚取り出して渡してあげると一口齧った。

するとパァっと花が咲いた様な笑顔を浮かべ、幸せそうに残りのホットケーキを食べてしまった。


「ねぇっ!これどこで売ってるの!?もっと食べたいんだけど!」


「それは売ってないんじゃないかな?俺が作ったやつだし。」


「これキミが作ったの!?・・・ふーんそっか。そっかそっか。」


そっかそっか言いながら何かを考え込むセリアを訝しんで見ていると、「決めたっ!」と声を上げたと思ったら、俺を下から覗き込んできた。近い近い。


「ヨーヘー君、キミね。ウチのコックに決定しました。」


「は?」


唐突過ぎて展開についていけない。言っている意味を理解する前に、人差し指を立てながらドヤ顔で俺に言い放ってくるセリアを見て、そういう自身ありげなポーズが様になってるなぁなんて見当違いの事を考えていた。


「いやー、料理出来る人がいると助かるのよー。私が作るとなぜか黒い物が出来上がっちゃうしね。これ保存食なんだけど、見てよコレ。」


セリアは俺に黒くて硬い物を手渡してきた。


「・・・なにこれ?」


「干し肉。」


はぁぁぁぁぁっ!?ほ、干し肉だとぉぉぉlっ!?どうすれば干し肉がこんなことになるんだ!?もう炭だろこれ!!


「ほ、ほら、お肉って焼いた方が美味しいじゃない?ちょっとでも美味しくする為にアレンジしてみたんだよ。」


もうアレンジってレベルじゃねーよ!!食品とはまるで思えねーし!バーベキュー用の炭だと言われてたら違和感無く使うわっ!


「ま、まぁ、見た目はアレだけど、味は大丈夫よ?私が作ったんだし世界一美味しいに決まってるわ。ユリちゃんだって美味しそうに食べてたしね!ほら、騙されたと思ってちょっと食べて御覧なさいな。」


マ、マジかよ・・・どう見ても食い物には見えないんですけど・・・

それにユリアちゃんが美味しそうに食べてるように見えたのなら、その目は腐ってると言わざるを得ない。もう一度よーく思い出してみるといい。この炭を食べている表情とホットケーキを食べている時の表情を見比べてみろってんだ。

炭を手に持ちながらチラっとセリアを見ると、俺が食べるのを見張っていた。これ回避不能イベントなわけ?

・・・ふっ、いいだろう。ミイ師匠との修行時代に鍛えた、俺の不屈の胃袋の能力を遺憾なく発揮する機会がきたわけだ。アリアの料理が上手になってしまってからは出番があんまりなかったからな。

・・・それでもちょっと躊躇うなぁ。えぇい!南無三っ!!

ダークマターを口に入れた瞬間、口に広がる不快感。セリアのプレッシャーも後押しして、吐き気を抑えつつ無理矢理胃に流し込む事によって生まれる拒絶間。一度胃の中に入った物が逆流して、もう一度口の中で同じ味わいを再現してくれるというサービスまで付いて来る。正面に立つセリアが期待感に満ちた目で見てくる為に、吐き出すことも出来ずに飲み込むが、胃が受け取り拒否してクーリングオフという無限ループ。魔法の力で無理矢理押し込んでなんとか胃に収める事に成功した。


「うぎゃあああ~~~っ!!ぐおおおお~~~~ッ!!」



ぐっ・・・ハァハァ

く、くそぅ・・・なんだこれは?あれか?猛毒に打ち勝つことで己の中に隠れ持っているパワーを全て引き出すこのとできるあの水的なものじゃないよな?

は、半端ねぇ・・・痙攣が止まらないぜ・・・


「どう?意外とおいしかったでしょ?」


な、殴りたい。


「な、なんというか・・・この料理は・・・」


「うん♪この料理は?」


ニコニコした顔でこっちを見てきやがる・・・なんとなくだけど褒めないと身の危険がある気がする。


「ナンバーワンというよりオンリーワンの味だねっ!」


「えっ!?えへへー♪そっかー♪私だけの味かぁ~♪そう褒められちゃうとテレちゃうねー♪でもね、これ作るのすっごく面倒くさいの。というわけだから、コックの件、よ・ろ・し・く・ね。パーパ♪」


ズキューン


クソ・・・破壊力ありすぎる。セリアは自分の容姿を理解した上で、破壊力のある仕草をしてくる。そんな俺に出来る事といえば、


「しょ、しょーがねーなー。俺に任せておけって。」


正直この女に料理を作らせるのは危険だ。俺に任せてくれるのなら願ってもない事だ。


「うふっ♪期待してるわね。パパ。」


「お前はパパじゃなぁぁぁぁぁぁぁいっ!!」


あ、ユグドが石化から復活した。


「おま、お前、セリアにまで手を出したら許さんぞっ!絶対に許さんぞっ!!」


「パパをいぢめないでっ!」


「あぁぁぁぁっ!!違うんだユリア!そいつはパパじゃない!偽者なんだっ!本当のパパは俺なんだ!わかるだろう?さぁこっちへおいで。」


「やっ!」


俺を庇ってくれるユリアちゃんマジ天使。

タァマちゃんにしてあげていたように、ユリアちゃんを抱き上げて良い子良い子してあげる。


「きっさまぁぁぁぁっ!!俺ですらまだ抱き上げた事がないのにぃぃぃっ!!」


「あんまり俺に敵対するとユリアちゃんに嫌われるだけだぞぅ?」


「・・・・・・KILL」


暴れだすユグド、大笑いするセリア。俺を庇うユリアちゃんで宿の一室はカオスな感じになりました。宿屋のおっちゃんが引き攣った笑顔で注意してくるまでその騒ぎは収まらなかった。



そのまま宿屋で夕飯を食べることになったのだが、その席でセリアがこう宣言した。


「この街で神聖魔法を必要としている人はだいたい片付いたから、そろそろ次の街に行こうと思うの。」


セリアはこの時代の医学では解決できない治療を、神聖魔法で治療して回っているそうだ。

なんでも今年の始めに、この国の国王であるムヒョヒョンバッハ=カル=ラ=ルドールというふざけた名前を持った人物から聖女認定された際に、ルドール王国の聖女として救われない者達を治療して回ってほしいとの依頼を受け、それを承諾したとのことだった。

この漫遊、俺も参加しないといけないんだろうな。だって俺ヨウフェだもん。本当は一刻も早くアリアの元に帰りたいが、歴史を変えるわけにもいかない。歴史からヨウフェがいなくなることで、未来がどうなってしまうかを考えるのが怖い。最悪アリアやタァマちゃんやトリスも消えてしまうかもしれないしな。付き合うしかないだろう。

それにしてもムヒョヒョンバッハて・・・。俺は絶対にその王様とは会わないようにしよう。自己紹介で真面目な顔をしていられる自信がない。不敬罪とかで死刑になったら大変だ。

セリアによく耐えられたねと言ったら、式典の最中ずっと笑いを堪えて俯いていたという。この国の王族は独特のネーミングセンスを持っているらしい。

国民にとっては普通の事なので誰も気にしていないとか。ちなみに次の国王である王太子の名前はルルルンルンベェというらしい。俺ならグレるな。


それから旅の準備をしてルーメンスの街を出たのは2日後の事だった。

次は2日後は無理かもしれません。

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