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109話 ユードとヨウフェ

監視生活が始まって3日か経つ。

お預け状態のユグドは結構限界だ。

ちょっと目を離すとセリアさんの方にふらふらと歩き始めている。

そしてもっと深刻なのがユリアちゃんの食生活だった。

なんと言っても三食あの黒いデモンズ料理なのだ。あれは辛い・・・。

ユグド曰く、母の愛情の篭った料理が立派に成長するのに必要だと信じているらしい。辛い愛である。

セリアさんの行動は怪我や病気で困っている人達に神聖魔法を掛けて空いた時間でユリアちゃんとの時間を過ごすというサイクルで生活しているようだ。治療された人達は聖女様等と洩らしているのでセリアさんがセリアルであることは間違いないのだろう。


「ほれ、あんぱんだ。」


「すまんな。・・・というかなんでまたあんぱんなのだ?3日前に初めて食べた時はなんて美味い食い物だと思ったが、3日間全部あんぱんじゃないか。さすがに飽きるぞ。」


「張り込みをする時はあんぱんというルールがあるんだ。 黙って食え。」


「むぅ、そういうルールなら仕方ない。なぁ、牛乳をくれないか?あんぱんと牛乳の組み合わせは異様にうまいからな。」


「おう!わかってるねぇ。ほらよ。」


「・・・これをユリアに食べさせてあげたいな。」


俺もそれは心の底から思ってるよ。

牛乳をユグドに手渡したところで、黒尽くめの怪しい奴等がユリアちゃんと遊んでいるセリアさんに近付いている事に気が付いた。


「ユグド。」


「あぁ、わかってる。『バリア』」


ユグドの唱えたバリアは不可視の膜となり、セリアさんとユリアちゃんを優しく覆った。これで斬撃や魔法による攻撃ならある程度防ぐだろう。空気は通すので毒ガスとか使われたらヤバいけど。

黒尽くめの奴等は10人くらいでセリアさん達を取り囲む。囲まれたセリアさんは明らかに動揺していた。そして黒尽くめの男達は懐から鈍く光る抜き身の剣を取り出した。


「きゃぁぁぁぁぁっ!」


その光景を見ていた通りすがりの女性が甲高い悲鳴を上げ、辺りは一気に騒然としたが、黒尽くめ達は気にした様子は無い。

セリアさんの表情は強張っているが、ユリアちゃんを守ろうと身を盾にしているようだ。ユリアちゃんも小さいのに状況がわかるのか、今にも泣き出しそうだ。

だがこれがユードとヨウフェが助けるはずの出来事だろうと察する事ができた。


「神を冒涜する魔女めっ!その命を散らして神に許しを請うがいいっ!」


その言葉を合図にして、取り囲んでいた奴等の半数が剣をセリアさんに突き立てる。

周囲の人達が息の飲むのが聞こえてきた。目を逸らしている者もいる。

しかし、その剣を突き刺した手の感触から、黒尽くめの奴等は異変に気付いた。


「な、なんだっ!?」


殺したと思った相手が無傷なのだ。驚くのも無理は無い。

剣を突き立てられようとされていたセリアさんの周りにはバリアが張ってある。セリアさんを襲った剣は、彼女に届く事は無く、漏れなくそのバリアによって全てを防がれてしまっている。

驚いたのは黒尽くめの奴等だけじゃなく、セリアさんも驚いた顔をしている。そりゃそうだよな、自分は殺されたと思ったに違いない。

さて、そろそろかな。


「今のはさすがに死んでたよな?」


「あぁ、バリアが無ければ死んでただろう。ご丁寧に急所を狙ってやがったからな。いくらセリアでも治療出来ないだろう。」


ということは、俺達が干渉しなければセリアさんは死んでいて、歴史が変わっていたということだ。つまり剣に刺されるまでの間にユードとヨウフェが登場し、セリアさんを助けないと史実が狂うことになる。

その事から導き出される答えは・・・


「んじゃ、お姫様を助けに行きますかね。ユード君。」


「あいつ等は全員ぶっ殺す。援護しろよ?ヨウフェ君。」


そう。KYヨウフェ君の正体が俺である事が確定したのだ。若干微妙な気分になりながらも、ヨウフェ君は黒尽くめの集団に飛び込んで行くのだった。




それはもう戦いと呼んでいいのかわからないような一方的な戦いだった。

俺がバインドで全員を拘束し、ユグドが首を刈り落としていく。そんなとても簡単なお仕事でした。

勢いでやってしまったが人殺しの手伝いをしてしまった。実際に手を下してはいないが同じ様なもんだ。

魔物の命はいくつも刈り取ったけど、人族は初めてだな・・・。

こういう世界だから覚悟はしていたけど、やっぱりあんまり気分のいいものじゃない。


「・・・ユグド?ねぇ、あなたもしかして・・・」


「迎えに来たよ、セリア。随分待たせちゃったね。」


「嘘・・・ユグド?ユグドなの?」


「そうだよ、俺はロイト王国のユグド=フィー=ラグノイド。セリア=ローレンス・・・いや、セリア=ラグノイドが世界一愛した男だ。」


「あぁっ、ユグドッ!ユグドッ!ユグドォォォォッ!!会いたかったっ!会いたかったよぉぉぉっ!!うわーーんっ!」


「俺もセリアに会うことだけを考えて生きてきたっ!やっと・・・やっと捕まえた。もう絶対に離さないからなっ!!」


2人はこれでもかというくらいきつく抱きしめあっている。2人の顔は涙でグシャグシャだ。えぇ話やないかい。あれ?おかしいな、視界がにじんでらぁ。

目から出た汗を拭うと、2人の様子をポカーンと見ている子供に気が付いた。


「やぁ、キミはユリアちゃんだよね?怖くなかった?どこも怪我してない?」


俺が話しかけると、こちらを顔を向けてから自分の体のあちこちを見回している。


「うんっ!ユリどこもいたくないお!おにーちゃんはだぁれ?」


そう、この時はちょっと魔が差してしまったんだ。だって目の前であんなにイチャイチャされて妬ましかったんだものっ!


「お兄ちゃんはね。ユリアちゃんのパパだよー。」


「ユリのパパ!?ユリにもパパがいたの!?」


「はっはっはっ!よーしよし、ユリアちゃんは可愛いなぁ。いい子いい子。」


タァマちゃん成分が切れてきていたから、あの子と同じ様に頭をなでなでしてあげると、ユリアちゃんはすっごい笑顔で俺に抱きついてきた。


「きゃーーー、パパーーーっ!」


俺はユリアちゃんを抱き上げて、ヨシヨシとあやしてあげる。


「ほら、お腹空いてるだろう。あんぱんをお食べ。美味しいから。」


ユリアちゃんにあんぱんを渡すと、少し辛そうな表情をしてから恐る恐るあんぱんに噛り付いた。


「むぐむぐ・・・かたくない・・・むぐむぐ・・・あまいっ!?なにこれっ!むぐむぐむぐむぐっおいちーーー!」


「はっはっはっ、そうだろうそうだろう。あんなダークマターなんて食べたらいけないよ。これからはパパが美味しい物をたーーくさん食べさせてあげるからねー。」


「パパだいちゅきーーー!!」


餌付け成功。うんうん、子供は素直が一番だ。小さくて可愛い子はジャスティスだ。


「・・・おい、何やってる?」


ユリアちゃんを餌付けして可愛がっていたら、いつの間にかさっきまで脇目も振らずにイチャイチャしていた2人がすぐ近くまで来ていた。


「ユグド?この人誰?」


「あぁ、こいつはヨーヘーと言ってな、俺と一緒に未来から来た。セリアを見つけるのを手伝って貰ったんだ。アリアちゃんの事覚えてるだろう?こいつはアリアちゃんのコレらしい。」


ユグドは小指を立ててセリアさんに俺の説明をした。

それを聞いたセリアさんはニヤァっと笑い、俺を肘で突いてくる。


「ふーん、そおー、アリアちゃんのねー。あの子凄い美人になってるんじゃなぁい?キミもなかなかやるじゃない。このっこのっ。」


「いやー、やめてくださいよぉー。テレるじゃないですかぁ。そういうセリアさんも凄い美人じゃないですか。綺麗過ぎてユグドなんて死ねばいいのにって思うくらいに。」


「あぁっ!?」


「なんだこらっ!お前だけ幸せ感じやがって!俺がアリアに会うのに、これからどんな苦労すると思ってんだ!恨み言の1つくらい軽く流せや!」


「んっふっふー、キミ面白いねっ!そっかー、美人かぁ♪ユグド聞いた?美人だって。彼見る目があるよねー。」


俺に美人と言われた事が嬉しかったのか、その事でまたユグドに絡んでイチャイチャし始めたセリアさんだ。

くそぅ、ムカムカするぜぇ!何かこの空気を壊すようなネタはないだろうか・・・!

あ、そうだ。


「セリアさん。過去に来る前にそいつアリアと抱き合って、挙句の果てにキスまでしてましたよ。」


ふはははは、チクってやったぜ!俺のアリアに手を出した代償を受けるがいいっ!


「ちょっ!?おまっ!」


「おい・・・どういうことか話を聞こうか?」


ひ、ひぃぃぃっ!セリアさんの顔を見てしまった俺は戦慄してしまった。

さっきまであんな天使のような笑顔だったのに、今の彼女は鬼のようだ。ただその怒りの感情を向けられているのが俺じゃないので俺は大丈夫・・・のはずだ。。


「ち、違うんだアリア!」


おーい皆ー、ここにバカがいるぞー。


「・・・アリア?もしかして私の事?もしかして妻の名前間違えた?ねぇ?私の聞き間違いかな?ヨーヘー君だっけ?今こいつなんて言った?」


セリアさんは正直に言えよ?という目線と共に、言いようの無いプレッシャーが放ってくる。

ユグドはというと、とてつもなく動揺した様子だ。そして縋る様な目で俺を見つめてくる。

あぁ、わかってる、そんな目で見つめるなよ。知らない仲じゃないしフォローしてやるさ。俺も言わなきゃ良かったと若干後悔しているんだ。それにこいつに恩を売っておけば俺が元の時代に帰る為に力になってくれるだろうしな。俺に任せておけって!

ユグドはセリアって言いましたよ。こう言えばいいだけだ。簡単なミッションさ。


「ほら、早く言え。」


「はっ!ユグドは確かアリアと言っていたでありますっ!」


セリアさんの迫力に屈してしまった俺は、ビシッと敬礼付きで正直に話してしまった。

無理無理無理無理っ!絶対この人に敵対しちゃいけない。とんでもない威圧感だ。これが聖女と呼ばれる者なのか・・・。


「よろしい。」


どうやら正解を言えたらしい。俺に対するプレッシャーが無くなったのが感じられた。

反対にユグドはというと・・・何も言うまい。


その後は俺の中の聖女という存在の印象を見直さないといけない光景を目にするのだった。

折檻されるユグド。

もちろん抵抗や反論、言い訳なんて許されない。ただただ必死に許しを請うだけだ。

ボコボコにしては神聖魔法で治すの繰り返し。

・・・あれ?このやり口・・・なぜか知っている。俺の体が恐怖を思い出しているかのようだ。

周りの人も皆ビビっている。こんなことで新しいセリアル伝説が生まれなければいいなぁ。


10分後・・・

ボロ雑巾のようなユグドが道端に横たわっていた。

痣だらけのその体にはセリアという文字が浮かんでいる。

部分的にヒールを掛けて治った肌でセリアという文字を浮かばせているのだ。

セリアさん曰く、「それで私の名前を忘れないでしょう?セリアの名前がある部分だけ無事な事の意味を考えなさい。」だそうだ。


そんなやり取りがあったので、この場にいて一部始終を目撃してしまった1人の青年が、あの方を信じるものは救われるのだと勘違いしてしまっていた。そしてその青年こそが将来セリアル教というものを立ち上げる事になる。

ここから先は演劇にあったダイジェストと同じ進行になるので、すっ飛ばそうかある程度書こうかで悩み中です。

そしてストックが切れました。これからは書きあがり次第更新していこうかと思います。お楽しみにして頂いている方には申し訳ないのですが、何卒ご容赦を。

次の話はたぶん2日後くらいには更新出来ると思います。

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