表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いっちゃん(第二部)  作者: Thomas C. Knitter


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/29

第四十話「いっちゃん、レコードプレーヤーを買う」

大阪での生活が始まって一年。

真面目な仕事ぶりが認められ、いっちゃんの周りには温かな笑顔が増えていきました。 日曜日の午後、ふと手にした「ポータブルレコードプレーヤー」。

そこから流れるメロディは、彼女が自分の力で掴み取った「自由」の音色でした。


昭和三十六年。

大阪での縫製の仕事を始めて、一年が経とうとしていた。

縫製工場では、クラッチモーターを搭載した電動ミシンを使って仕事をしていた。五台のミシンが一斉に動き、私たちは息を合わせて縫い続けていた。

私は電動ミシンの作業にも慣れ、一日の終わりには、その日の集計の仕事もした。

社長さんから、

「いっちゃん、頑張っとるね〜。みんな褒めよるで」

と言ってもらうこともあった。

社長さんは、本当にいい人で私の生活面でもたくさん助けてくれた。住む場所はもちろんだが、日々、必要になる生活必需品は最初に一通り揃えて支給してくれた。

社長さんの奥さんもいい人で、時々、私や他の従業員を食事に呼んでくれ、お腹一杯食べさせてくれた。私はご飯があれば頑張れるので、ほんとにそれが一番嬉しかった。奥さんは買い物にも一緒に行って、洋服を選んでくれたりもした。私は母と買い物などしたことなかったので、奥さんのことを本当の母のように思っていた。


そんな、ある日曜日。

久しぶりに、私は一人で買い物に出かけた。


あちこちウロウロしていると、電気屋のテレビが見えた。

それに惹かれるように店内に入った。

テレビの値段を見て、とても買えないと思った私の目に、発売されたばかりの『ポータブル蓄電』という名の小型レコードプレーヤーが止まった。

トランジスタ式で、重たい真空管のものと違って持ち運びができるうえに、コンセントがなくても乾電池で動く。

電気を貯めて使うような感じだからか、「蓄電」いう名前が付いとるらしい。


シングル盤サイズのターンテーブルだが、LPレコードもかけられるよう、四十五回転と三十三回転の切り替えスイッチが付いていた。しかも、カバーを閉じると片手で持てるように取っ手が付いている。


(これ、ちょっといいかも)


値段は少し高かったが、給料の中でやりくりできるくらいだったので、私は迷わずこのレコードプレーヤーを買った。

それから、レコード店でいくつかレコードを買ってアパートに帰った。


部屋に入るなり、私はレコードプレーヤーに坂本九の『上を向いて歩こう』をのせた。

木琴系の軽やかな前奏が流れてきた。

机の上には伝姉と並んで撮った写真が飾ってある。

上山バスケットの仕事場で俊雄伯父さんが撮ってくれたものだ。

夕陽に照らされて、少し黄ばんで見えた。


私は部屋の窓を開け、外を見渡した。

操車場の向こうから差し込む夕陽に滲む大阪の街が見えた。


軽快なレコードの音が流れるうちに、私は成羽にいた頃のことが夢だったのではないかと思えてきた。

——いや、もしかしたら今が夢なのかも。

大阪という街が、私を変えたのかもしれない。


一方で、伝姉のことを考えれば、私一人、こんなに自由でいいのかとも思った。


渦巻く感情の中で、レコードプレーヤーだけがぐるぐると回り続けていた。


////////////////////////

「ポートレート」


(3番)

姉と二人並んだ

机の写真

夕陽に黄ばんで

時が過ぎた気がした


ターンテーブルの レコードは回る

遠く想いはめぐる

それでも一人 歩いてく

信じる未来へ 続く一秒


////////////////////////



第二部・完

「上を向いて歩こう」

レコードから流れるその言葉通り、いっちゃんは理不尽な過去を乗り越え、新しい一歩を踏み出しました。

少女から大人へと歩みを進めた彼女の、波乱万丈な「第二部」はここで幕を閉じます。

汽笛の音と音楽が重なる夕暮れ。

いっちゃんの物語は、これからも続いて行きます。


【作中登場楽曲に関する情報】

「上を向いて歩こう」 作詞:永六輔 作曲:中村八大 (歌:坂本九) JASRAC:010-0006-3

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ