表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/337

88 救世は利己的にしましょう3

 船が再び岸辺に着いた。

「ご苦労」

 岸辺をずっと走っていたらしい教会関係者を労ってやる。

「払っといて」

 船賃の支払いをマシュウに押し付けて、再び街を歩く。


「服とかは見ないのか」

「だってー、意味ないんですもの」

「見るだけでもいいじゃないか」

 例え着ることができなくても、気晴らしくらいにはなるだろう、とそちらへ足を向ける。

 口では意味がないなどと言いつつも、服を見ると瞳を輝かせている。やはり、慰めは必要だ。


「なにか試着でもするか」

 と言って、今の彰子が完全に幼女の姿だったことを思い出す。

「この格好に合う服を見ますわ」

 にこりと笑うその表情に、まだ言うことがあるのかと察する。


 入った店は裕福な平民が着るような既製服を扱う店だ。服を選び、用があるなら呼ぶ、と店員を少し遠ざける。試着室の内と外でひそひそと会話する。

「さっき同じ船に乗ったあの方はおじ様の部下ですか?」

「王家の犬だよー」

 茶化して答える。

「教会の人ではありませんから、まあいいでしょう。おじ様、教会ではあまりお食事をされませんように」

「お? 毒でも盛られるのか」

「常套手段ですわ。しかも、彼らには悪意はありませんの」

「善意で毒を盛るのか?」

「回復魔法を習得させるために、命を脅かす必要があるんですよ」

 黒い話だ。聖女の伝説を聞かせてもらったが、聖女達はことごとく窮地に立たされていた。あれも、彼女達を成長させるためにと狙ってやってたのだとしたら。


「どうですかー?」

「かわいいかわいい」

 着替え終わって彰子が姿を見せる。くるっと一回転して、スカートが翻る。

「よし、買おう!」

「いりません」

「遠慮するな、金はある」

 そもそも早川の金ではない。



「かわいかったのにー。買えばいいじゃないか」

「置くとこもないじゃないですか」

 店を出て、早川はぶちぶちと文句を言い募る。

「そもそも、あんな殺風景な部屋が間違ってる。花のひとつでも活けさせよう」

 露天の花屋を見つけて、適当に見繕って買う。小振りな花束は彰子に持たせる。花を見て自然とほころんだ彰子の表情に、早川も笑みが漏れる。


「おじ様、またこうやって一緒に出掛けてくれませんか」

「いいぞ。それにもっと聞きたい話も出てくるだろう」

 彰子は嬉しそうに微笑む。この分身体はどのくらいの年月、この世に留まっているのだろうか。

「彰子は初代の聖女の話とかは誰に聞いたんだ。当時の教会か?」

「それは、初代さんに直接……」

「ん?」

 彰子は自分の発言のおかしさに気づいて、ぴたっと止まる。

「私がなんでこの世に留まってるのかわかりましたわ! ただのお当番です!」

「え?」

「なんの悔いがあるんだろうって、ずっと考えてたのに! やっぱり、そんなもの全然なかったんです! 考えて、損した!」

 彰子はぷーっと膨れっ面をして怒っている。

「おじ様、またいつか交代してください」

「ええ、面倒だな」

「もう! 私に言わないで! じゃあ、一緒にやりましょう!」

 軽口を言い合いながら、二人は教会に戻る。



 彰子と別れたあと、教皇に別の部屋に案内された。

「今日は、お疲れさまでした」

「いえいえ。楽しかったですよ」

 教皇が自らワインを注いでいる。

「よろしければどうぞ」

 彰子の忠告が頭をちらつく。

 卓上に葡萄酒(ワイン)が注がれた杯が次々と並ぶ。その内のひとつを、教皇は口へと運んだ。

 毒はなさそうか。思い、杯を選んで飲んだ。


「もうひとつどうぞ」

 別の杯を飲む。

「もうひとつ」

 さらに勧められて飲む。

「まだありますよ」

「いや、もう結構」

 これで付き合いは果たした、と勧めを断る。教皇はにっこりと笑った。

「あなたは、本当に神に守られているのでしょうね」

「はあ……」

「あなたが選んだ杯以外には、毒が塗られていたのですよ」

 何をしやがる。と思うがとっさに返す言葉も浮かばず、ただ見返す。

「冗談ですよ」

 笑って言う教皇の口調は本当に冗談のような口調だが、冗談とも思えず早川は背中に冷や汗を流す。

 教会は伏魔殿だ、との認識を改めて強くするのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ